猫を見る目

 夫は俄然やる気を出した。


 ぐるぐるとケージを見て回り、気になる猫がいれば抱かせてもらった。


 抱かせてもらったと簡単に書いているが、実際のところ、まともに猫を触ったことが無い人が猫を抱くのは簡単ではないと、私はこの時初めて知った。


 猫の方も抱き慣れていない、ましてや見ず知らずのおっさんに抱っこされるのは不愉快なようで、大人しくしている子は皆無だ。


 そんな状況の中でも、夫は時に質問を交えながら熱心に子猫と向き合った。いつの間にか、見に来るだけだったはずの譲渡会は、どの子を連れて帰るかの品定めの段階に入っていた。


 それは私にとって願ったり叶ったりの展開ではあったけれど、逆にいいのかしらと不安になる状況でもあった。


 そんな私の胸中など知る由もなく、夫は遂に1匹の猫を選んだ。


 それがさくらだ。


 私は、選ぶ権利を全面的に夫に譲っていた。私のいわばわがままから始まった話なので、そこは夫に任せようと決めていた。その方が愛着が湧くという計算もあった。


 しかし、夫の決定に私の心はざわついた。


 痩せこけた体、鋭い眼光、いかにも気の強そうな雰囲気、決して可愛いとは言い難い見た目。最初に夫が気に入ったあのキジトラとはまるで雰囲気の違うワイルドな猫を夫が選んだからだ。


 あまたいる子猫の中から、なぜこの子を選ぶのか、その時の私にはどうしても理解できなかった。

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