第116話 誕生日②


このまま寝かせておいてあげたい気もしたけど、そろそろイルカショーの時間が近い。俺は楓の耳元でそっと名前を呼んだ


「・・・えで かえで」

「ん~ もうしゅこし。まだねみゅい。。。」


完全に寝ぼけてるな。でも何だか可愛いw

というより寝ぼけるほど熟睡してたのか・・・

昨日も部活だったし、慣れないバイトも始めたし疲れてるんだろな。

ありがとな。

と感謝しつつも起こさないとならないので、軽く肩を揺すりながらもう一度声を掛けた。


「かえで イルカショー始まるぞ」

「んん。。。あ、ここって・・・。ごめん私寝ちゃってたんだね」

「おはよ。気持ちよさそうに寝てたよ」

「結構寝てた?」

「30分くらいかな。俺も気持ちよくって少し寝ちゃったよ。

 起きたばかりだけど、イルカショー始まるからそろそろ移動しようぜ」

「あ もうそんな時間なんだ。うん!行こうケンちゃん」


まだ少し寝ぼけ気味の楓の手を引きつつ俺達は屋外にあるイルカ用のプールに移動した。


「え~と 見るのは上段の方が見やすいかな」

「あ、小島先生が最前列がお勧めって言ってたよ。ほらちょうど空いてるし」


確かに最前列は綺麗に席が空いている。

会場はそれなりに混んでいるのに・・・・

これって座ったらダメなパターンじゃないか。濡れるだろ多分。

等と思っていたが、楓は気にせず、最前列のセンター付近に座り俺を手招きしてる。


「ケンちゃん早く!始まっちゃうよ~」

「あぁ 今行く」(まぁ濡れても何とななるだろ)





甘かった・・・・・

イルカショーは水族館の目玉とされているだけあって凄かった。

最前列ということで迫力もあったし楓なんて係りのお姉さんに呼ばれて餌やりまでさせてもらった。

ただ、イルカのジャンプは予想以上の高さで・・・水飛沫もバケツで水を掛けられたような量だった。うん。びしょ濡れだ。


「何だかびしょ濡れだね・・・」

「あぁ思った以上に濡れたな」


係りのお姉さんに借りたタオルで濡れた髪や服を2人で拭いていると何だか不思議と笑みがこぼれてきた。

楓も同じだったらしく2人して笑いあってしまった。何だか楽しいな。


イルカショーを見た後は楓がお弁当を作って来てくれたということで、水族館の隣にある緑地ゾーンに移動しお弁当を食べた。


レジャーシートの上に座り、お弁当を広げる。

食べやすいサンドウィッチに俺の好きな唐揚げやウインナーなど、外でも食べやすいチョイスのお弁当だ。


「美味しそーだな。これ作ってたから寝不足だったのか?」

「それもあるけど・・・何だか楽しみ過ぎて眠れなくて」


何その理由。可愛すぎるだろ。

まぁそういう俺も何だか楽しみで5時過ぎに目を覚ましちゃったけどな。

買い物とかは2人で出かけたりしてたけど、こういう如何にもなデートって久々だったからな。

2人でサンドウィッチを食べていると楓が、小さく『よし!』と何やら小さい声で気合を入れ


「じゃ、あの・・・あ~ん」

「え?」


と俺の口元に唐揚げを持ってきた。

当然、食べてってことだよな・・・

楓との関係は、色々進んだけどこういうのって未だに照れる。

ということで、2人して顔を赤くしながら俺は楓の持つ箸から唐揚げを食べた。


「お 美味しいな。味付けも俺好みだし」

「う うんありがとう・・・誠子おばさんに味付け教えてもらったんだ」

「そうなのか」


いつのまにやらうちの親とも連絡取り合ってるみたいだな。

この間帰国したときは母さんも『田辺家の味を教える』みたいなこと言ってたけどちゃんと楓に教えてたんだ。

でも・・・田辺家の味ってそもそも何だ。


そんなことを思いながら楓の作ってくれたお弁当を楽しく食べた。

秋の柔らかな日差しに海風が心地よく、湿っていた服もほとんど乾いてしまった。また眠くなりそうだ。



食事を終えた俺達は、芝生に寝転がりゆっくり休んだ後、水族館の隣にあるふれあいゾーンに移動した。

ペンギンやカピバラなどの小動物への餌やり体験が出来るコーナーだ。


前に2人で旅行に行ってからカピバラをすっかり気に入ってしまった楓は、水族館の案内板を見て『後で行こうね!』と張り切っていた。

随分気に入ったんだな。でも確かに可愛い。


そう。ふれあいコーナーには2頭のカピバラが居たんだけど、最近子供が生まれて丁度今日から公開との事。

よたよたと歩く小さいカピバラ3頭。

餌となる笹を口の近くに出してあげると一生懸命食べようとしている。

その姿は・・・もうひたすら可愛い。


カピバラに嫉妬するつもりは無いけど、俺の存在を忘れてんじゃないかってくらいカピバラを撫でたり餌を上げたりと没頭している。

まぁ俺的にはカピバラも可愛いけど、小動物を可愛がる楓も普段とのギャップもあって凄く可愛いんだが・・・・本人に言ったらまた照れそうだし、写真撮ってスマホの壁紙にするだけで許しておこう(何を・・・)

と結構時間も経っていたので、俺は楓に声を掛けた。


「そろそろ行こうか?」

「うん。カピバラ可愛すぎる」

「また来ような。それか伊豆でもいいか」

「うん!」


ふれあいコーナーの後は、遊園地に移動し楓がお勧めだというジェットコースターに乗った。楓ってコースター好きだよな。










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