第115話 誕生日①
11月もあと少しとなった土曜日。
なんの変哲もない週末だけど、今日は俺と楓の誕生日だ。
そして、今日は駅前で楓と待ち合わせて、楓が計画したプランでデートをする。
何というか、いつも俺がコースとか考えているから楓が考えたデートコースというだけで楽しみだ。
「ケンちゃん お待たせ♪」
前回のデート同様に薄っすらと化粧をして、ロングスカートに秋らしくジャケットを羽織った楓。いつもの制服やユニホーム姿と違って少し大人っぽい。
「うん。今日も綺麗だな楓」
「・・・あ ありがとう いつもだけど面と向かって言われると何だか照れるね」
相変わらず褒めには弱いな楓は。
まぁそんなとこも好きなんだけどな。
「さて、今日は何処に行くのかな?」
「ふふん。今日はここに行きます!」
と楓は持っていた鞄から市内にある六景島パンフレットを出した。
六景島。市内にある複合リゾート施設で人気のデートスポットだ。
俺も今度、楓を誘ってとか考えてたけど先を越されちゃったな。
「小島先生が相良さんとデートで行ったらしいんだけど水族館とか遊園地とか色々あって楽しいらしいんだ」
「へぇそれは楽しみだな。っていうか小島先生って生徒にデートの話とかしてるのか?」
「うん、昔の雰囲気からは想像できないけど、最近の小島先生凄く幸せそうで、もう相良さんの話とかしたくて仕方ないって感じで、もぅ可愛くて!」
先生・・・生徒から可愛いとか言われてますよ。
まぁ先生ってちょっと小動物系な雰囲気だし気持ちはわかるけど。
「じゃ目的地もわかったし行こうか」
「うん!」
先生は相良さんの車で行ったらしいけど、俺達は横浜を経由し六景島方面へ向かう直通電車に乗って目的地に向かった。
楓と電車に乗って遠出するのは温泉以来かな。
温泉旅行の時と違い近郊型の通勤電車ということで車内はそれなりに混雑していた。俺達はドアに寄りかかり吊革を掴みながら、文化祭や体育祭、それに森下学園との試合の事など、最近の出来事をネタとして話をしながら小一時間程度の電車の旅を楽しんだ。
それにしても、この学校に入って楓と再会して部活を初めて、本当毎日が充実しているな。
「あ、ケンちゃん海が見えてきたよ」
「本当だ。六景島ってほんとに海のすぐ近くなんだな」
最寄り駅に到着し電車を降りるとすぐ近くに海が見えた。
少し潮の香りもする。
「何だか気持ちいいね」
「そうだな。天気も良いしな」
駅から少し歩き六景島の入り口へ着いた俺達は、まず水族館へ向かった。
小島先生曰く巨大水槽とイルカショーがお勧めらしい。
水族館入り口で俺がチケットを買おうとすると
「ケンちゃん今日は私の奢りだよ。いつも出して貰ってるし」
「・・・・そうか。じゃ今日はお言葉に甘えさせて貰うかな」
と楓がチケットを買ってくれた。
何だか悪い気もしたけど、俺がチケットを買うとき楓も同じような気持ちになってたのかもな。難しいなこういうのって・・・
「すごーーーい」
「だな。こんな大きな水槽だとは思わなかったよ」
青白い水族館の照明の中、俺達を迎えてくれたのは相模湾を模した巨大水槽。
思わず見上げてしまうその巨大な水槽の中をたくさんの魚が泳いでいる。
「ふふ 何だかデートだよね♪」
「そうだな」
楓が俺の腕に抱き付いてきた。
ちょっと照れるけど冷静に周りを見るとカップル多数。
まぁ人気デートスポットだもんな。
ってあのカップル普通にキスしてるし。薄暗いとはいえ大胆だな・・・
思わず見てしまった俺の方が恥ずかしくなってしまう。
と楓を見ると楓もキスしてるカップルを見たのか少し恥ずかしそうだ。
・・・何だかこういうかわいい楓を見てると俺も楓にキスをしたい衝動に駆られてしまったけど・・・・流石にこれだけ人が居る中では恥ずかしいよな。
理性が勝ったと言っていいのかはわからないけど、俺は楓を伴って巨大水槽の中を横切る強化ガラス製のトンネルに向かった。360度がガラスで出来たトンネル。歩いていると自分が海の中にいるような錯覚に陥ってしまう。
「凄いねこれ。自分たちの周りを魚が泳いでて本当に海の中に居るみたい」
「ああ。ライトの感じも青白くて雰囲気だしてるしな」
トンネルを抜けると小型の水槽による展示ゾーンだ。
淡水魚を含めた沢山の魚が水槽の中を優雅に泳いでいる。
そして、これも目玉の1つなクラゲゾーン。
ライトアップされた水槽をクラゲがフワフワと漂っている。
何だか見てるだけで癒される。
俺と楓は近くのベンチに座りのんびりと水槽を眺めた。
「何だか眠くなってくるね・・・」
「ほんとだな。フワフワ漂ってるクラゲ見てると眠くなる」
「・・・・・」
本当に寝てしまった。
まぁ数分みたいだけど、ただ俺が目を覚ますと楓が俺の肩に体を預ける形で気持ちよさそうに眠っていた。
楓の事だから今日のプランを遅くまで起きて考えてたんじゃないかな。
『ありがとな楓』
俺はちょっと周りをみて、誰もこっちを見てないのを確認した後、そっと柔らかい唇にキスをした。
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