2011年【疾風】09
タンクトップ姿から察する通りで、勇次は普段から手ぶらに近い状態で過ごしている。
必要なものは現地調達するタイプなのだ。
ベストがなければ、ベターを用意する。代用品をみつける生き様は感嘆に値する。
もしかして勇次が女を覚えたら、特定の誰かと連れ添うことはないのかもしれない。
現地調達をするような感じで、あれやこれやと
――知らず知らずのうちに女子とのフラグを立てているところから考えても、そんな素質はあるのだ。
まぁ、でも。
いまは童貞だから、そこまで危惧する必要もなさそうだ。
童貞は出発前の準備を続けていた。
飲み物を持ち運ぶのは邪魔になるので、出発前にたらふく飲んでおくという知恵を発動させる。
山に入る前には、必ず二リットルの水を飲み干すのだが、今回はそこまで量を飲んでいない。
皿に入った美味そうなスープで、水分補給をすませていた。
「えっと、なんだっけ。オレの勝ち?」
「盛大に間違えるなよ。食ったあとは、ごちそうさまだろ?」
「じゃあ、いってきまーす」
外出する際の挨拶はきちんとしてから、勇次は店をあとにする。
入り口のドアベルが鳴り響く中、疾風はつっこんでしまう。
「いや、そこはボケないのか。普通なんだ?」
いまのが若者の流行りなのかな、と疑ってしまう。
だとしたら、ついていけない。
二十代は、さっさと帰ってしまおう。
カウンター席のパソコンのキーボードの上に、伝票が置かれている。
小銭が足りないので『釣りはいらない』と、伝票に一文を残しておく。
キーボードの上に、お札と伝票を置いておけば、暗い店内だからモニターの光で気づいてくれるはずだ。
ふと、モニターの画面に目がいく。
『ひとりかくれんぼ』の終わらせ方が、表示されている。
このページを見ていたが、こんなところまでは読んでいなかった。どれどれ。
・『ひとりかくれんぼ』の終わらせ方に関して。
塩水を飲んで、『私の勝ち』と宣言する。
途中で終わらせず、最後までやらなかった場合――
疾風の背後で、バタンと音がした。
パソコンモニターの光に目がなれていたせいで、振り返ると店内の暗さに心臓が跳ねる。
闇に向かって目をこらす。
ぼんやりと輪郭が浮かび上がってくる。
胴体に頭と両腕と両脚がついている。男子高校生ぐらいの大きさの
――それを人間というのはわかっている。
「えっと。どちらさん?」
幽霊よりも、人間のほうがこわい。
閉店作業中を狙った強盗だったらどうしよう。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ」
低く唸るような小さな声をあげながら、人の形をしたなにかは疾風に抱きついてきた。
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