第23話 7年前の別れ --楓視点--
昨日、久しぶりに告白された。
相手はテニス部のキャプテンで学内でも人気のある二階堂さんという人だ。
私じゃなくても他に良い人が居そうなもんだけど私に一目堀惚れしたとの事。
確かに人の印象は外見から入るかもしれないけど正直一言も話ししたことが無い人に告白とか私には理解できない。
という事でいつもの様にお断りした。
ただ、今までと違うのは"待っている人が居る"じゃなくて"付き合ってる人が居る"
と言って断った事。
幸い悪い人ではなかったので「そうだよな彼氏いるよな」とすんなり諦めてくれた。ただ、こういうカッコいい人の周りには、時々変な女が付きまとってるんだよね。
さっき、綾と歩いているとき3年生の春川という先輩に
「二階堂君の事でちょっといいかしら?」
と声を掛けられた。
何だか面倒事の気はしたけど、綾に先に教室に戻ってもらい春川さんの後について滅多に人が来ない階段の最上部 屋上の入り口までやってきた。
屋上は鍵が掛かっているから4階より上に行く人は居ないんだよね。
この春川さんが言うには二階堂先輩は自分の大切な人だから、言い寄るようなことはしないで欲しいということらしい。
でも、私は二階堂先輩に呼ばれて行っただけだし、そんな事するわけがない。
ただ、この春川という人は何度説明しても納得してくれない。
そして、言い合いをしているうちに私は階段の方に突き飛ばされた
「きゃ!」
一瞬、宙に浮く体。階段下に落ちていく中で私は意識を失った。
*****************************
「へへぇ また私の勝ちだね」
「くそ!」
ケンちゃんとのサッカー勝負。また私の勝ちだ。
私がボールを持ってゴールまでドリブルで突破出来たら私の勝ち。
途中でケンちゃんがボールカット出来たらケンちゃんの勝ちって勝負。
今のところ私の10戦全勝
「私に勝とうなんて10万年早いわ!」
とケンちゃんに言い放ち、待っててくれていた綾ちゃんと一緒に教室に帰ろうとしたところ、同じクラスの小金井に呼ばれた。
「小早川 ちょっと先生が呼んでるんだけどこっちきてくれないかな?」
「先生が?」
「うん 急ぎの用事らしいんだ」
「わかった。綾ちゃん先に教室行ってて」
と小金井の後をついて校舎裏に行った。
「ねぇ先生は?」
と突然後ろから着き飛ばされた
「きゃ!」
「ふん。ガキそれも女じゃねえか」
「兄貴。女だけどこいつ凶暴でムカつくんだよ」
「まぁ可愛い弟の頼みだ、少し痛い目見させてやるよ」
細身だったけど学ランを来た中学生らしき男子が私を見下ろしていた。
「卑怯だよ小金井! 中学生連れてくるなんて」
「うるせぇ お前が生意気なのが悪いんだよ」
私は背も高かったし、力もそれなりに強かったので同じ学年の子であれば負ける気はしなかった。
ただ、流石に中学生相手それも男子となると体格も力も違う。
「この!そこをどけ!」
と小金井(兄)に向け殴りかかったが、
「へ!弱っちいな」
と逆に押し返されて転んでしまった。
それに転んだ時に足を捻ったのか左足が凄く痛い。
「おぅ 猛。この生意気な女どうすればいいんだ?」
「俺この間こいつに殴られて鼻血出したんだ。こいつも鼻血出すくらい殴ってやってよ。それに鼻血出してクラスで恥かかされたんだ。こいつも何か恥ずかしい思いさせてやらなくちゃ気が済まないよ!」
「女を殴るのは少し気が引けるが・・・
恥ずかしい思いか。。。
ふん。ガキに興味ないが、裸にして写真でも撮ればいいんじゃないか。
一応女みたいだしな」
「へへ、そりゃいいや写真撮ってバラ巻いてやる」
と小金井とその兄貴が近づいてきた。
「ちょ やだよ。こっち来ないでよ」
足が痛くて逃げる事も出来ない・・・
『誰か助けて・・・』
「うぉりゃーー!」
「えっ?ケンちゃん?」
突然、ケンちゃんがモップを構えて私と小金井兄弟の間に割り込んできた。
「どうして?」
「綾ちゃんに楓が帰ってこないから探すの手伝って言われたんだ!
で、悲鳴みたいな声が聞こえたから」
だとしても中学生相手に無茶だよ。
「やい!この変態兄弟。女一人に何してやがる!」
「なんだ、またガキか。猛。こいつも殴っていいのか?」
「うん。こいつも女子に人気で気に食わないからついでに殴ってよ」
「け ケンちゃん 私のことはいいから逃げてよ。怪我しちゃうよ」
「珍しく弱気じゃん。正義は勝つんだよ!」
と小金井(兄)に向けてモップを派手に振った。
「わっ汚え」
モップは水で濡れていて、飛沫が顔にかかったんだ。
予想外の事で一瞬ひるんだところを小金井(兄)にタックルするケンちゃん。
小3とはいえ勢いのついたタックルに尻餅をつき倒れこむ小金井(兄)
そして、そのまま馬乗りになり殴りかかるケンちゃん
「楓を泣かせるようなまねして絶対許さねぇ!それに中学生が小学生の女一人に何やってるんだよ!」
普段のふざけてる感じじゃない本気で怒ってる顔だ。
ただ、
「この、あんまり調子に乗ってんじゃねぇ」
と小金井(兄)が体を起こしケンちゃんの胸倉をつかむ。
やはり体格差は大きい。壁際に追いつめられるケンちゃんと私。
と、
「先生こっち!」
「おい お前ら何やってるんだ!!」
綾ちゃんと裕也君が先生を連れて走ってきた。
小金井兄弟の横暴はここまでだった。
私は足を痛めていたので保健室に行って親に迎えに来てもらって帰った。
ケンちゃんと小金井兄弟は職員室に連れていかれて色々注意を受けたそうだ。
そして翌日終業式
小金井は欠席だった。
後で聞いた話では、兄弟共に全寮制の私立の学校に転校になったそうだ。田舎だと色々噂も広がるのが早いから家族も近々引っ越しするらしい。
そして、ケンちゃん・・・
「えぇ寂しい話だが、田辺がご両親の仕事の都合で転校することになった」
と先生。
「急な話だけど、親の仕事の関係で九州の学校に転校します。
今まで色々とありがとうございました。父さんの会社は横浜なので、またいつか戻ってくることもあると思います。その時はよろしくお願いします。」
とケンちゃん。
「やだよ」
静な教室に私の声が響く
「え?」
「ケンちゃん私に負けたままで、どっか行っちゃうき?居なくなっちゃうなんてやだよ。。。」
みんなの前だというのにこの時は何故か号泣してしまった。
大声で泣く私を綾ちゃんや裕也君が慰めてくれたけど、何だか悲しくて寂しくて涙が止まらなかった。ケンちゃんが居なくなっちゃう。
でも、ケンちゃんは私を見ながら優しく言ってくれた
「絶対戻ってくるから。大丈夫だから」
その言葉を聞いて私は言った。
「待ってるから、絶対戻って来てよ!」
********************
「う~ん ケンちゃん・・・・」
「ん?起きたか?」
頭にモヤが掛かったような気分。
随分昔の夢を見ていたような気もする。
「あ あれ、私確か階段から落ちて」
「あぁ もう大丈夫だ。何処か痛いところとかないか?」
「うん 大丈夫。あの先輩は?」
「テニス部の部長が連れてったよ。あの二人も幼馴染らしいし悪い様にはしないだろ」
「そうなんだ。私 またケンちゃんに助けてもらったんだね」
「気にすんなよ。お前の事は俺が守ってやるって」
「ふふ ケンちゃん言いながら照れてる。顔赤いよ」
「う うるせ。大丈夫なら帰るぞ」
7年前の別れの時は訳もわからずに泣いた。
でも、今ならわかる。
やっぱり私はこの人が好きなんだ。
「うん ありがとう 大好きだよケンちゃん」
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