第141話 ダブルデート①

「よぉ藤原。久しぶりだな」

「だな。最近バイトのシフト合わなかったからな」

「私と由紀ちゃんは木曜日のシフト同じだもんね」

「はい♪」


とある土曜の朝10時。川野辺駅改札前。

俺は楓と共にバイト仲間でバスケのライバルでもある藤原とその彼女の森田さんと待ち合わせをしていた。

何でも俺にお礼がしたいとかで・・・本当、そんな大層な事してないんだけど。


「で、今日は何するんだ?楓も一緒にって事だったから連れてきたけど」

「あ、小早川さんも休みのところありがとう。今日だけど、ここに行こうかと思ってね」


と藤原は俺達の前に4枚のチケットを取り出した。

『川野辺水族園優待券』


「これってショッピングモールの隣に新しくできた水族館だよね!」

「ああ。4枚貰ったんで一緒にどうかなと思って」

「いいのか?正直お礼してもらうほどの事してないのに。

 チケットだって結構高いだろ?」

「いや。そんなことないさ。お前の後押しがあったから由紀との関係も1歩踏み出す事が出来たんだ。本当に感謝してる」


こういうところ律儀だよな藤原って。


「でもまぁお礼ってのはもちろんだけどさ、実はこの優待チケット1月末までなんだよ。来週からは部活とか色々と予定も入りそうだし無駄にするのもなと思って。だからあんまりお金とか気にしないで楽しんで欲しいんだけど どうだ?」

「そっか。そういうことならありがとうな。一緒に楽しませてもらうよ」


「ふふ ケンちゃん今日はダブルデートだね」

「確かにそうなるな。じゃ藤原に森田さん今日はよろしくな!」


ということで、俺達は電車に乗って隣町の西川野辺駅に向かった。

西川野辺駅は元々小さな田舎駅で回りも畑ばっかりだったけど、近くに高速のICが出来るのにあわせて駅前開発が進み、少し前にショッピングモールがオープン。そして、マンションや住宅街、公園や美術館、水族館といった施設の他、ホテル等の宿泊施設も建築中だ。リバーランドも近くだしむしろ川野辺駅よりも賑やかになりつつある。


「由紀ちゃん達は映画や買い物デートとかでこの辺り来たりするの?」

「はい。ここに来ると1日楽しめますし時々一緒に来てますよ。

 楓さん達は普段何処にデートとか行くんですか?」

「私達も普段はこの辺りかな。後は一緒に旅行行ったり、後はケンちゃんの家が多いかも」

「た 田辺さんの家ですか・・・・。確か1人暮らしでしたよね?それに旅行??」

「ん?ああ そうだけど」

「「・・・・」」


ん?どうしたんだ藤原も森田さんも黙り込んじゃって。


「ね ねぇ和君。私も今度和君のお部屋とか遊びに行っていいかな?」

「え? ああぁ大丈夫だぞ。最近来てなかったもんな。

 あ、何なら俺が由紀の部屋に行くとかでもイイかもな。

 ほら、家って妹も家に居るし」

「うん そ そうだよね。それに・・・旅行とかも行きたいよね」


「どうしたんだ急に?」

「田辺・・・お前らの話聞けて良かったわ。いい勉強になった。な由紀」

「うん」

「はぁ?」


普通・・・・じゃないのか俺達の付き合い方って?


などと藤原達との親睦?を深めつつショッピングモールを抜け隣接する公園内に出来た水族館へと向かった。


「出来たばかりだけあって綺麗だな」

「うん。ここ来てみたかったんだよね」


昨年末オープンしたばかりの施設ということもあり、最近はちょっと話題のスポットでもあるんだよね。

六景島や都心の大きな水族館と違ってイルカのショーや巨大水槽とかはないんだけど、アザラシやカピバラといった水辺のふれあいが出来る動物が飼育されていたり、公園内という立地を利用して人工的に作られた川辺で遊べる施設があったりとアミューズメントパーク的な要素も組み込まれた作りとなっていて最近はテレビ等でも紹介されていた。


「じゃまずはコースに従って順に見てくか?」

「うん。あ、でもケンちゃん。11:30からカピバラの餌やりがあるみたいだからこれは行きたいな」

「楓ってカピバラ好きだもんな」

「藤原。この餌やりに行きたいんだけどいいかな?」

「ああ、別に構わないけど。カピバラってそんなにいいのか?」

「うん。すっごく可愛いの!由紀ちゃんとかも絶対好きになるって」

「そうなんですか? ちょっと楽しみですね♪」


ということで入り口から順に水槽を見て回り、時間が近くなったら屋外広場にあるカピバラコーナーへ行くこととなった。

川野辺の水族館ということもあり、入り口からのエリアには近くを流れる川に生息する魚や生物・植物を中心とした展示が行われていて、進んでいくと川の河口となる相模湾周辺の魚が展示されていた。


正直それ程珍しい魚は居ないんだけど、地域密着というか職員さんや地区の中学校の生徒が書いたと思われる魚の解説やPOPが中々に面白く展示されている魚よりもむしろそちらに目がいってしまった。


「ケンちゃん この魚のイラスト可愛いね」

「おっ川野中の子のイラストだよ。楓の後輩とかじゃないか」

「あ、本当だ。凄くイラスト上手いよね」


自然に俺と腕を組み近い距離で歩く楓。

俺達としては凄く自然なデート風景なんだけど・・・


「なぁ田辺たちのデートっていつもこんな感じなのか?」

「ん?あぁ何か変か?」

「い いや何でもない。仲が良いんだなとあらためてな」

「ふふ 仲いいでしょ。藤原君も由紀ちゃんと腕組んで歩いてみたら?」

「ふぇ わ 私もですか!」

「ゆ 由紀?その・・・無理はしなくていいんだからな?」


と藤原が言っている最中に、森田さんも楓と同じように藤原の腕にしがみつくようにして腕を組んだ。


「ゆ 由紀?」

「わ 私も和君の彼女なんだからいいよね?」

「も もちろん!」


2人共顔真っ赤だし・・・何だか初々しいな~

ん?何だか藤原が空いた左手で小さくサムズアップしてる。

『うれしかったのか?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る