第56話 謝罪と幸せ

ショッピングモールからの帰り道

地元の駅で改札口を出たところで俺と楓は声を掛けられた。


「小早川さん、田辺君」

「え?春川先輩と二階堂先輩」

「小早川さんの家にお伺いしたんだけど、田辺君と出かけてるって聞いたから駅で待ってたんだ。少し時間良いかな」


と二階堂先輩。


「え。はい大丈夫です」

「じゃあ、そこの喫茶店で」


と駅前の喫茶店へ向かった。ちなみに長谷部の実家のラウムだった。

席に座り、コーヒーを注文したところで春川先輩が楓に謝罪をしてきた。


「許される事じゃないと思うけど、あの時は本当にごめんなさい。訴えられることは覚悟してるんだけど、その前にきちんと謝罪したくて」

「・・・・いえ、その、もうあの時のことはいいです」


と楓。


「でも 私のせいで大怪我してたかもしれなかったんだよ」

「・・・春川先輩、梶さんってご存知ですか?」

「梶?・・・梶 麗香ちゃん?」

「はい。内緒にしておくよう言われてはいたんですが・・・あの時の翌週だったと思うんですが、部活の時に私と恩田先輩に謝罪に来られたんです」

「麗香ちゃんが?」

「はい。部長の恩田先輩の幼馴染みたいで"友達が迷惑を掛けた"って。その時先輩の話しも色々と聞いたんです。あの後から責任を感じて学校を休んで いる事や二階堂先輩も部活を辞めて迷惑を掛けた方に謝罪して回っていること。

 それと、私の件以外はただの噂で春川先輩は関係なかったってことも。

 私は、もう気にしてないです。だから、そんなに自分を責めないでください」

「・・・・でも私は、あなたに酷いことを」

「梶先輩が言ってました。春川先輩は転入してきて1人ボッチだった自分に声を掛けてくれたり色々と相談にものってくれた大切な友人で本当は凄く優しい子なんだって」

「麗香ちゃん・・・」


春川先輩の声が少し震えてる。泣いているんだろうか。


「田辺君。君もそれでいいのかい?」


と二階堂先輩。


「はい。楓が許すというなら」

「そうか・・・色々と迷惑を掛けたな」

「いえ。それより二階堂先輩こそ大丈夫なんですか?テニス部も辞めたとか。結城も心配してましたよ」

「僕は大丈夫だ。知らなかったとはいえ湊の件はそもそも僕が原因だ。それにあの時あらためて思ったんだ。僕は彼女が好きだったんだってね。

 随分遠回りしてしまったけど、残り少ない高校生活は彼女と一緒に歩んでくつもりだ。もう絶対に手放したりしない。

 それに別に不幸じゃないし、むしろ彼女と過ごせるんだから幸せだよ」


とその表情は明るかった。


その後、店の前で先輩たちとは別れた。

春川先輩も週明けから学校に復帰するそうだ。

元々成績は良かったみたいだけど、休んでいた分を取り戻すのは大変かもしれないな。


「じゃ俺たちも帰ろうか。家まで送ってくよ」

「うん・・・ちょっとだけケンちゃんの家に寄ってもいいかな」

「ん?別にいいけど どうかしたのか?」

「・・・・・」


よくわからないが、商店街の脇道に入り俺の住むマンションに向かった。


[ガチャ]

ドアを開け玄関に入ると急に楓が抱き着いてきた。


「ど どうしたんだよ急に」

「私は、隣に居てもいいんだよね」


泣きそうな声だ。


「え?」

「春川先輩の件。

 元々は二階堂先輩を好きな人たちが春川先輩は二階堂先輩に相応しくないって貶めたのが始まりだったよね。

 私は、何か言われてるわけじゃないけど、渋川さんは私なんかよりも美人で頭 も良くてスタイルもよくて、私よりずっとケンちゃんにお似合いだと思う。

 ケンちゃんは私が1番だって言ってくれてるけど周りから見たら・・・・」

「・・・前にも言った通り、俺は楓が一番で他は考えられない。二階堂先輩もさっき言ってたじゃないか。春川先輩と一緒にいられて幸せだって。俺も楓と再会して恋人同士になって幸せだ。

 それに俺と楓が付き合うのは俺たちの意志だ。周りが何か言おうが関係ない。違うか?」

「・・・その言葉、信じちゃっていいんだよね?」

「あたりまえだろ。それとも俺の事を信用できないのか?」

「ごめん・・・・・先輩たち見てて凄く不安になっちゃった」

「俺の方こそ、楓に捨てられないように頑張らないとな」

「ケンちゃん・・・・」


俺は楓を抱きしめキスをした。


「ん…」

「楓…」


2人きりの温泉旅行まではと思っていたけど、この日 俺と楓は一線を越えた。

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