第161話 ホワイトデー

「田辺、小早川・・・・い いってくる」

「あぁ 健闘を祈る!」

「頑張ってね!」


今日はホワイトデー3月14日。

そして今は授業を終えた放課後の時間。

俺はバレンタインのお礼としてこの後、楓とデートに行くんだけど、今一人の男を戦場?へと送り出したところだ。


男の名は梶 竜太郎。

サッカー部所属の黙ってればそれなりにイケメンな優等生。

でも色々残念なところが多い男だ。

(そういえばお姉さんも残念美少女とか呼ばれてたよな確か。そういう家系?)

前に恋愛相談をしたいと言って俺の家まで来たのに、あの日は楓の手料理を食べて満足し帰ってしまったわけだけど、別の日にあらためて俺と楓のところに相談に来ていた。


話によると図書委員の後輩に気になる子がいるんだそうだ。

その想い人の名は1年B組の"和泉 たま"さん。

梶曰く小柄で可愛らしい"俺の天使ちゃん"なんだそうだ・・・なんかその言い方は痛いぞ梶。


最初は梶も彼女の事は後輩の一人くらいとしか見てなかったらしいんだけど、6月に委員の仕事で図書室に行くと彼女が1人で泣いていたらしい。

心配になり話を聞いてみると"好きだった人に振られちゃった"ということで梶なりに心配し一生懸命に励ましてあげたとの事。

そして、その後も図書委員の仕事で図書館に行くたびに色々と話しかけられるようになり相談にのってあげたり雑談したりする仲になり・・・そのうちに梶も彼女の事がだんだん好きになってしまったということだった。


彼女自身も梶に色々と励まされたお陰なのか、吹っ切れたらしく想いが届かなかった彼とも友人として普通に接することが出来る様になったらしい。


とここまで聞いていると和泉さんの方も梶に気があるように思えるし、何よりバレンタインの時は義理の可能性もあるらしいけどチョコレートを貰ったらしい。

まぁ他の図書委員にも配ってたらしいから・・・


だから梶にはホワイトデーの今日、お返しとあわせて告白することを勧めたんだ。きっと大丈夫なはず。



「梶の奴大丈夫ですかね・・・」


梶の事が心配なのか遠巻きに見ていた古川が俺達に近づき話しかけてきた。


「梶の話聞いてる感じじゃ相手も脈ありなんじゃないのか?

 それとも古川的には振られる可能性のが高い?」

「いや俺も和泉さんは梶に気があるとは思うんだけど・・・梶ってしゃべり下手だろ。余計なこと言わなきゃいいんだけど」

「あぁ・・・確かに・・・でもまぁ誠意が伝われば・・・」


とりあえず頑張れ梶!




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「ねぇ ケンちゃん。今日は何処に連れてってくれるの?」

「着いてからのお楽しみ」


俺と楓は学校を出た後、川野辺駅前からバスに乗り横川方面へと向かっていた。

線路沿いの国道を走り、リバーランドを越えたあたりで川の上流へと向かう県道に入る。川野辺駅から30分弱。少しずつ街を離れ山間部へ向かっていく。


「何だかだんだん山の方に向かってくんだけど・・・」

「いいからいいから♪」


そして小高い丘の上にある停留所で俺達はバスを降りた。

周りにも何軒か民家はあるけど歩いている人は居ない。

時刻は5時少し前。あたりは少し暗くなり街路灯が点き始める時間だ。


「こんなところに何があるの?」

「え~と確か・・・あっあそこだよ楓」

「え!何あれ」


俺が指さした先には、生い茂る木々の中でライトアップされたカフェレストランがあった。

建物は大きな山小屋風で、広いウッドデッキにはストーブとテーブルも並べられている。バス停からここまでの暗い道とは別の世界に来たような雰囲気だ。


「すご~い!!ケンちゃんこんなお店どうやって見つけたの?」

「相良さんに教えてもらったんだよ。家の件で会ったときにね。

 この間美香先生とドライブしてた時に見つけたんだって。まだ出来てからそんなに経ってないらしいよ」

「へぇ~流石相良さんね」」

「とりあえず寒いしお店に入ろうぜ」

「うん」


ほんのり木の香りがする店内に入ると俺達と同じような高校生から大学生といった学生の客が意外と多かった。

まぁ社会人はまだ仕事してる時間だしね。


「私達学生服だし浮いちゃうかなって思ったけど大丈夫そうだね」

「だな。こんな場所にあるのに見つける人は見つけるんだな」


「いらっしゃいませ 2名様ですか?」

「あ、予約していた田辺ですが」

「はい。ご予約の田辺健吾様ですね。お待ちしていました。ご案内いたします」


と俺達はお店の人の案内で建物の一番奥の窓際の席に案内された。


「何だか温かい雰囲気の店内だね。インテリアとかも何だか可愛いし」

「あぁセンスいいよな。それより楓、外見て見ろよ」

「外?」


楓と2人窓の外を見ると・・・眼下にはリバーランドのイルミネーションが広がっていた。


「わぁ~」

「綺麗だろ?料理も美味しいらしいけど、この景色を楓に見せたくてな」


小高い丘の上にお店があるため少し見下ろすような形でイルミネーションを見ることが出来るんだ。

お店自体は相良さんに教えて貰ったけど、実は1回現地調査ということで見に来たんだよな。筋トレも兼ねて自転車で・・・山道はキツカッタ。

で、その時にリバーランドが見えることを知ってこの席を予約したんだ。


「ありがとう。素敵な景色とお店だね♪」

「どういたしまして」


などと楓と話をしていると料理が運ばれてきた。

この日はちょっと奮発してコースメニューを頼んでいたんだけど、料理も美味しく楓と2人楽しい時間を過ごすことが出来た。

お店も料理も大満足だ。



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ちなみにその夜、梶から"ありがとう田辺"と喜びのメールが来た。

俺は後押ししただけだ。

良かったな梶。

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