第96話 お墓参り
相良一家との会食を終え、小早川家に着いたのは日付をまたぐ遅い時間だった。
ということで今日もまた、俺は楓の部屋に厄介になっていた。
例の如く五月おばさんに"泊りなさい"と命令され・・・
まぁ親公認で楓の部屋に泊まれるのはある意味嬉しいんだけどね。
ちなみに式場から帰ってきたということもあり何となく2人で部屋にいると新婚初夜的な雰囲気で盛り上がってはいたのだけど、まぁ流石にお互いの親が居る中・・・と何とか理性を保ちおとなしく夜を明かした。
そして朝。
前日同様に早起きな母さんと五月おばさんが朝食を作り、皆で食事をした後、俺は親父達と一緒に祖父母の墓参りに出掛けた。
ちなみに楓も一緒だ。
昨日の写真撮影のせいか、五月おばさん曰く"もう田辺家に嫁に行ったようなものだから"と送り出されていた。何だか付き合わせて悪いな楓・・・
俺たちは、川野辺駅前からバスに乗り祖父母が眠る霊園へと向かった。川北のバスターミナルの更に先。
祖父母が眠っているのは山の麓にある小さなお寺にある墓地だ。
元々親父の実家はこの辺りで果樹園をやっていたらしい。
子供達が街に出たことで果樹園はおじいさんの代で終わり土地も手放したらしいけど、祖父母はこの地に最後まで住み続けていたとの事だ。
二人とも俺が幼稚園の頃に亡くなってるから正直あまり覚えてはいないけど、何となくこの町は懐かしい気持ちになる。
お寺に入ると彼岸時期ということもあり、数組墓参りの人達がいた。
俺たちもその人達にならい、お寺でお線香と花を買いお墓に向かった。
お墓に着いた俺達は、掃除を行い花とお線香をお供えし手を合わせた。
前に墓参りに来たのはアメリカへわたる少し前だから4年ぶりくらいだ。
「随分久しぶりになってしまったけど、俺と誠子も来年はこっちに戻ってきます。
健吾にもこんなに可愛い彼女が出来たんだぜ。
来年からはまた毎年みんなで会いに来るから楽しみにしててくれな」
と親父はお墓に語り掛けるように告げた。
そして、墓参りの後は久々に会ったという住職さんとしばし談笑した。
親父の事も小さい頃から知っている人らしく随分親し気に話をしていた。
その後、俺達はバス停に向かい帰路につくはずだったんだけど・・
次のバスまで1時間近く時間があった。田舎のバスは本数少ないからな。
仕方がないのでバス停近くの大衆食堂で4人で少し遅い昼食を食べることになった。親父が小さい頃よく食べていた店だそうだ。
「う~ん やっぱりここの生姜焼き定食は美味しいなぁ~」
川野辺高校には、実家からいつもバスで通ってたらしいけど、よくこの定食屋も利用していたとの事だ。
残念ながら当時の女将さんはお亡くなりになったらしいけど、息子さんが後を継いで味を守っていた。親父もこの辺りに来ると昔を思い出すのか饒舌だ。
「そういえば来年。多分春頃に帰国するが、川野辺に家を借りる予定なんだ。
職場は横浜だから、そっちに住んでも良いんだけど、洋や大樹さんが居る川野辺の方が住み慣れてるしな。
駅近くということで幸治さんに適当な物件を探してもらってるんだが、健吾も一緒に住むだろ」
「あぁ 帰ってくるなら一緒に住むよ」
帰ってくるの春なんだ。意外と早いな。てっきり年末とか年度末かと思ってた。
そうなるとあのマンションとも後1年くらいでお別れか・・・
「了解だ。じゃ健吾の部屋と雫ちゃんの住む部屋の確保も必要だな」
「ん?なんで雫姉?」
「雫ちゃんだけど来年川野辺大学に編入するだろ。実家からじゃ遠いからって家に下宿させてくれって頼まれてな」
なるほど。川野辺大学なら駅前からバスで1本だからな。
でも、雫姉と同じ家か・・・何だか色々と疲れそうだ。
「雫姉も川野辺に住むんですね! 何だか嬉しいな♪」
「そうか、楓ちゃんは雫と仲が良かったものね」
「はい。雫姉って頭も良いしバスケも上手いし憧れです」
まぁ確かに雫姉は、黙ってれば美人だし、何でも出来る凄い人だしな。
・・・俺もバスケ教えてもらおっかな~
などと色々と話を聞いているうちに新しい家の内見などを親父に頼まれた。
幸治さんから候補の写真は幾つか貰うことになっているから、良さそうな物件があったら現物を見て来て欲しいとの事だ。
何気に物件や間取り図を見たりするのは結構好きだったりするので、ちょっと楽しみだったりするけど、3月後半には親父達も雫姉も帰国するらしいから2月には決めて手続きが出来る様にする必要があるらしい。意外と時間もないかもな。
食事を終えて店を出た俺達は、再びバスに乗り川野辺駅に戻った。
ここで親父達とはお別れだ。
上り列車のホーム。そろそろ横浜行の電車が到着する。
「じゃ、春には帰ってくるから、それまで体には気をつけてな。
後、楓ちゃんとイチャイチャするのもいいが、志望校に入れる様にちゃんと勉強するんだぞ」
「あぁ頑張るよ。親父達も無茶すんなよ!」
ってイチャイチャするのはいいのかよ。
五月おばさんや大樹おじさんもだけど、俺と楓の交際については押しまくりだよな本当。
「楓ちゃん。健吾のことよろしくね」
「はい。おばさん達もお気をつけて」
「もぅ、お義母さんでいいって言ったでしょ!」
「ははは。。」
母さんも平常運転だな。
お、電車が来た。
祝日ということもあり乗降客も多い。別れを惜しむ親父達が電車に乗るとドアが閉まり、電車は静かに動き出した。
手を振ってる母さんに俺と楓も手を振り返す。
「行っちゃったね」
「あぁ」
「寂しい?」
「・・・まさか。それに俺には楓もいるしな」
「ま またそんなこと」
来年は親父達も雫姉も帰国する。
何だか賑やかになりそうだな。
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