2011年【疾風】04

「シップーさん、車にぬいぐるみ乗ってたりしませんか?」


「あいにく、交通安全のお守りと護身用の武器しか載せてねぇな。余計なもの載せるとMR2のポテンシャルを引き出せんからよ」


「らしい理由っすね。しゃーない。ぬいぐるみは、澄乃に頼むか」


 今回の企画に、命でも賭けているほどの真剣さだ。

 守田は急いで喫茶店の奥にある居住空間に消えていく。


 ついさきほど『ひとりかくれんぼ』の企画を思いついたくせに、それをすぐに形にやろうとするのは、さすがだ。

 現状では女の子が来てくれるのかもわからないのに、準備段階で手を抜く気はないらしい。


「あいつ、オレには用意するものを持っていないか、聞きもしねぇのか」


「アホか。勇次がぬいぐるみ持ち歩いてたら、それが一番のホラーだろうが」


「ゲーセン帰りなら、持ってるときもあるっての」


「嘘つくな。お前がゲーセンのパンチングマシーン壊して、出禁になってる店あるの知ってんだぞ」


「ああ。そういや、殴って壊したことあったな」


 自分のパンチ力を思い出して、ツボに入ったのか勇次は爆笑する。

 サイコ野郎め。


「笑ってる場合か。だいたい、お前は入学早々に喧嘩して、学校の自販機ぶっ壊したんだろ? 自販機が壊れるんだったら、パンチングマシーンも壊れるかもって、考えろよ」


「あー。笑ったら、腹へってきた」


 反省の色が見えない。

 むしろ何か思うところがあって、いまみたいにカレー用のらっきょうを爪楊枝で刺して食べまくっているのなら、それはそれで恐怖ではあるが。


「だめだ、逆効果だ。ちょっと食ったら、腹がぎゅるぎゅる鳴り出してきた。店長、なんか食い物くれ」


「ラストオーダーはとうに終わっとる」


「なんか作ってんじゃん」


「新メニューの開発中だ」


「捨てる部位を油で揚げてくれるだけでもいいんだけど。頼むよ」


「おい、勇次。あんまり迷惑かけんなよ。あと、そんな妙なもんを食おうとするな」


「川島くんの言うとおりだ。変なものを提供して、腹を壊されたら店の信頼問題にも関わってくるからな」


「そんな心配しなくても大丈夫、大丈夫」


「鶏の頭や内蔵を油で揚げて食おうとしてるのに、その自信はどこからくるんだ?」


「でも、串松かクソ松か名前が曖昧な店の串カツよりも美味くなるって」


「そりゃ当然だな。比べるまでもねぇ。そういや、小麦アレルギーの子供を連れた家族四人が来店したとき、我らが守田ファーザー店長は神対応したんだぞ。知ってるか?」


「守田が自慢げに話してたから、覚えてる。たしか、小麦の代わりにりんごを使ってカレー作って、さらにサービスで米粉であげたカツを乗せたんだろ。そういや、あの親子はクソ松から追い返された客だったって話だ」

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