第109話 悩み事②

「田辺!こっちだ」

「おぅ 吉見待たせたな」

「いや 俺こそ休みの日に悪かったな」


テラス席に居た吉見が、手を振り俺を迎えてくれた。

川野辺高校バスケ部2年B組 シューティングガードの吉見 優。

同じポジションで攻撃を得意とする清水と比べると守備を得意とする選手なんだけど・・・あらためて吉見って美形だよな。

双子の妹の恵さんも可愛いくて人気(性格はきついけど)だけど、そのまま男にしたような顔立ちなんだよな。非公式にファンクラブがあるとか裕也に聞いた気がするけど、それも頷けるかも。。


「コーヒーでいいか?来てもらったし奢るよ」

「あぁ気にしくていいよ。どうせ暇だったし」


物腰も柔らかいし普通に男の俺でも見惚れちまうな。

って俺にそんな趣味は・・・


「で、俺に話したい事って何だ?」

「ん?あぁ・・・・田辺は小早川と付き合ってるだろ?」

「ああ付き合ってるな」

「なんで付き合ってるんだ?」

「なんでって・・・楓の事が好きだからかな」

「"好きだから"か・・・・・」


なんだこのやり取り?


「じゃあさ、"好き"とか"恋"って何だと思う?」

「は?」

「変な話なのは俺もわかってる。ただ俺な"好き"だとか"恋"というか恋愛って感情が良くわからないんだ。俺、昔から感情が乏しいとか表現が下手とかも言われてて」


言われてみれば、吉見ってあまり表情変えないけど・・・

妹の恵さんの方は結構感情表現豊かだけどな。


「吉見ってモテそうだけど、彼女とか居たことないのか?」

「川北中の頃に同じバスケ部の女子に告白されて付き合ったことがあったんだ。

 ただ、彼女は俺に一生懸命尽くしてくれたと思うんだけど、俺はそれに上手く答えられなくて、結局それが辛くて別れを切り出して・・・

 彼女、成績良かったから川野辺も合格圏内だったのに俺を避けるように森下学園に志望校変えたし、凄く悲しい思いをさせたと思うんだ。

 別れを切り出したときなんて"無理させちゃったみたいでごめんね"って。

 俺には勿体ない位にいい子だったんだよ。だから本当に申し訳なくて」

「・・・・そうなんだ。でも随分前の話だろ?何で急に」


高校受験前に付き合ってたなら2年近く前の話だよな。

何で今更?


「昨日の後夜祭で告白されたんだ。

 それまでにも何人かに告白されたことはあったんだけど断ってきた。

 昨日も最初は断るつもりだった」

「だった・・・ってことは受けたのか?」

「考えさせてくれって保留にしたんだ。

 多分。俺は彼女に良い印象を持ってたんだな。普段から何となく目で追ってたし、俺とは真逆で感情表現が豊かで明るくて話し上手で・・・だから俺に断られて彼女の悲しむ顔が見たくなかったんだと思う。

 それに彼女は元カノの事も知っている。だから余計にな・・・

 こんな気持ち初めてかもしれないけど」

「・・・・その気持ちなんじゃないか?恋って」

「え?」

「その子の悲しむような事をしたくないとか目で追ってたとか、彼女に好意を持ってるって事だろ?」

「そ そうかもしれない」

「それにその子も元カノの事知っててってことはお前の事も少しは理解してるんだろ?」

「そうだな。恵とも仲が良いし・・・」

「それなら断る理由ないだろ?

 前は相手の一生懸命な気持ちに多分吉見が追い付けなかったんだろ?

 お前もその子もお互い好きなら、今度は無理せず付き合えるんじゃないか?」


月並みだけど俺からはこれくらいのアドバイスしか出来ないな。

でも間違ったことは言ってないはず。

しばしの沈黙。そして吉見は俺に応えた。


「・・・ありがとうな田辺。相談して良かったよ。

 明日彼女に返事をする。もちろん付き合ってみるつもりだ」

「そうか。役に立てたなら良かったよ。

 でも俺、恋愛相談とかする柄じゃないんから次は経験豊富な裕也あたりにしてくれよな」

「ん?清水か?俺も最初はあいつに相談しようと思って電話したんだけど、恋愛事は田辺が一番詳しいからって推薦されたんだが違かったのか?」

「い いや大丈夫だぞ・・・」(ユウヤ オマエノセイカ)


その後も色々俺と楓のノロケ話を聞かせたり、バスケについて語り合ったりと随分長く話をした。多分吉見とこんなに話をしたのは初めてかもしれない。


「じゃそろそろ遅いから帰るわ また学校で!」

「あぁ今日は本当にありがとうな」


カフェを出た俺は、川北のバスターミナルにて川野辺行のバスを待った。

『はぁ~疲れた。。恋愛相談とか・・・俺も経験ほぼ0だっての』

長い溜息を吐きバス停のベンチに腰を下ろす。

そして、吉見の想いを聞いたり楓とのノロケ話をしていたせいか、一人でいると恋人の声が無情に聞きたくなって来た。

電話・・・してみようかな。スマホを取り出し、押しなれた楓の番号を呼び出す。


[楓 今大丈夫か?]

[ん?ケンちゃん。大丈夫だけどどうしたの急に電話してきて」

[愛してるよ]

[にゃ にゃにを電話口で急に!!!]


多分電話しながら顔を真っ赤にして照れてるんだろうな。

本当可愛い。

俺も楓を悲しませるようなことはしたくないな。

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