多頭飼いの原点

 幼い頃から猫のいる生活に馴染んでいた私だったが、多頭飼いには縁がなかった。そんな私が初めて複数の猫に囲まれる体験をしたのは高校生の頃のことだ。


 ある時、友人と泊りがけで遠方へ出かけることになり、その友人の親戚宅に泊めてもらうことになった。「猫がいるけど大丈夫?」と訊かれて「もちろん! 大好きだから大歓迎」と答えた私だったが、その数を聞いてさすがに驚いた。なんとその家には十四匹もの猫が暮らしているというのだ。しかも、繁華街に近いマンションのため完全室内飼育だという。自由気ままに猫が出入りする田舎暮らしの私にはそれもまた驚きだった。


 当日ドキドキしながらお邪魔すると、今で言う猫カフェのような景色が広がっていた。すり寄ってくる子がいれば、隠れる子、警戒する子、無視する子もいて反応は様々だ。


 実家の猫と明らかに違っていたのは、どの子もふくふくもっちりとしていたことだ。その動きさえおっとりと品良く見える。恐らくは室内で穏やかに暮らす猫と、ネズミを捕ることを生業としている猫との違いなのだろう。


 私は、すり寄ってくれる何匹かの猫を相手に至福の時を過ごした。遠巻きにする猫たちの様子を見ているだけでも幸せだった。食事宿泊付きの猫カフェを想像していただければ私の気持ちがわかるかもしれない。そしてその晩、更に私を驚かせることが起こった。そのうちの一匹が、私の布団に潜り込んできたのだ。


 その子は茶トラの大きな体を遠慮なく布団にねじ込み、中でくるりと向きを変えると私の右脇にぴったりと寄り添って腕を枕に寝息を立て始めた。猫と一緒に寝るのは初めてではなかったが、まさか初対面でこんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。こうして私は寒い冬の夜をほこほこと暖かく過ごすことになった。


 翌朝、私の右腕は痺れていた。その後暫く不自由な思いをしたけれど、今思い出しても幸せな痺れだった。残念ながら二度とそのお宅を訪れることはなかったので、最初で最後の思い出だけれど。


 あのとききっと、私の中に多頭飼いへの憧れが芽生えたのだろうと思う。そして今、私の足元にはさくらが寝そべり、スツールでうめが毛づくろいをし、キャットタワーの頂上からももが私を見下ろしている。みんなふくふくもっちりだ。私を幸せにしてくれるこの子たちを、私も幸せにしてあげなければと思う。あの日出逢った猫たちがそうであったように。

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