2011年【疾風】03

 疾風の親友のキヨこと近藤旭日が、頭の中に浮かぶ。

 想像の中で

『羨ましくて仕方ねぇ』

 とキヨが、ぼやいている。


 貧乏くじを引きやすい親友は、もしかしたら幽霊にまで厄介事を押し付けられた経験があるのかもしれない。


 なんにせよ、心霊現象はUMAと同じく、超常現象にカテゴライズされるものだ。

 UMA好きの勇次ならば、幽霊の存在も肯定すべく守田に反論すると思っていた。

 だが、UMA以外には興味ないのか、案外おとなしい。


「ところでよ。勇次は『ひとりかくれんぼ』ってのを知ってるのか?」


「ひとりえっちがオナニーだから、そこから考えるに」


「なんで、そんなところから考えはじめた? その理屈だと、普通のかくれんぼが、乱交かくれんぼって名前になるだろうが」


「待てよ、兄貴。そうなると、何人以上のかくれんぼからだと、大乱交になるんだ?」


 ――何人以上? は? なにいってんだ、こいつ?


 あまりにもどうでもいい質問を受けて、疾風のボケたい気持ちがムクムクと湧き上がる。

 それは、ちょうど女性の裸を見て勃起する感覚にも似ていた。


「大乱交セックスブラザーズ。ちなみに、僕の持ちキャラは、ピンク色でなんでも吸い込む奴だから」


「なにそれ? 任天堂のスマブラにも似た特徴を持つピンクの悪魔がいるけど、セクブラのそいつは、どんな技を使うんだ?」


「コピー能力で、ピンクローターになったりするからな」


 疾風と勇次の間に挟まって黙っていた守田は、天井を見上げるのに飽きてカウンター席に拳を振り下ろす。


「ついに、我慢できなくて大人が悪ふざけしだしたよ。これから、年上にタメ口きくけど、大目にみろよ

 ――言うまでもねぇが、何人以上でも、大乱交かくれんぼにはなんねぇよ。あとな。親父が厨房にいるのに、下ネタとかやめてくんない? 気まずいんだよ」


 守田のツッコミは小声だったが、力強い。

 謝罪の意をジェスチャーで伝えてから、疾風は『ひとりかくれんぼ』についての概要をパソコンで確認する。

 『ひとりかくれんぼ』を行う際に用意するもの。


 手足があるぬいぐるみ。米。縫い針と赤い糸。刃物。コップ一杯程度の塩水。爪切り。


 パソコンの画面を横から覗きながら、守田は落ち着き払っている。

 大乱交の話題はなかったことにして、厨房の父親に向かって声をかける。


「親父。生米もらっていい? あと、包丁も使いたいんだけど」


 守田の父親にして喫茶店の店長は、でかい包丁を使って、鶏をさばいている。

 肉を断つ刃の音は店内に流れる音楽でかき消されているはずだ。

 なのに、見ているせいか、脳内で補完される。

 ぐちゃり。


「おお。好きにしろ」


 鶏の解体作業中は無表情だった店長も、息子に返事をする時だけは、笑顔を見せる。


「あとは、縫い針と赤い糸。ぬいぐるみには、手足がついてないといけなくて。ん? 塩水。あー、色々と準備しなきゃいけないわけか」


 店長が鶏の肛門から赤いひも状のものを引っ張りだした。

 疾風の視線に気付き、「赤い糸ならこれを使うか?」と言いたそうに見せてきた。

 首を振って、疾風は遠慮の意志を伝える。

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