アフターストーリー13 夏の一日

「なぁ楓さんや?」

「う~ん。何だい健吾さんや?」

「・・・俺の膝枕気持ちいいのか?固くない?」

「う~ん。私はケンちゃんの一緒に居れれば満足だから♪

 それに言うほど固くないしこの角度から見るケンちゃんも新鮮だし♪」

「そういうもんか?」


8月某日。

今日も夏休みなわけだけど部活もバイトもなく完全にオフな1日だ。

"受験生なんだから勉強しろよ!"

という当然の話もあるけどここ数日は勉強も頑張っていたので楓とも相談して休息日ということにしたんだ。


最初は"どこか遊びに行こうか"とか言ってたんだけど外は異常なほどの暑さでアパートの外に出たところで挫折。

夏の暑さは好きだけど暑すぎるのもね。


ということで出掛けるにしても日が陰った夕方からかなということで、今はエアコンの利いた俺の部屋で雑誌を読んだりスマホを弄ったりとダラダラ時間を過ごしていた。


最初の内は2人並んでベッドに座り壁に寄りかかりながら旅行雑誌を見て色々と話をしていたんだけど、いつのまにやら肩にもたれ掛かっていた楓が俺の膝を枕に・・・という感じだ。

逆じゃね?とか思いつつも嫌ではないんだけどね。

そんな状況でスマホを見ていた楓が話しかけてきた。


「でもさ、受験が終わって、高校卒業したらみんなバラバラなんだよね」

「・・・そうだな。裕也と浜野さんは専門行くって言ってたし福島と村田さんは都内の大学を受験するとか言ってたもんな。あ、長谷部は俺達と同じで川野辺大だよな」

「うん。みんな将来やりたい事とかあるから仕方がないけど何だか寂しいよね」


確かに寂しいけどこればかりはな。

皆将来の夢とか希望もあるだろうし、家庭の事情とかもあるだろうからな。


「でもさ、藤原や森田さんも川野辺大を受けるって言ってたし、新しい出会いもあるだろ。それに恩田先輩や小宮先輩、コーチたちも居るしな」

「うん。そうだよね。あ、夏川さんも川野辺大受けるとか言ってたから一緒にバスケ出来るかもだよね」

「そういうこと」


でも夏川さんも川野辺なんだ。地元の大学だし他にも受ける奴いるのかもな。



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夕方になり気温もだいぶ下がってきたので、俺達はアパートを出てブラブラと川野辺駅方面へと向かった。

特に何か目的があったわけじゃないけど家の中で一日終わるのもね。


「あっ!」

「どうした楓?」

「もう川野辺天神のお祭りの時期なんだね」

「何だか1年経つの早いよな」

「そうだね」


楓が指さす先には町内会の掲示板とそこに貼られたお祭りの案内があった。

そうか。もうそんな時期か。

去年はみんなで行って楽しかったよな。


「今年も楓は浴衣着てくのか?」

「うん。去年ケンちゃんに褒められたし♪」

「そか。じゃあ俺も今年は浴衣着てみようかな。去年福島が良い感じだったしさ」

「え!ほんとに!じゃあさ、おそろいで浴衣買おうよ!綾達に負けてられないyよね」

「お おぅ」


気合入ってるな楓。。。っていうか去年悔しかったのか?

確かに去年の福島と村田さんは、おじさんたちに譲ってもらったとか言ってたけど、お揃いのデザインで凄くいい感じだったもんな。


ということで浴衣は祭りまでにショッピングモールに買いに行くと言いうことにして、今日は夕飯がてら裕也の実家の居酒屋に行くことが決まった。


「いらっしゃい!って健吾と小早川かよ」

「"かよ"はないだろ裕也?ちゃんとしたお客だぜ」

「まぁそうだけどな。飯食いにいたんだよな?まだそんな混んでないし空いてるところ座ってくれよ」

「あぁありがとな」

「あ、いらっしゃい田辺君、楓ちゃん」


調理場の奥から割烹着を来た浜野さんが出てきた。

裕也も板前着を着てるし2人が並ぶと何だか様になるな。


「でも、裕也が店に出てるってことはおばさん体調悪いのか?」

「いや、最近は調子いいし後で出て来るけど少し料理の練習も兼ねてな」

「でもいまだに信じられないよ。裕也が料理人目指すとか」

「そうか?一応実家が飲食やってんだしおかしくはないだろ?」

「まぁそうだけどな」


この店はおばさんが1人で切り盛りして時々裕也や浜野さんが手伝いをしてたんだけど春先におばさんが倒れてしばらくお店も休んでたんだよな。

幸い深刻な病気ではなかったけど年齢も考えるとな・・・


そんなこともあり裕也は高校卒業後、調理師免許を取得するため市内の調理師学校に通うんだそうだ。

おばさん的には自分の事は気にせずに大学に行って好きな事をやって欲しいって言ってくれたらしいけど、裕也としてはおばさんを楽させたいとの思いがあったらしい。


「そりゃ、お前らみたいに大学行って、もう少しバスケもやりたいかなとか考えたりはしたけどさ、そこまで勉強が好きなわけでもないし、いつかは店継ぎたいと思ってたから将来に備えるのも悪くないかなってな」


「将来ねぇ・・・ちなみにお店は美玖ちゃんと継ぐんでしょ♪」

「ま まぁもちろんそれも考えてるけどな」


おっ!確信つくねぇ楓も。

でも裕也もその考えはあるんだな・・・ってなんで目が泳いでるんだ?


「ふふ 実は先週末私の誕生日だったんだけどプロポーズされちゃったんだ♪」

「え!なにそれ本当!!」

「うん♡ 専門学校卒業してお店が落ち着いたら入籍しようって。

 ちゃんと私の両親にも挨拶してくれたし」


「マジか!」

「え~ いいなぁ~ ケンちゃん私たちも結婚しようよ~」

「ま まて落ち着け楓。俺達まだ高校生だし大学も行くんだからさ。

 そ それにしても裕也。随分急だな?」


専門学校卒業してから入籍なら今じゃなくても。


「まぁ卒業してからでもよかったのかもしれないんだけど、進学先にも男も居るからな。美玖は可愛いし変な虫がつかないようにって予防も兼ねてだな」

「もぅ私は裕也一筋って言ってるのに・・・

 それに私は裕也が他の女の子に浮気しないかの方が心配だよぉ~」

「お 俺だって美玖一筋だぜ」

「ほんと?嘘つかない?」

「本当だよ」


裕也も浜野さんも俺達が居るの忘れてるだろ・・・・


その後、裕也と浜野さんが作ってくれた熱々の試作品料理と惚気話をたっぷり頂お腹一杯の夕飯となった。

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