第111話 再戦①

週末土曜日。天気は雨で11月だが少々肌寒い。

今日は森下学園との練習試合だ。

夏の全国大会以降3度目となる今日の試合。今までの2試合は男女ともに1勝1敗と互角。俺達としては今日の試合に勝って冬の大会に弾みをつけたいところだ。


「「よろしくお願いしまーーす」」


森下学園のバスケ部メンバが体育館に入ってきた。

前回は森下学園で練習試合を行ったので、今回は川野辺高校で試合が行われる。


挨拶の後、コーチと部長の福島達は打ち合わせのため別室へ。

残った俺たちは、コートを分かれて練習を開始した。

普段は男子女子でそれぞれ半分ずつ利用している体育館も今日は森下学園と半分ずつの利用なので若干狭く感じる。

まぁ森下も結構な部員数が居るんで狭そうだけどな


などと思いながら軽くストレッチをしていると森下学園のバスケ部員が話しかけてきた。


「よう田辺。今日は負けないからな」

「藤原か。こっちこそ。っうかこの間は顔色悪かったけど今日は調子良さそうだな。お互い頑張ろうぜ」

「田辺にまで心配かけてたか・・・あぁもう大丈夫だ!」


シューティングガードの藤原。俺のバイト仲間だ。

何となく気が合うので最近は時々メールのやり取りなんかもしている真面目で中々誠実な男だ。

元々上手い選手だし友人としては元気になって嬉しいけど、試合を考えると結構厳しくなりそうだ。

正直なところ、この間は藤原の調子が悪かったから勝てたようなところもあったんだよな。

・・・にしても調子が戻ったというより前より明るくなったような。何かあったのか?


軽く藤原と雑談し、アップを終えた俺はボールの感触を確かめながらシュート練習を行った。

『うん。調子はいい』

最近は吉見や由良も調子を上げてきているので、藤原は脅威だが何とか勝ちたい。


打ち合わせから戻ってきた牧村コーチと福島を交え軽くミーティングを行った後、男子から試合が開始された。


「よーし、今日のスターティングメンバは、福島、清水、由良、長谷部、田辺の5名だ。栗田、吉見、高田それに他の選手も順次交代する。気合入れてけ!」

「「はい!」」


「ケンちゃんファイトーー!!」


皆の視線が俺に向いた。楓の応援はもちろん嬉しいけど他の部員が見てる中だと何だか恥ずかしいなこれ・・・

こら裕也、福島俺を見てニヤニヤするな!


そういえば、今更だけど今日は見学も多い。

私服の湯川ちゃんも長谷部の応援だろうけど見に来てるし、テニス部も今日部活だったのかジャージ姿の大崎さんや渋川さん、それに結城の姿も見える。何気に一般の生徒っぽい女子生徒や森下の制服を着た生徒も何人か来てる。

これは気合入れて頑張らないと。


そして、試合開始。


ジャンプボールを制した長谷部からボールを受け、裕也がドリブルで切り込む。が、藤原がその行く手を遮る。

裕也はフェイントを混ぜたドリブルで揺さぶるが、前回と違い藤原のプレッシャーが強く徐々にライン際に追い込まれていった。

俺や福島もパスを受けるため裕也に近づくが、森下のディフェンス陣がそれを阻む。

俺と福島にマークが集まったことで切り込んだ由良に向けて、裕也も何とかパスを出したが誘いだったのか笹原がカットし素早く前線の横田にパス。

藤原-笹原-横田のラインが綺麗につながり森下の先制点となった。


「くっ 前回と全然動きが違うぜあいつら」

「そうだな。初戦の時よりまとまりがでてるぜ」


そう。藤原の復調もあるけど、チーム全体のまとまりが前より高まっていた。

結構厳しい試合になりそうだ。

と、長谷部のスローインを受けドリブルでゴールを目指す裕也が俺にサインを送ってきた。


「あのサインって・・・・まじか」


裕也のドリブルを阻む藤原。裕也はその手前で止まり、センターライン付近でロングシュートを放った。

皆がボールを見る中、俺は藤原の脇を抜けジャンプしボールを掴みそのままダンクを決めた。

アリウープ。一瞬静まった会場に女子達の大歓声。


「すごーーい!何今の」

「田辺君凄い!」

「ケンちゃんナイシュー!!」

「裕也ナイスアシスト!」


裕也とハイタッチ。

正直これは一度やったらマークされるだろうし何度も使えないよな。

流れを取り戻した俺達だったけど、その後も藤原に苦戦し何とか4点差のビハインドで第2クォーターを終えた。

そして第3クウォーター。由良に代わり吉見を投入。


「田辺!」

「頼んだ吉見!」


俺と裕也が攻め込みマークが集中したところで吉見が切り込みシュートを打つ。

練習で何度か行ったフォーメーションだったが、吉見の攻撃参加はあまりマークされていなかったこともあり得点を重ねた。

吉見はスピードもあるしゴールも正確だ。

その結果、第4クォーター中盤で何とか1点差ながら逆転に成功した。


そして、迎えた第4クォーター残り5秒。

裕也の放ったシュートがリンクにあたり弾かれた。

このまま試合終了かと思われたが、素早くリバウンドに走りこんだ藤原がボールをキャッチ。

そして川野辺のゴールにボールを投げた。ボールは大きな弧を描きゴールへ。

ブザービート。まさかのゴールで逆転され試合は森下学園の勝利に終わった。


「すげぇな。ブザービートかよ・・・こんなロングシュート初めてみたわ」

「まったくだ。やけになって投げたんじゃない。藤原の奴狙ってたな」


裕也も福島もかなり驚いてる。

当然だよな。俺もこのシュートは驚いた。ただ、負けたとはいえやることはやったし、最後のシュートが無かったら俺たちが勝っていた試合だ。

詰めがあまかったといえばそれまでだけど、最後まで勝利を諦めなかった藤原に負けたってところかな。

ただ、全力を出したからか不思議と悔しさは少ない。

だけど、次は俺達が勝たせてもらうぜ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る