譲渡会

 飼うなら保護猫と決めていた私は、地元の保護団体の譲渡会に夫を誘った。


 そこは熱心な団体のようで、今でも毎週日曜日に市内のどこかしらの施設を間借りして譲渡会を開いている。


 その時は確かペット用品店の2階だったと思う。少し緊張しつつドアを開けると、教室くらいの広さの部屋の真ん中にテーブルが並べられ、その上に子猫の納まった小型のケージがいくつも載せられていた。


 20匹くらいはいただろうか、これ程たくさんの子猫を間近に見られることはまずない。私は既にテンションマックス状態。どの子も可愛くて仕方がなく、見るだけのつもりが、連れて帰りたくて仕方なくなっていた。


 一方、夫の方もまんざらではない様子。特に、キジトラの美猫が気に入ったらしく、何度もケージを覗き込んでは「可愛いね」を連発していた。


 周りでは連れて帰る気満々の人たちが猫の性格や普段の様子を熱心に聞いたり、実際に抱っこしたりして真剣に選んでいる。その様子に、夫の気持ちも引きずられているようだった。


「せっかくの機会だし、パパも抱っこしてみたら?」


 私の提案に夫は動揺した。そうしたいのは山々だが、何せ一度も抱いたことがないので、なかなか勇気が出ないようだ。


「キジトラの子が気に入ったんでしょ?触ってみたらいいのに。」


 私のダメ押しに、遂に夫が動いた。


 ところが!


 さっきまで机の上にあったそのケージが、気づけば他の場所に移されていた。訊くと、候補の方が決まったとのこと。人目を引く美猫だったので当然といえば当然だが、夫にしてみたら、やっと勇気を出して告白する気になった女の子が、目の前で他の男に告白されてOKを出したのを見せられたようなものだ。


 そこで意気消沈して退散するか、盛り上がった気持ちを他にぶつけるか。


 夫は後者だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る