第11話
「責任は取って貰わないといけませんわね」
そう言いながら、梨莉佳は聖也に顔を寄せる。
そしてそのまま、口と口が触れそうになるまで寄せられる。
「何をするつもりだ」
「あら?女性が男性にここまで近付いたら、1つしかないではありませんか。それとも、わたくしでは駄目ですか?」
「梨莉佳は可愛いと思うけど」
「っ~、そっそうですわね。そんな可愛いわたくしがここまで迫ってるんです。だから」
「でもごめん。僕は今、ティリスのことで精一杯なんだ。だからそういう関係にはなれない。もちろん梨莉佳のことは友人として好きだけど」
「……………そうですわね。わたくしと聖也君はそういう関係ですものね。ごめんなさい。わたくし、どうかしてましたわ」
梨莉佳はそう言って、泣きそうな顔をして下がった。
お人好しの聖也は、そんな顔をさせたままではいけないと考えてしまい。
「あ、でも梨莉佳がそういう風に思ってくれてることは嫌じゃないから」
「っ~!?もっ、もう!!聖也君は優しすぎですわ!!…………これでは本気で好きになってしまうではないですか」
「最後なんて言ったんだ?」
「なんでもありませんわ。それより責任ですわ!!責任っ!!」
梨莉佳は自棄になって片手腰にやり、聖也を指差した。
「聖也君!!これからわたくし達に付き合いなさい!!これは命令ですわ!!!」
「え、でも僕も潤達と」
「そんなの関係ありませんわ!!」
(この梨莉佳は逆らっちゃいけないやつか。仕方がない。それにしても梨莉佳って意外と子供っぽいところあるんだな)
聖也は駄々っ子のような梨莉佳の勢いに負け、梨莉佳達に着いていくことにした。
「それにしても梨莉佳って、意外と子供っぽいところもあるんだね」
「それはどういう意味なのでしょうか?」
梨莉佳は子供っぽいと言われ、ピクっと反応する。
「さっきの」
「さっきのって、わたくしが生えていないから子供っぽいということですかっ!!!失礼ですっ!!失礼すぎますわっ!!!」
「そういえば生えてなかったね………あ」
聖也は駄々っ子のことを言おうとしたのに、梨莉佳の勘違いで、またやらかしてしまった。
「もう本気で怒りましたわ!!聖也君はわたくしを辱しめたいのですわね!!下着を着け忘れて来たわたくしを辱しめたいのですわね!!」
「え、まさか上も忘れたの?」
「はっ!?くぅぅぅっ~~~」
自爆してしまった梨莉佳は、どう怒っていいのか分からなくなってしまう。
「もうっ!!いいですから、わたくし達と一緒に来るのですわっ!!」
「わかったから、僕もトイレに行かせてくれ!!」
「はっ!!そうですわっ!!わたくしも聖也君のを見ればおあいこに」
「何馬鹿なこと言ってるんだ!!」
そんなゴタゴタがありながらも、聖也は無事に用を済ませた。
そして、梨莉佳を連れて潤達の元へと戻った。
「あれ、梨莉佳じゃん。なんで聖也と一緒にいるんだ?」
潤は戻って来た聖也に問い掛ける。
「いや、その………色々あって」
「という訳で、聖也君はわたくし達と遊ぶことになりましたので」
「いやいや。どういう訳だよ」
「実はっ!?」
「その口を開きますと、どうなるかお分かりですわよね?」
気が付くと、聖也の目の前にはいつも茉莉佳を叩いている大きなハリセンが突き付けられていた。
「はっはい、何も言いません」
「よろしいですわ。ほら、行きますわよ」
梨莉佳に付き従うように、聖也は自分の荷物を持って、ティリス達の方へ戻る梨莉佳に付いていった。
「マジ東雲妹はおっかないよな」
「ああ。あのハリセンで人を殺したという噂も」
席に座っていた潤以外の男子2人は、ひそひそと梨莉佳を罵倒する。
(まだ同じ空間にいるのに、どうなっても知らねぇぞ。ほら来た)
潤が内心そんなことを思っていたら、本当にやって来て。
「聞こえておりますわよ。ふっ」
スパパァーーーーンッ!!
「ぐふ………」「ここまで…………か」
「何やってんだお前ら」
潤は目の前で、梨莉佳の神速のハリセンに叩き伏せられた2人を、哀れな奴を見る目で見ていた。
「潤、悪いな」
梨莉佳の後ろにいた聖也は潤に一言掛ける。
「なんとなく察しは付いた。頑張れよ」
こうして、聖也は梨莉佳に連れ去られるのだった。
☆ ☆ ☆
「あっ、セイヤさん」
聖也は梨莉佳に連れられ、ティリス達の席に行くと、ティリスが嬉しそうに立ち上がり、聖也の袖をぎゅっと握ってきた。
「あれ、なんで聖也がいるのよ。まさかストーカー?」
「違うって。僕も潤達と遊んで、ここでお昼を食べてたんだよ」
雪菜からのいらぬ疑いを晴らすために、聖也はすぐに否定をした。
「で、潤達はどうしたのよ」
「それは………」
聖也は経緯を言っていいのか迷い、梨莉佳を見た。
「わたくしが聖也君を向こうから引き抜いて来たのですわ。ティリスさんもそろそろ聖也君分が足りなくなりそうでしたし」
梨莉佳の言葉に視線がティリスに集まる。
「ま、まだまだ平気ですよ」
そう言うが、ティリスは聖也にぴったりとくっついている。
「そうは見えないわ」
「うん。見えないね」
「ええ。見えませんわ」
「うぅ」
(………名前の呼び方も変わってるし、茉莉佳と梨莉佳とは仲良くなったみたいだな)
このやり取りを見た聖也は、ティリスが上手く友人関係を作れていることに安心した。
「で、この後はどうするんだ?」
「本当はボーリングにしようかと思っていたのですが、わたくしは危険ということで、カラオケにしようかと」
「でもティリス、歌とか知らないんじゃ」
「はい。なので、皆さんの歌を聞いて勉強をしようかと思いまして。せっかくなので、セイヤさんの歌も聞いてみたいです」
「僕はそこまで歌は上手くないよ」
「いいんです。セイヤさんの歌が聞きたいんです」
ティリスはきっぱりと言い切った。
聖也はティリスの期待の眼差しに勝てるはずはなく、何曲か歌うことを覚悟した。
「それじゃあさ、そろそろ行こうよ。ボク、カラオケ久しぶりなんだよね」
ティリス達は聖也を交えて、カラオケへと向かった。
☆ ☆ ☆
カラオケは思っていた以上に盛り上がった。
というのも、ティリスが歌の多さに驚き、感動し、皆が歌う歌に手拍子までして、ノリノリだったのだ。
そしてティリスに感化され、他の聞いている人もおもいっきり楽しむことが出来た。
雪菜が流行りのアイドルの曲を歌っている最中。
「あの、お手洗いはどこにありますか?」
ティリスは隣にいる聖也に聞いた。
「確か……扉を出て右に行けばあったと思うよ」
「ありがとうございます。少し席を外します」
ティリスはトイレに行くために席を立った。
「わたくしも一緒に行きますわ」
梨莉佳も立ち上がり、ティリスと一緒にトイレへと向かった。
そして、トイレを済まして戻ろうとした時。
「ティリスさん、ちょっとよろしいですか?」
梨莉佳がティリスを呼び止めた。
「なんでしょうか」
「ぐだぐたするのは嫌いですので、はっきり言いますわ。ティリスさんは本当に聖也君が好きなのですか?」
「はい、好きです」
「それは………その好きは異性に対してのものですか?わたくしには、まるで家族に甘えるようなものにも感じますわ」
「それは………はい、セイヤさんのことは異性として好きです」
ティリスは答えたが、一瞬迷ってしまった。
聖也のことを好きなのは確かだし、問題はない。
ティリスはそう思っているのだが、何故か迷ってしまった。
ティリスはそこに小さな不安を感じてしまう。
「そうですの。それならばわたくしも言っておきますわ。わたくしは聖也君のことが好きですわ。だからこれは勝負ですわ。わたくしは遠慮なんてしませんから」
「リリカさんもセイヤさんが好きなんですね!!分かりました。これからは2人でセイヤさんを支えていきましょう」
「ええ、そうですわね。って違いますわ!!」
梨莉佳はいきなり現れた聖也の婚約者を名乗るティリスに、宣戦布告をしたはずだった。
なのに、相手ティリスは一緒に支えようと言って来たのだ。
「…………そういえば、ティリスさんは外国の方でしたわね。ティリスさんのいらした国では、一夫多妻制なのですか?」
「そうですね。王族や上流貴族の方は、多くの子孫を残すために妻を何人も作ります」
「王族って、ティリスさんの国は王政なのですわね。ということは………」
梨莉佳は頭の中で王政の国を挙げていく。
「それではリリカさん、これからよろしくお願いしますね」
「え、ええ。よろしくお願いしますわ」
これでいいのかと思いつつ、この場は了承するのだった。
そして戻る途中。
(それにしてもなんで私は迷ってしまったのでしょうか。セイヤさんのことは好きなのに………。セイヤさんは頼りがいがありますし、甘えさせてくれます。同じセイヤさんが好きなリリカさんを見ていれば分かるでしょうか)
ティリスはそんなことを考えていた。
☆ ☆ ☆
カラオケは盛り上がり、楽しい時間となった。
楽しい時間は過ぎ去るのも早く、早くもカラオケから出る時間になってしまう。
「久々に歌いまくったわね」
「皆さんと最後に歌えて嬉かったです」
最後は皆の計らいで、同じ曲を三回も入れ、ティリスも交えて有名で歌いやすい曲を歌ったのだ。
「それじゃあ会計は割り勘しようか」
「いいえ、ここは聖也君に払って頂きますわ。ね、聖也君?」
茉莉佳の言葉を否定し、梨莉佳が聖也に向かって笑顔を向けて言ってきた。
「そ、そうだね。僕が払うよ」
「へぇ、聖也君にしては太っ腹だね」
「ふふ。ありがとうございます」
「…………なるほどね」
聖也と梨莉佳のやり取りを見て、茉莉佳は気が付かなかったが、雪菜はなんとなく何があったか、察しが付いた。
「セイヤさん、私も払います」
「いや、いいんだティリス。これはけじめだから」
「けじめ、ですか?」
ティリスは内容がよく分からなかったので、きょとんとした顔になる。
そして、今回のカラオケの料金は全て聖也が持つことになるのだった。
カラオケから外に出ると、既に薄暗くなってきており、この日は解散となった。
帰り道は、聖也とティリスの家と同じ方向の雪菜と一緒だ。
「聖也も大変ね」
「何がだ?」
雪菜は突然そんなことを言ってきた。
「だって梨莉佳と何かあったでしょ。あの子は性格からして、色々と厄介よ」
「まぁ、確かにそうだけど…………はぁ」
聖也は今日あった梨莉佳との出来事を思い出し、ため息を吐いた。
聖也は成り行きのような形で、梨莉佳から告白をされていた。
聖也と雪菜は婚約者として一緒にいるティリスに、何かしらアクションを起こして来ないかが心配だった。
「ティリスも梨莉佳と何かあったら言いなさいよ。あの子に目を付けられると本当に大変だから」
「えっと、リリカさんは平気だと思いますよ。私と一緒にセイヤさんを支えましょうって、確認もしましたし」
「は?」「え?」
ティリスの言葉に2人は固まってしまう。
「待って。ティリス、それってどういうこと?」
「実はですね」
ティリスは梨莉佳とカラオケのトイレで話したことを、聖也と雪菜に説明をした。
「はぁ………聖也、本当に気を付けた方がいいかもしれないわよ」
「覚悟はしておく」
「あの、何かいけなかったのでしょうか?」
「ティリス、この国では結婚は1人としか出来ないんだよ」
「そうなのですね…………あれ?それでは私とリリカさんが一緒にセイヤさんに嫁ぐことは」
「出来ないわね」
「だから梨莉佳はティリスに牽制してきたんだよ」
「わわわわ私、敵に塩を送ったということでしょうか!?」
「そうなるわね」
「っ!?」
ティリスは驚いて声が出せなくなってしまう。そして最後に涙目になり、聖也に頭を下げて謝ってくるのだった。
☆ ☆ ☆
「ティリスさんは………いえ、ティリスさんもお人好しすぎますわね。まさかあんなことを言われるなんて予想外でしたわ」
梨莉佳は1人で風呂で呟いた。
梨莉佳の家の風呂は、旅館のような大きな風呂をしており、10人は入れる木製の浴槽がある。
そんな中、1人でティリスとの会話を思い出していた。
「でもこれは好機になりそうですわね。それに、ティリスさんは聖也君にしていないことありますし、そこをわたくしが突けば、効果があるはずですし…………。そうと決まれば、善は急げですわね。まずはそうですわね………」
梨莉佳は風呂から上がった後も、聖也を落とす作戦を立てるのだった。
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