第137話 年末年始①

今日は年末12月31日。

俺は年末年始のご挨拶と年越しそばを頂きに小早川家に来ていた。

1人で年越しも寂しいからね。


「今年もお世話になりました」

「いえいえ こちらこそ娘達がお世話になりまして」

「そうだな。特に楓はずいぶん充実した年になったんじゃないかな。健吾君と居る事で笑顔も増えた気がするよ。親としても喜ばしい限りだ。ありがとう。この先も楓の事頼むよ」

「はい」


ということでおじさんとおばさんにご挨拶。

にしても五月おばさんはともかく、大樹おじさんは俺に楓を任せちゃってよいのですか?俺も"はい"とか返事しちゃったけど。


挨拶した後リビングに行くとコタツに寝ころぶ楓と紅葉が居た。


「あっいらっしゃいケンちゃん!今日は外寒かったでしょ」

「だな。今日は結構冷える」

「ケン兄そういう時はコタツだよ!暖房も付けてるけどコタツだよ!」


随分コタツを押すな紅葉・・・でも確かにいいよなコタツ。

と思いつつ俺もコタツに入る。あったけ~


「そういえば初詣って川野辺天神行くのか?」

「天神様でもいいんだけど、うちは毎年川野神社に行ってるよ。ケンちゃんも昔一緒に行ったよね」

「川野神社か。懐かしいな」


この辺りで一番メジャーな神社は夏祭りも人気になりつつある川野辺天神。

小さい神社ながらも一応社務所もあるし、初詣もお祭り同様に年々規模が大きくなっているそうだ。

これに対して川野神社は商店街の外れにある商売繁盛祈願の小さな神社。

俺や楓も小さい頃に境内で遊んだりしたこの地区の氏神様だ。


「あそこなら近いし年越しそば食べたら散歩がてらのんびり行こうか」

「うん そうだね。あ、 ケンちゃんみかん食べる?」

「あぁ貰おうかな」


コタツに入ってみかん。冬の定番だね。

小早川家では、毎年大みそかの夜は赤白で得点を争う歌合戦を見なが年越しをするのが通例との事なので、俺もコタツに入りみかんを食べながら番組を楽しんだ。何だかマッタリする。コタツ最高だねぇ。

ちなみにこの番組、海外に居る時も衛星放送で見てたりしたけど、正直出場している歌手は半分もわからないんだよな・・・有名な人たちなんだよな?俺が流行に疎いだけか?


そんな感じで楓共々マッタリしていると台所からは美味しそうな蕎麦や天ぷらの香りがしてきた。


「楓、紅葉、ちょっと運ぶの手伝って」

「「は~い」」


コタツに運ばれてくる年越し蕎麦。

小早川家では海老やかき揚げと言った天ぷらがトッピングされた豪華な天ぷら蕎麦だ。お腹も空いていたこともあるけど五月おばさんが作る料理に外れは無い!


「美味しい!天ぷらもさっくりしてるしツユの出汁も美味しいですね」

「うん。流石お母さんだね。今度作り方教えてね」

「ふふ 喜んでもらってうれしいわ。楓にもちゃんと教えるからね」


と美味しいおそばを食べている間に歌合戦も最後の歌となった。

今年もあと少しで終わる。

そして、番組が切り替わり各地の年越しの状況が映し出される。


「「あけましておめでとうございます」」


テレビの中で除夜の鐘が鳴る中、俺達は新しい年を迎えた。

確か去年は親父が仕事で母さんと2人の年越しだったんだよな。

でも今年は・・・賑やかだな~ほんと。

年明けと同時に飲み始めたおじさんとおばさん。まだ数分しかたっていないのに既に幾つか缶が空いている・・・飲み過ぎには注意しましょう。

そして眠い・・・といって自室に戻る紅葉。受験勉強でこの数日忙しかったみたいだからな。頑張れよ。


そんな中で俺は楓と一緒に川野神社に向かった。

神社はシャッターの降りた商店街の端。俺の家や駅とは反対側に少し歩いたところにある。

正月とはいっても商店街は深夜という事もありほとんど閉店していたけど、神社の周辺のお店は一部営業していた。

そして、神社の参道には小さいながらもお守りを売ったりお酒をふるまったりするテントも出ていた。

『受験に向けて学業成就とか買っとくかな』とテントを覗いていると、見知った顔と目が合った。


「福島じゃん何やってるんだ?」

「見りゃ分かるだろ バイトだよバイト」

「バイトって村田酒店の?」

「そ。綾子の店で振舞い酒やっててな。俺も手伝ってるんだよ。

 といっても未成年の俺はまだ飲めないし田辺達にも振る舞えないけどな」

「村田さんとこも商店街の組合に参加してるからこういうのもやってるんだな」


「そういうこと。田辺君や楓には振舞えないから代わりにこれ上げる♪」


とテントの奥からはっぴを着た村田さんが出てきて俺と楓にみかんをくれた。

はっぴにはちゃんと村田酒店の屋号も入っている。


「未成年の人にはみかん配ってるの。甘くて美味しいから食べてってね♪」

「おっありがとう。頂くよ」

「ん?どうした楓?」


楓が村田さんと福島をさっきからじっと見てる。


「うん。去年はそれ程意識して見てなかったけど綾ちゃんと福島君がおそろいのはっぴ着て立ってるとね、何だか酒屋の若夫婦みたいだなってね」

「ちょ ちょっと楓!何言ってるのよ!」


まんざらでもない顔をしつつも楓を怒る村田さん

(顔は怒ってるというかむしろ嬉しそう)

そして・・・福島は何言っていいかわからず固まってるな。


「はは 楓ちゃん良い事言うなぁ~ まぁ太一君が婿に来てくれるとうちとしては大助かりだけどな」

「そうねぇ綾子もうれしいでしょうし」


と村田さんのご両親登場。

おじさんたちもいい性格してるから村田さんも大変だ・・・


「だ だからお父さんとお母さんも楓の話にのらないでよ。太一も困ってるでしょ。ねっ太一」


と福島に話を振る村田さん。


「え?あぁそうだなぁ」


少し慌てつつも返事をする福島。


「そうだなって・・・本当に困って・・・酒屋を継ぐの嫌だったんだ・・・」


さっきまでの笑顔は何処へやらというくらい泣きそうな顔で俯く村田さん。

ったく福島の奴、よく話を聞かないで返事したなと思っていたら


「え?あ、違う違う。酒屋を継ぐのが嫌なんじゃないよ。俺も一人っ子だから婿入りとか大丈夫なのかなとか思ってただけだよ」

「ふぇ じゃあ店を一緒に継ぐのはOKなの?でもそれって・・・・」

「ま まぁそうなるかな・・・・」


何やら2人の世界に入ってしまった様だ・・・


「お邪魔みたいだから行こっか」

「うん」


とおじさんたちが俺と楓に向けてサムズアップしていた。ここの親も・・・

まぁ何やら新年早々いいものが見れた気がする。


福島たちのテントを出て、俺と楓は参拝の列に並んだ。

小さい神社だけどそれなりに混んでいる。


そして俺たちの順番が来た。

2人で並びお参りをする。


『今年1年。楓共々皆が健康で楽しく過ごせますように・・・そして願わくば大学にも合格できますように・・・それから楓ともより仲良くできますように』


欲張り過ぎたか?

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