ももとの出会い

 初めての飼い猫さくらとの生活が安定してきた頃、私たち夫婦の間で持ち上がったのはひとりっ子問題だった。


 それは人間でも悩む夫婦が多いのではないだろうか。ひとりっ子はかわいそうという根拠のない思い込み。それを猫にまで当てはめるのはナンセンスかもしれないが、さくらを置いて出かけるたびに私たちの胸に去来したのは、ひとりで留守番させることへの申し訳なさだった。


 生き物を飼うことはとても大変だと実感していた反面、その抗いがたい愛らしさにメロメロになっていた私たちにとって、さくらの幸せが第一義になっていたことが大きいかもしれない。


 いやいや、単に可愛い猫が増えたら嬉しいってだけの自己中な考えだろう(汗)


 親子や兄弟でない猫を一緒に飼うことは簡単ではない。いくらトライアル期間があるとはいえ、相性は長い目で見ないとわからない。相性が悪ければ、仲良く遊ぶどころか相当なストレスをさくらにも、新しく来る猫にもかけることになる。


 様々な議論を経て、さくらが我が家にやって来た約1年後、例の保護団体の譲渡会に行くことになった。私たちがあれこれ悩むより、猫のスペシャリストであるスタッフに相談する方が手っ取り早いからだ。


 日曜日、私たちは胸を踊らせながら譲渡会の会場に足を踏み入れた。1年前と同じようにたくさんのケージとたくさんの子猫たち。その状況で私たちが冷静でいられるわけはなかった。


 スタッフさんたちにさくらの飼育状況を写真を交えながら説明した後は鑑賞タイムだ。昨年にも増して「可愛いねえ」を連発しつつ次から次へと子猫を見て回った。


 その中に、ひと際目を引く変わった猫がいた。それが後に私たちの家に来ることになるももとの出会いだった。

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