思い出の中の猫
子どもの頃、私の実家ではずっと猫を飼っていた。もうウン十年も前の話でかなり記憶はあやふやだ。その名前すら怪しい。ただメスの三毛猫で、とても賢い猫がいたことははっきり覚えている。
私が18まで暮らした実家はポツンと一軒家に出てきそうな山の中の、築100年を超える古民家だ。そう言うと聞こえはいいが、単なるボロ屋である。断熱など無縁のその家は夏こそ涼しくて快適だが、冬になると隙間風が吹き込んだ。残念ながら今は空き家になってしまっている。
田舎のボロ屋には必ずネズミが住んでいる。そこでその対策として猫が飼われることが多い。我が家も恐らくはそうした理由からだっただろう。
実際に猫はネズミを捕まえるのかと訊く人がいる。現代のペットとしての猫しか知らない人には想像ができないかもしれない。そもそも猫が人と暮らすようになったきっかけがネズミの駆除なのだから捕まえられなくては困るのだけど。今でも穀類を扱う農家などでは現役だと聞いたことがある。
うちにいた猫たちはその辺しっかりと働いていた。何度か猫が捕まえたネズミを見たことがある。というか見せに来るのである。私たちのそばまでやって来て咥えたネズミをぽとりと落としドヤ顔をする。しっかり働いたので家族は皆賞賛を惜しまない。気を良くした猫はますます働いてくれるというわけだ。
もちろんその後は召し上がっていらっしゃったはず。はずというのは、取られないように隠れて食べることが多かったから。誰がそんなもん取るっちゅうねん!お食事中の方、ごめんなさい。オエッ。
特に子猫がいる場合、捕まえたネズミに致命傷を与えず、子猫に狩りの練習をさせることがある。その時子猫がいたかどうか定かではないが、ある時、いつものように捕まえたネズミを自慢しに来た。そしてこれまたいつものようにその場に落としたその瞬間、突然ネズミが息を吹き返し逃げ出してしまったのである。その時の猫の慌てぶりと言ったら!散々追いかけ回した挙句そのネズミには逃げられてしまった。猫には気の毒だが、何とも貴重な体験をさせてもらったものだ。
母は更にとんでもない体験をしている。うちの猫は母にとてもとても懐いていた。子猫を産んだ時、自分が出かける際には野良仕事をする母のもとに子猫を運んで子守をさせたくらいだ。それくらい信頼していた。なので、母には感謝の貢物も欠かさなかった。朝、目が覚めると枕もとにネズミの……以下自粛。
今思えば、現代とは随分違う猫との付き合い方であった。
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