第110話 想い

休みもあけて、今日からまたいつもの学校生活が始まった。


そして、授業を終え今は放課後、部活の時間だ。

今週末は、冬の大会前としては最後となる練習試合。

相手は今期の練習試合1勝1敗の森下学園。

実力が近いということと近隣ということもあってお互いの強化のために試合を多く組んでるんだよな。確かにあいつらとの試合は接戦が多いし凄く練習になる。


ということで、勝ち越しで気分よく冬の大会を迎えるため、俺達はいつもにも増して練習に取り組んでいた。


「田辺!パス!」

「おぅ」


[シュパ]

俺のパスを受けた吉見が3Pラインから綺麗にシュートを決めた。


「ナイスシュー吉見!」


いつもクールな吉見も何だか妙に気合が入っている。

今日のミニゲームでも結構なシュートの成功率だ。

吉見はどちらかというと守備寄りの選手だけど今日は積極的に攻撃にも参加し、ゴールを量産している。今の調子で攻撃に絡むようになればチームの強みになりそうだな。


「ちょっと休憩な!」


俺はコート脇に居た1年と交代し休憩に入った。

ミニゲームは5分1セットで何回も行っていたが、俺は最初のゲームから出場していたので結構足に疲労が溜まってきていた。

そして、スポーツドリンクを飲んで休憩していると同じく休憩していた吉見"恵"が俺に話しかけてきた。


「田辺」

「ん?ってあぁ吉見 妹」

「何だよその妹って呼び方」

「間違えては居ないんだろ?」

「ま まぁそうだけどさ。それより兄貴に聞いたよ。色々と相談にのって貰ったみたいで・・・ありがとな」

「ん?ああ でも何というか俺は大したこと言ってないぞ」

「そんなことないよ。兄貴には何か響いたんだよ。昨日何だか凄く喜んでたし」


そ そうなのか?

実際普通の話をしただけだと思うけど。

それに喜ぶ?って要素があの話にあったのか?


「それに・・・私も感謝してるんだ。

 兄貴の元カノって私の友達。バスケ部の子だったんだよ。

 その友達が兄貴の事を好きになっちゃって熱心だったから、私から兄貴に頼み込んで無理に付き合ってもらって・・・結局2人を傷つけたんだ。

 友達の方は私と友人関係は続けてくれてるし、兄貴の事も普通に友人として接してくれてるけど・・・兄貴はずっと気にしてたんだ。自分が悪かったんだって。それにあれ以来、女性との距離感もわからないって言ってたし」

「そうだったんだ」


何だか思った以上に深刻な話だったんだな。

良かったのか?相談相手が俺で。


「うん。だから田辺には感謝してる。本当にありがとう」

「い いや俺は楓とのノロケ話してただけだから気にすんなよ。

 でもさ、吉見は告白してきた子と付き合うんだろ?妹としてはそっちも心配なんじゃないか?」

「美津子って、兄貴の事を本気で好きみたいだし、知らない仲じゃないしね。

それにあの兄貴も美津子に対しては昔から好意を持ってるみたいなんだよ。

 多分大丈夫とは思うよ」

「ん?美津子」

「あ、そっか兄貴、相手の名前は言ってなかったんだね。兄貴に告白したのって、B組の大崎美津子だよ。田辺も文化祭とかで一緒だったでしょ?」


ええ知ってますよ。自称メイドのプロの大崎さんですね。

そうか。確かに文化祭の時も吉見の事をよく見てたけどやっぱり好きだったんだな。それに結城が川北中出身なんだから幼馴染の大崎さんや渋川さんも川北か。


「そっか。確かに大崎さんなら明るくて世話好きだから吉見の事も任せられそうな気もするな。メイドさんだし」

「でしょ」


嬉しそうに笑うな。

良い笑顔だ。本当吉見の事が心配だったんだな。


「あぁ~ ケンちゃんが恵と浮気してる~」

「し してないよ浮気とか!」

「ふふ~ん 帰りに肉マン1個で許してあげる♡」

「はいはい・・」

「あ、私もゴチね。私はピザまんがいいな」

「じゃ俺もあんまんで。」

「って由良。どこから沸いた。っていうかお前はむしろ吉見 妹の分払えや!」

「ケチだなぁ~田辺は・・・」

「お前が言うなって・・・」


「「ほら そこ! 何サボってるんだ!!」

福島、村田と両部長に叱られてしまった・・・

この二人変なところで息がピッタリだよな。



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部活も終わり、いつもの様に楓との帰り道。

俺は昨日からの出来事を楓に話していた。


「ほんと恋愛相談とか参ったよ」

「でも吉見君と大崎さんねぇ~」

「意外?」

「確かに意外といえば意外だけど、お似合いかもしれないよ?

 大崎さんって面倒見がいいというか世話焼きタイプみたいだし、吉見君ってしっかりしてそうで色々と無頓着な感じだし」


確かにそうかもな。

吉見って見た目はクールだけど意外と抜けてるところあるし。

あ、そうだ、折角二人きりだし例の件話さないとな。


「と ところでさ楓。来週末って俺達誕生日だろ?

 付き合い始めて最初の誕生日だし、良かったら二人で何処か行かないか?」

「・・お 覚えててくれたんだね・・・何も言ってこないから忘れてたのかと」

「忘れるわけないだろ? って俺も誕生日同じだしな」

「ふふ そうだよね。でも今回は私に任せてくれないかな」

「楓に?」

「うん。ケンちゃんには温泉旅行や海とか連れてってもらったし、今回は私がと思って湯川ちゃんに頼んでバイト紹介してもらったんだ」


そうか。それでバイトを。何だか気を使わせちゃったかな。

俺は楓が喜んでくれればと思ってただけだったんだけど。


「それにね。ケンちゃんには色々感謝してるんだよ。

 だから今回は私が色々とケンちゃんに楽しんでもらおうかなって」

「そっか。じゃ楽しみに待ってるよ。

 でもあんまり無理はするなよ。

 俺は楓と一緒に居るだけでも幸せなんだからな」

「・・・・またそういうこと普通に言う~」


顔を真っ赤にしながら俺の背中をポカポカ叩いてくる楓。

何だか可愛いな。

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