2011年【疾風】07

「全盛期を知らんから、あんなもんでも評価してくれるんだよな。なんか切なくなってきたし、帰ってオナニーして寝る」


「帰るってマジか? 兄貴が店長に車借りて、あずきたちを迎えにいくんじゃねぇの?」


「なんだよ、そのおそろしい計画は? 未成年を大量につれて夜の町をドライブしろってか? そんな現場を警察に見つかったら、どんな言い訳すりゃいいんだよ」


「正直に話せばいいだろ。みんなでかくれんぼをするって」


「なに、その怪しいおっさん? 変態? そんなUMAもいるのか?」


「そんなUMAはいねぇよ」


 見るからに勇次の機嫌が悪くなっている。自分が大事にしているものをテキトーに語られたら、いやな気分になるものだ。


「上等ォだ、悪かったって。あとただのかくれんぼじゃなくて『ひとりかくれんぼ』だから。いい加減に覚えろよ」


「なめんなよ、覚えたっての。『ひとりかくれんぼ』は都市伝説のひとつで、こっくりさんよりも危険な降霊術なんだろ?」


「あれ? 詳しいな」


「ひまだったから、ちょっとな」


 勇次の視線が、一瞬だけパソコンに移動する。


「もしかして、UMAだけじゃなくて幽霊にも興味が湧いてきたのか?」


「微妙だな。幽霊を捕まえる方法があったら、もうちょい興奮しただろうけど」


「ちなみに、UMAはどうやって捕まえるつもりだったっけ?」


「ぶん殴って捕まえる」


 単純で覚えやすい解答をしてから、勇次は恐ろしく速いジャブをする。店内の暗さも相まって、ほとんど動きが見えなかった。


「幽霊相手だと、殴る価値があるなし以前の問題ってことか」


「そもそも『ひとりかくれんぼ』もやる価値あるのかね?」


「それも価値があるなし以前だぞ。守田くんは澄乃ちゃんと喧嘩してまで準備を進めてるからな」


「アホだな、あいつ。女子がどれだけ集まるかもわかんねぇのに」


「誰も来ない可能性もあるわけだもんな。お前と二人で怪談を楽しむって『ひとりかくれんぼ』の結果とかどうでもよくてホラーだ。笑える」


「そんな事態にはなんねぇよ。あずきは来るだろ」


「ほう。すごい自信だな」


「よくわからんけど、なんでも来るからな。ノリがいいんじゃね?」


 女子高生の田中あずきは勇次のことが気になる乙女だ。

 自分のクラスでラブコメ展開が起こっているのに無自覚とは、罪深い男よ。

 なんかムカつくから、丁寧に教えたりはしない。

 まだまだ童貞のまま暮らしていけ。


「あと、ゆいなも呼んだら来るかもな。動画撮影されそうだけど」


 ゆいな?

 勇次が田中あずきを『あずき』と初めて呼び捨てにした衝撃の再来だ。

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