トライアル
「他に可愛い子はたくさんいるのに、よりによってなんでこの子?」
いつもの私なら、夫の決定を軽く覆す発言をするところだろうが、この時は夫に任せようという初志を貫いてグッとこらえた。
後に、この時の私の葛藤を夫に伝えたことがある。その時夫は心底驚いていた。さくらの見た目が他の猫に劣っているとはまるで思わなかったそうだ。審美眼の違いと言えばそれまでだが、もしかしたら、夫は私が見えていなかった他の何かを見ていたのかもしれないと、今となってはそう思う。なぜなら、その後のさくらは驚くほど美しい猫(親の欲目含む)へと成長し、しかも、飛び抜けて賢く気高い猫の中の猫となったのだ(くどいようだが親の欲目MAX)。
飼いたい猫が決まったら、そこからはあっという間に話が進んだ。書類で譲渡の条件を確認し、約1週間のトライアルの説明を受けた。保護団体の人が家まで来て飼育環境を確認し、オッケーが出れば猫を実際に世話してみて、問題がなければ譲渡が決定するシステムだ。
初めて猫を飼う私たちのために、組み立て式のケージ、猫トイレ、更には普段食べている餌等を一式貸してくれるので、準備が必要なものは殆どない。
私たちは、夕方にはやってくる子猫を思い、ワクワクしながら家路についた。念の為言っておくと、出掛ける時には子猫を見に行くだけのつもりだったのにだ。いつの間にやら夫もすっかり乗り気になっていて、いいのかほんとにとひとり突っ込みを入れつつ、この怒涛の展開に私はニヤニヤが止まらないでいた。
家に帰ってからは、子猫のためならばと、普段は嫌いな掃除と片付けに励んだ。その際は、のびのびと走り回れるように、床を広く使えることを心掛けた。
しかしこの後、私たちは猫の生態をまるで理解していなかったことを痛感する羽目になる。
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