第162話 引退試合
「「よろしくお願いします!」」
3月某日の日曜日。
川野辺高校の体育館には俺達1,2年の男女バスケ部員と引退した3年生メンバーが集まっていた。
卒業式を週末に控えて。これから1、2年生からなる現役レギュラーチームと3年生チームの最後の練習試合が行われる。
「こうやって試合するのも久々だな。今日は楽しませてもらうが、僕たちに遠慮して手を抜いた試合とかするなよ」
「先輩達相手にそんな余裕無いっすよ」
小宮先輩と福島の新旧部長挨拶の後、牧村コーチと三上コーチ審判の元ゲームが開始された。
ジャンプボールは長谷部と森野先輩。
「清水!田辺!点とってこい!」
気合十分の長谷部が僅かながらに競り勝ち弾かれたボールは俺の方に飛んできた。ボールを受けた俺はドリブルに入ろうとするが、前には小宮先輩と畑先輩。
「どうした。点を取るんだろ?」
ディフェンスに定評のある2人のダブルマーク。正直抜ける気がしない。
でも・・・俺は正面から2人の方に向かいマークを引き付け直前で背後に走りこんできた吉見へノールックパスを出した。
「ナイス田辺!」
[シュパ]
吉見の3ポイントが綺麗に決まる。
「上手く吉見を使ったな」
「本当は先輩達抜きたかったんですけど・・・厳しそうでしたし」
「いや。それでいい。試合はチームで戦ってるんだ。無理して一人で勝負を賭けることはないさ。その状況判断力大切にしろよ!」
「はい!」
先制点は現役チームが取ったけど、ブランクがあったとは言え流石先輩達ということで試合は接戦。北島先輩が福島や裕也を上手く抑え森野先輩、佐藤先輩にボールを回す。本当今日の北島先輩はキレが良い。
「浩紀その調子よ!!」
「おぅ」
女子バスの吉川元副部長の声援。夏祭りでも仲良さそうにしてたけどやっぱり付き合ってるのか?
などと余計なことを考えてるうちに福島が何とかボールをカットし前線へ。
「清水!」
「健吾あれやるぞ!」
と裕也はマークを引き寄せたところでゴールへ向けて超ロングシュートを放った。
"あれとか言っちゃ駄目だろバレるって・・・"
裕也の放ったボールを追いかける様に走りアリウープを狙う。
が、バレてたら当然の様に邪魔は入るわけで俺の前には小宮先輩と畑先輩が。
"まぁそりゃそうだよな"
と俺の横を走り抜ける形でフリーの長谷部が走りアリウープを決めた。
背後にはフォローの吉見も居た。
「誠く~んカッコいいよ~」
バレー部のジャージを着た湯川さんだ。彼氏の長谷部を応援か?
部活の途中なのか川野さんほか数名のジャージ女子も応援してくれている。
ジャンプ力だけなら俺が部で一番あるけど、長谷部は俺より少し身長高いからギリギリ高さ的に裕也のボールに届くんだよな。
「なるほど。あからさまなプレイだと思ったけど田辺はダミーでフリーの長谷部を使う作戦か」
「俺も最初は気が付きませんでしたけどね・・・清水の作戦だと思います」
「中々やるな。清水も元々はPGだ。福島と2人上手く機能すれば武器になる。頑張れよ」
「はい」
って俺はたいしたことしてないけどね(折角の見せ場が・・・)
その後は、1年生とも交代し先輩達との試合を楽しんだ。
1年生も栗田を筆頭に横山、日吉と皆だいぶ成長した。
この一年で体も出来てきたし、スピードもテクニックも上昇したように思える。
俺達も進級して新しい1年生を迎える。
先輩達の様にチームをまとめ頑張らないとな。
結局試合は、現役チームの勝利。
先輩達は交代要員が居ないので後半戦はペースが落ちたんだよね。
こればっかりは仕方ない。。。
でも、試合の中で色々と気付かされることも多かった。
ありがとうございます先輩方。
男子の後は女子の試合が行われた。
こちらは、流石は恩田先輩というか・・・
試合開始早々に吉川先輩との連携で早々に先制点を決めるとその後も楓と村田さんのマークをものともせずゴールを決める。
楓も村田さんも県内外ではそれなりに評価はされるレベルなんだけど・・・あの人一人だけレベルが違うよな。
「はぁはぁ。。。恩田先輩流石というか前より動き良くないですか?」
「ふふん 大学合格してからまた練習再開したし、大学に入ったら三上コーチや雫お姉さまとバスケ出来るのよ!張りきらないわけないじゃない!」
「雫お姉さまですか。。。」
そういえば、恩田先輩って前に雫姉に会って以来すっかり雫姉のファンになっちゃったんだよな。確かに雫姉は恩田先輩も抑え込めるレベルの選手だしっていうかあの2人キャラが少し被るよな・・・
「でも恩田先輩一人に負けるわけにはいきません!」
「そうそう その意気よぉ~っ唯奈!」
と楓と話をしながらも裏に走りこんできた吉川先輩にパス。
が、ここは吉見(妹)が上手くカバー。
「ナイスカット恵!」
「美玖!」
そして、カットしたボールは前線の浜野さんへ。
浜野さんはマークを一人かわしてスリーポイントを決める。
「うん。中々いいコンビネーションね」
「ありがとうございます」
「チーム戦なんだし綾子と楓ばかりが目立つ必要はないの。今みたいに2人が思う様に動けない時は周りを上手く使えばいいのよ。恵も美玖も場を判断してプレイできる子だし、1年の小春ちゃんもPGとして育ててるでしょ?」
「はい。私の後はあの子に任せるつもりです」
「うん。それでいいの瑞樹も頑張ってるし1年も上手く使っていいチーム作ってね」
「「はい!!」」
優しい言葉を掛けつつも全得点の半分以上をたたき出し女子は3年生チームというか恩田先輩の勝利。
恩田先輩は卒業後もコーチに来てくれるようなこと言ってたし女子バスはこれから更に強くなるんじゃないかな。
あ、雫姉も臨時コーチとして三上コーチを手伝うらしい。
練習ハードそうだな・・・
----------------------
練習試合を終えた俺達は例の如く長谷部の実家である喫茶店"ラウム"へ。
卒業生交えての送迎会だ。
小宮先輩と恩田先輩、それに森野先輩は地元の川野辺大学に進学する。
大学でもバスケ部に入るらしいからコーチや雫姉の後輩になる感じだな。
北島先輩と吉川先輩は都内の大学に進学するそうだ。
何気に同じ大学でアパートも隣同士で借りたらしい。
ちょっと恩田先輩が羨ましがってたw
地元に残る人。出ていく人。
こうやって先輩達と揃って話が出来るのも最後なのかもな。
「何暗い顔してんだ」
「あ、森野先輩。こうやって先輩達と話しできるのも最後なんだなぁと・・・」
「まぁ確かに俺や小宮、恩田以外は市外に出てくけど、そんなに遠くに行くわけじゃない。都内か県内の大学、専門に進学するのがほとんどなからな。ここまで来ようと思えば1時間圏内だ。何かあったら駆けつけるし夏の大会前には練習付き合いに来てやるよ」
「そうですね♪ またよろしくお願いします!」
「おぅ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます