第22話 楓の災難

ある日の放課後


「そっかぁ~ 結局半分かぁ」

「まぁ半分でも残ったのはみんな経験者みたいだし良かったかもな」


と裕也。

月曜日の部活の後、入部を希望してきた1年生は、当初見学に来ていた18人の半分の9人だった。少ないと言えば少ないけど入部届を見る限りは中学でバスケをやっていた経験者達だった。

裕也の中学の後輩もいるらしいし、鍛えれば何とか戦力になるかもというところかな。


「とりあえず、課題のディフェンス力強化だな。後で先輩やコーチにも相談しようぜ」

「そうだな。練習プランとかも考えないと」


来季の部長には裕也が内定してる。ちなみに副部長は福島だ。

練習プランとかも今後は自分たちで考えることが必要だ。


「田辺 ちょっといいか?」


とテニス部の結城が声を掛けてきた。


「ん?いいぞ。何か用か?」

「あぁ ちょっと小早川に関係することで話しておいた方が良いかと思ってな」

「楓の事?」

「あぁ。昨日なんだがな、うちの部長が小早川に告白した」

「!!・・・まじか」

「安心しろ。ちゃんと小早川は『付き合ってる人がいる』って断ったよ。

 部長も『そりゃ彼氏いるよなぁ~』って諦めてた」

「そ そうか。。。でもテニス部の部長か。やっぱり楓ってモテるんだな」


うん。確かに今の楓なら俺なんかいつフラれてもおかしくないレベルだしな。


「伝えたい事ってそのこと?」

「いや。部長はまぁ人間出来た人だから、この先も害は無いはずなんだけど、部長をストーカーしてるヤンデレ気味な女が居るって噂があってその共有だ」

「ヤンデレ女?」

「ここ数年、部長と仲良くした女子生徒が、階段から突き落とされたり、倒れてきた荷物が体に当たったりとケガをする事故が頻発してるんだ。

 で、その事故現場の近くでは毎回特定の女が目撃されてて犯人じゃないかって言われてる」

「おいおい 階段から突き落とすとか傷害罪だろ。・・・ってまさか」

「そうだ。今回、小早川さんは告白された側だけど部長に接触した。今まで通りなら何か被害を受ける可能性が高いんだ。だから"出来るだけ小早川さんの傍にいてやれよ"ってことを伝えに来た」

「そうか・・・ありがとな結城。注意するよ」


と教室の入口を見ると村田さんが”1人”帰ってきた。


「村田さん 楓は?」

「あぁ さっき階段のところで"二階堂先輩の件で"って3年の先輩に声掛けられて一緒にいったよ。すぐ戻るんじゃないかな」

「おい!結城これって」

「あぁまずいかもしれない 俺は二階堂先輩を探して連れてくから田辺は小早川さんを!」

「わかった!」


と俺と結城は教室を飛び出した。


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楓何処だ?

楓を探し、村田さんが楓と別れた中央棟の階段を上っていると上の方から何やら女性が言い争う声が聞こえた。

『あそこか!』

屋上へのドアは鍵が掛かっているため普段4階より上の階段に人は居ない。


「拓也に言い寄るのは止めて!」

「だから知らないです!放してください!」

「くっ この!」

「きゃぁ」


屋上へ向かう階段を上ると、踊り場から楓が突き飛ばされたところだった。

階段上から落ちてくる楓。このまま落ちたら間違いなく大怪我だ。


「楓!!」


俺は慌てて落ちてくる楓を抱き留め、そのまま壁際に倒れこんだ。


「っく」


壁に背中が当たり痛みが走り思わず声が出る。


「楓!楓!」

「うぅぅ」


怪我はないようだけど、どうやら気を失ってるみたいだ。

踊り場を見ると、楓を突き飛ばした女が見下ろすように立っていた。


「おい!あんた何で楓を突き飛ばした!」

「・・・・・」

「何とか言え! 打ち所が悪ければ死んでたかもしれないんだぞ」

「ふん。その女が私の拓也に言い寄るのが悪いのよ」

「楓がそんな事するわけないだろ!もし楓に何かあったら、女でも容赦しないぞ!!それにそもそも二階堂先輩が頼んだことじゃないだろう!」


「彼の言う通りだ湊」

「拓也君・・・」


結城が二階堂先輩を連れ来てくれた。


「悪い。遅くなった。小早川は大丈夫なのか?」

「助かった。気を失ってるけど怪我はなさそうだ」


「田辺君だったか。話は結城から聞いた。あいつが迷惑をかけた。小早川さんにはあらためて謝罪する」


と二階堂先輩。

二階堂先輩は俺達に謝罪した後、階段を上り女のところまで行った。


「拓也?」

「湊・・・・どうしてなんだ?俺の知っている幼馴染の湊は優しくて、おとなしくて・・・そんな湊が俺は好きだったんだ。絶対こんな事するような子じゃなかったはずだ。それに中学に入ってからは俺の事を避けてたよな。俺が何か湊が嫌がるようなことをしたのか?」

「・・・私はね。地味でダメな子なんだよ。拓也君は、カッコいいし皆の人気者だよね。私もそんな拓也君の事が大好きだった。でも、私は拓也君の横に立つのには相応しくないんだよ」

「そんな事、湊が決めることじゃないだろ!」

「違うの。私が良くても周りは認めてくれないんだよ。」

「・・・・・」

「私ね。中学1年の時にクラスの女の子たちに『拓也君に近づくな』『お前みたいな地味な女は相応しくない』って暴力受けたんだ。ショックだった。私はただ、拓也君の事が好きなだけだったのに周りからあんな風に思われてたのが。

 それでね。思ったの私は拓也君から離れた方がいいんだって」

「・・・・・」

「本当は高校も別のところ受ける予定だったんだけど、やっぱり拓也君から離れるのが辛くて、結局同じ高校に入ったの。ただ、私は近づけないのに他の女が拓也君と楽しそうに話ししているのを見ると何だかムシャクシャして・・・

 ごめんなさい。私どうかしてるよね。」

「・・・・・湊 すまなかった。俺のせいで辛い思いさせてたんだな」

「拓也君のせいじゃないよ。私が駄目なだけ。。。」

「湊。お前の事は俺が守るから俺の傍にいてくれ」

「・・・でも私が傍にいると」

「言いたいことがあるやつには言わせておけばいい。お前の事は俺が守る。

 今まで傷付けた人のところにも一緒に謝罪しに行こう」

「うん」


女(湊さん)は泣いていた。

もし、湊さんが暴力を受けたときに二階堂先輩に相談していたら未来は違ったのかもしれない。

でも、好きな人に迷惑を掛けたくなかったんだろうな。


二階堂先輩は湊さんを連れて、俺たちに「すまなかった」と一礼するとその場を去っていった。


「これから大変だろうな」


と結城。


「だな。楓を傷つけたのは許せないけど、少し同情するな」

「あ、小早川さん保健室連れてくか?」

「いや 下手に動かすのも心配だしこのまま様子見るよ。結城は先に戻ってていいよ。 それから、今日は部活休むって裕也と村田さんに伝えといてくれ」

「わかった。村田さんや清水には状況伝えとくよ」

「あぁ助かる」

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