猫かぶり
4時過ぎに、さくら(この時はまだ違う名前だった)が担当さんに連れられてやって来た。
キャリーケースの中で目をギョロギョロさせていたさくらは、その時恐らく生後3ヶ月程だった思われる。頭の先からお尻まででおよそ20センチくらいだったか、丸くなれば両手に収まるほどの大きさだった。当時の写真を見ると、顔はシュッとして小さく、耳が異様に大きい。手足は細く長く、被毛がなければガリガリに痩せて見えたことだろう。
ステイの準備は貸し出しケージの組み立てから始まった。担当さんは慣れた手つきでどんどん作っていき、私たちが手伝うこともないくらいだったが、最後に上蓋を取り付ける際に少しばかり手間取った。
「子猫だし、蓋はいらないのでは?」
1メートル程の高さがあったので、蓋がなくても十分に思えたのだ。私の提案に、担当さんは不敵な笑みを浮かべた。
「猫の身体能力を侮ってはいけません。」
正確ではないが、そんな風なことを言われて、ふ〜んと思った覚えがある。その言葉の意味は、その後様々な場面で実感することになる。
組み立てが終わり、ケージの中にトイレやベッドをセットして居場所作りが終わると、いくつかの連絡事項を伝えて、担当さんはあっさり帰ってしまった。必要があれば、電話かメールでやり取りしましょうとのことだった。
多少の不安を抱えながらも、私たちはやっとひと息つくことができた。一方、ケージの中のさくらは、初めこそ緊張した様子だったが、そのうち水を飲み、トイレでいきなり大きい方をして大物ぶりを見せつけた。
話は逸れるが、犬と猫の大きな違いにトイレの躾がある。うちには3匹の猫がいるが、どの子も躾をしていない。猫は本能的に用を足していい場所を理解しているのだ。その点では本当に楽である。
さくらが落ち着いた様子だったので、私たちは満を持してケージの扉を開けた。恐る恐る外に出てきたさくらは、鼻をヒクヒクさせながら、念入りに部屋中を探索して回った。
ひと通り部屋の確認が終わると、今度は私たちに興味を示した。さくらは、まるで初めからうちに住んでいたかのように私たちに甘えた。頭をこすりつけ、猫じゃらしにはしゃぎ、腕の中で喉を鳴らした。
言うまでもなく、私たちはこの愛らしい生き物に夢中になった。飽きもせず眺めては「可愛いねえ♡」を連発し、代わる代わる抱きかかえてはその柔らかな被毛に頬ずりをした。
今思えば、この時既に、私たちはさくらを手放せなくなっていたのだろう。この5日後、私たちは正式にさくらを我が家に迎え入れた。さくらの本性が明らかになるのはその後のことだった。
引っ張るねえ(笑)
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