アフターストーリー09 -全国大会へ③-

試合の翌日。

俺達は市内の体育館の観客席に来ていた。

今から女子バスの初戦が行われるからだ。


「大丈夫かな綾子達」


珍しく福島が心配している。

相手は昨年の優勝校 東京女子学院。福島の気持ちもわかる・・・だけど


「行くよみんな!相手は強いけど私達も負けてない!勝つよ!」

「「はい!!」」


村田さん・・・皆も気合十分みたいだな。

先発メンバは楓、村田さん、大室さん、鮎川さん、吉見(妹)だ。

浜野さんや美里ちゃん達は後半戦に温存している感じか。



第1クォーター。

東京女子学院は、PGの田神とSGの中田を中心とした速攻型のチームだが、試合開始早々にボールを拾った田神がチェックに入った大室さんと吉見(妹)をフェイントでかわし中田にパス。中田がこれを丁寧に決めて先制点を得た。

大歓声の東京女子学院側応援席。


聞いていた通りの速攻に正確なシュート。

ただ、相手が強いことは最初からわかっていた事。

村田さん達は冷静に相手のスピードに対抗するためゾーンディフェンスを組んで対応。そしてボックスワンで村田さんが田神を抑えに入った。


「くっ!雫先輩がコーチについてるだけはあるわね!」

「お褒め頂きありがと♪じゃもっと褒めて貰いたいから勝たせてもらうわね!」

「なっ!」


田神が見せた一瞬の隙に村田さんがボールをカット。

すぐさま相手コートに走りだしていた楓にパスを送り得点を決めた。


「ナイスシュー楓!」

「綾こそナイスカット!」


ハイタッチをする楓と村田さん。


が、この攻撃で相手を本気にさせてしまったのか第1クォータ、第2クォータと川野辺高校は守り主体の試合となってしまった。

しかし、劣勢になりながらも村田さんが田神を抑え、途中交代で入った浜野さんの連続3ポイントなどもあり、リードは許したもののわずかな得点差で第2クォータまでを終えることが出来た。


第3クォーターからは運動量豊富な1年生3人が投入された。


「美里、芳江、幸。3人は後の事は考えなくていいからとにかく動いて得点を狙って!」

「「「はい!!」」」


コーチの指示に従い3人はコート内を走りまくった。

そして、疲れの見え始めていた相手の守備を崩し次々と得点も重ねていった。

特に美里ちゃんの動きは全国大会常連の女子学院の選手にも引けを取らず、得点力、突破力とその存在感をアピールした。


「藤原の妹凄いな。前から上手いとは思ってたけど優勝候補の選手に負けてないぜ」

「全くだ・・・それに他の2人も良い動きしてる。楓達にもついていってる。

 他の新入部員も経験者が多いみたいだし女子バスは来年も安泰だな」


福島をも唸らせる藤原妹。うちの高校に来てくれてよかったよ本当。



そして迎えた第4クォーター

得点は川野辺高校が1点リードした状態。

疲れが見えてきた田神を村田さんと再びコートに戻った大室さんが完全に抑え込み試合の主導権も掴んでいた。

そして、


「くっ!」

「ナイス小春!」


田神が前線の中田にパスを出すが、先読みした大室さんがカットした。

残り時間も数秒だ。リードは1点と僅差だけどこれで・・・


「小春!後ろ!」

「え?」


が、走りこんできた中田が大室さんが持っていたボールを下から弾いた。

そして、弾かれたボールを再び田神が拾いロングシュートを放つ。


[シュパ]


静寂の中、放たれたボールは長いたいっくう時間を経て綺麗にリンクに吸い込まれた。

そして同時に試合終了。

最後の数秒での逆転負け。


「また・・・また私のせいで・・・」

「そ そんなこと無い。小春のせいじゃないよ!」


また?昔何かあったのかな。

膝をついて泣き崩れる大室さんとそれを慰める鮎川さん。

村田さんや楓達もショックから呆然としている。




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試合後。

俺や福島、裕也は楓達の事が気になり選手控室まで来ていた。

しばらく待っているとミーティングを終えた女子バスのメンバーが出てきた。

その中で俺に気が付いた楓が駆け寄ってきた。


「ケンちゃん・・・応援に来てくれてたのに勝てなくてゴメン」

「何言ってんだよ。いい試合だったぜ。それより楓・・その・・大丈夫か?」

「うん。悔しいことは悔しいけどやるだけは・・・やったしね」


そう言いながらも俺に抱き着いてくる楓。

泣いてる・・・やっぱり辛いよな・・・・俺達にとっては最後の大会だったし。


「さっき綾達とみんなで泣いたから大丈夫だと思ってたけど、ケンちゃんの顔見てたら・・・・最後の大会だし一緒に決勝まで行きたかったな・・・」


俺はそっと楓を抱きしめ頭を撫でた。


「楓達の分も頑張るよ」

「うん。明日からはケンちゃん達応援するから」


これでますます負けられなくなったな。


「あ、そういえばさ・・・試合が終わった時に大室さんが"また"って言ってたのが聞こえたけど昔何かあったのか?」

「あぁ・・・別にあの子のせいじゃないんだけど・・・中学の時の県大会で小春のシュートが最後決まらなくて。難しいシュートだったし仕方ないんだけど凄く気にしちゃって・・・"シュートが決まってれば勝てたのに"って。

 私も試合は見に行ってたけどあれは仕方ないよ。でもあの時も凄く落ち込んで大変だったの。結構責任感が強いというか気にするタイプなのよね」


そう言うことか・・・確かにそういうのって結構引きずるからな。

明るいイメージの子だけど抱え込んじゃうタイプなのかな。


「楓も無理しないで辛いときは俺に甘えてくれてもいいんだからな」

「やっぱり・・・ケンちゃんは優しいな。大会が終わったら沢山甘えさせてもらうよ」




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<鮎川 瑞樹視点>


試合後のミーティングの後、小春の落ち込み具合が酷かったから私は村田部長に許可をとって小春を連れて体育館近くの噴水広場に来ていた。

体育館は県立公園内にあり陸上競技場やテニスコート、プールの他にも芝生広場や噴水広場といった市民の憩いの場も備えている。


「もう!小春元気出しなさいよ!」

「・・・うん」

「コーチや雫さんも言ってたでしょ。あれは相手が上手かっただけで小春のせいじゃないって」

「でも・・・」

「あぁもう・・・そういう思いつめちゃうの悪い癖だよ」


普段は凄く明るいのに・・・責任感が強いというか・・・中学の時も凄く責任感じちゃって・・・ん?あの時は・・・結局何がきっかけで立ち直ったのかな?

私が慰めても中々立ち直らなかったのがいつの間にか復活してたけど。

などと考え始めたところで私と小春は男性から声を掛けられた。


「あれ?鮎川さんに大室さん?」

「・・・って渋沢君?」

「え!何で渋沢君がこんなとこに居るの!?」


クラスメイトの渋沢君だ。

川野辺の公園とかなら地元だし出会う可能性もあるけど・・ここ名古屋だよね?

それに何?さっきまでと小春の表情も声音も全然違うんだけど・・


「え、あぁそうだよな。実は友達が大会に出ててさ旅行も兼ねて応援にね」

「お友達が?」

「ほら、2人も知ってるだろ?栗平さんと付き合ってる鶴間大和だよ。川野中で一緒だっただろ?あいつ倉北学園に通ってるんだけどテニス部でシングルスの代表に選ばれたんだ。2人はバスケ部で大会参加だよね?」

「鶴間君か。うん覚えてるよ。・・・私達は・・・さっき負けちゃって・・・」

「・・・そっか・・・お疲れ様。負けたにしても大室さんはベストを尽くしたんだろ?だとしたらもっと堂々としてもいいんじゃないかな。全国大会に出れただけでも凄いんだし、僕みたいな運動音痴からしたら尊敬もんだよ♪」

「・・・ありがと。そうだね堂々として良いんだよね」


あれあれ?何この展開?


「そういうこと。あ、そろそろ行かないと午後から鶴間の試合なんだ。

 じゃまた学校でな!」

「うん♪」


公園内のテニスコートの方に向かう渋沢君を見つめる小春。

ふ~ん何だかちょっと悔しいけどそういうことなのね。

そういえば中学3年の時も渋沢君って私達とクラス一緒だったよね。

もしかしてあの時も?

・・・小春も相談してくれればいいのに。


「小春。宿舎に戻ったら色々質問ね」

「ふぇ?」


*****************

「あなたの事が好きになったのかもしれません」の過去エピソードの1つとして鮎川視点の話を書いてみました。アフターストーリーでは、もう1つ過去エピソードが入る予定です。

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