第10話

 第三レース。


 ここでもティリスは奇跡を起こした。


「嘘だあぁぁぁぁ!!」


「やったやったやりました♪」


 梨莉佳は得意なコースと言っていたこともあり、一位を取っていた。


 予想外だったのは、またもや三週目からのティリスのアイテムによる追い上げだった。


 二位を走っていた茉莉佳は、雪菜と接戦をしていたのだが、そこにティリスのお邪魔アイテムが炸裂し、ティリスが2人を抜き去った。


 更に雪菜のお邪魔により、茉莉佳はまさかの最下位に転落してしまったのだ。


 これで総合順位は雪菜と茉莉佳が同列一位、ティリスと梨莉佳が同列三位となった。


 しかも、この一位と三位の点差は僅か、だれが優勝してもおかしくはなかった。


「さぁ、次が最終レースだよ。絶対負けないんだから」


 意気込む茉莉佳。ここで一位を取れば、優勝は確定する。


「私だって負けないわよ」


「わたくしだって一位を取れば優勝が見えますわよ」


「が、頑張ります」


 全員が全員、一位を取れば優勝出来る点数となっているのだ。


 そして、最終レースが始まった。


 やはり最初にトップに出て来たのは雪菜と茉莉佳。しかし、一週目から梨莉佳によるお邪魔アイテムで、一位から三位は目まぐるしく変わる。


「なるほど。あそこはあれを使えば」


 そんな中、ティリスは争う三人を後ろから追いかける形で観察していた。


 二週目に入っても、ティリス以外の順位はコロコロと変わり続ける。


 しかし、二週目が終わり、もうすぐ三週目に入ろうとした時、変化が起こった。


「あぁっ!!」「あら」「ここで来ますのね」


 全員のお邪魔するアイテムを、ティリスは運良く引き当てたのだ。


 そのお邪魔アイテムのお陰で、ティリスは一気にトップに踊り出た。


 だが、他の三人もただでやられるわけではなかった。


 すぐに立ち直し、ティリスを追い掛け始めた。


「甘いよ!!このコースは知る人ぞ知るショートカットがあるんだ!!」


 茉莉佳はショートカットを使って、ティリスを追い抜こうとするが。


「そうみたいですね。確かここを」


「なっ!?」


 茉莉佳が使おうとしたショートカットを、初心者のティリスが使ったのだ。


 これには流石に茉莉佳だけでなく、梨莉佳と雪菜も驚きを隠せないでいた。


「後は確か………」


 その後も、ティリスは初心者が知るはずもないショートカットを幾つも使い、そのままトップでゴールした。


「やりました………やりました♪」


 ティリスはやりきった感を出して、心から嬉しそうに喜んだ。


「そ、そんな…………まさかボクが負けるなんて」


 茉莉佳が二位となり、続いて雪菜、梨莉佳とゴールする。


 勝負の結果は、ティリスと茉莉佳が同列一位となり、雪菜が三位、梨莉佳が最下位となった。


「わたくしが最下位ですか」


 梨莉佳は頬を赤くし、ため息を吐いた。


 理由は、最下位は恥ずかしい話をするという罰ゲームがあるからだ。


「それにしてもティリス、あのショートカットをよく見つけたわね」


「ふふ。梨莉佳さんのアドバイスのお陰です」


「わたくしの?」


「はい。梨莉佳さんは『コースを覚えて下さい。そして、上手い人をよく観察して下さい』と仰いました。私は皆さんの後ろから観察し、コースを、ショートカットを覚えたんです」


「でも覚えたからといって、それをいきなり実行出来るのは凄いわ」


「だね。ボクはフィルテリアさんが初心者だからと侮っていたよ」


 ティリスの言っていることは理解出来ても、それを難なくやってしまうことに少し驚いていた。


「さてさて梨莉佳、恥ずかしい話を聞かせてもらおうかな」


「わ、わかりましたわ。でも話をする前に、隅に行きませんこと?恥ずかしいので」


 ということで、4人は自動販売機が並ぶ辺りに移動した。


 そして、梨莉佳の恥ずかしい話を聞くことになった。


「その、本当にお恥ずかしいので、小声で一度しかいいませんわよ」


 梨莉佳の言葉に皆は頷き、聞き漏らさないように近付いた。


「じ、実はですね。本当にお恥ずかしながら先程のゲームをやるまで気が付かなかったのですが、わたくし、その、下着を着け忘れて来てしまったようでして」


「「「………………え?」」」


 まさかの言葉に三人は呆然とする。


「なんでそうなるのよ」


「その、実はわたくし、いえ、わたくし達姉妹は就寝時はパジャマは着るのですが、下着は身に付けないのですわ。それで今朝、フィルテリアさん達と遊ぶことに楽しみすぎて………その…………」


「パジャマは着替えはしたけど、下着を着るのを忘れてた、と」


「どうやらそのようですわ。まぁ下はスカートなので気を付ければ良いですし、上のこの服にはパットが付いているので問題はないですわ。スースーして気にはなりますが」


 梨莉佳の顔は真っ赤になってはいたが、冷静さを欠くことはなかった。


「それにしても梨莉佳、下着を着けてないなんて、意外とお馬鹿なんだね。姉としてボクは恥ずかしいよ」


「む。そうですか、そうですわね。お姉様も下着着けてないことを黙って上げたのに、そんな扱いをするのですわね」


「何を言ってるんだ。ボクがそんな恥知らずの真似なんて…………」


 梨莉佳の言葉に、茉莉佳は自分のあまり無い胸とキュロット越しにお尻を触った。すると、いきな。固まってしまった。


「…………あれ?」


「わたくし達は同じ部屋で着替えるではないですか。そして、下着はわたくしが姉さんの分もいつも一緒に出しているのですよ。わたくしが忘れたのなら、姉さんも忘れてることになりますわ」


 双子揃ってのノーパンノーブラに雪菜は呆れて声も出ない。


「あの、一度帰りますか?」


 ティリスは2人を気遣い、そんな提案をする。


「いえ、気を付ければ大丈夫ですわ」


「そうだね。ボクはキュロットだし、胸も抑える程ないから…………はぁ」


 茉莉佳は自分で言って悲しくなってきていた。この時だけ、双子なのになんで胸がこんなに差があるのか。それだけは不思議でならなかった。


 結局、そのまま遊ぶことになった。


「フィルテリアさん」


 梨莉佳がティリスをあるゲームに誘おうと、声を掛ける。


「あの、ティリスって呼んで頂いていいですよ。私はお二人のこと名前で呼んでますし、その、お友達ですから」


「えっいいの!?」


「わかりましたわ。それではティリスさんと呼ばせて頂きますわ」


「ボクはティリスって呼ぶね」


「はい。ところでリリカさん、何でしょうか」


「ティリスさんとあれの協力プレイをしようかと思いまして」


 梨莉佳が指差したのは、迫り来るゾンビを撃ち倒すガンシューティングのゲームだ。


「あれはどのようなゲームなのですか?」


 案の定、無知であるティリスには見ただけでは、どういったゲームなのか分からなかった。


「簡単に説明しますと、ゾンビをこの銃を使って倒すのですわ」


「ジュウ?光魔法ではなくてですか?」


「光魔法?」


「あっ、いえ、何でもありません。え、えへへ」


(うぅ、セイヤさんもいないのに私ったらなんてことを)


 つい口が滑ってしまったティリスは、追求されないことを祈りつつ、笑って誤魔化そうとした。


「まぁ、確かにゾンビが出るゲームでは、光魔法が有効なゲームもありますわね。でもこのゲームでは銃で倒すのですわ。これはですね」


 ゲームの筐体の中に入り、梨莉佳がティリスに説明をしていく。ティリスは追求されなかったことに安堵の息を吐き、梨莉佳の説明を聞く。


 そして、銃とこのゲームのことを教えてもらったティリスは、さっそく梨莉佳と協力プレイをすることになった。


「ティリスは大丈夫よね?」


「うーん、ボクはこの手のゲームは苦手だから詳しくはないけど、梨莉佳がものすごく怖くて面白いって言ってたかな」


「梨莉佳がそう言うのって、ティリスには刺激が強すぎるんじゃない?」


「………そうかもしれないね」


 筐体の外では、雪菜と茉莉佳が不安そうに、中に入ったティリスの身を案じていた。


 そして、その薄暗い筐体の中では。


「リリカさん、凄く怖いゾンビさんなのですが。血も出てますし」


「あら。それがいいんじゃないですか。これからこのゾンビ達を血祭りに上げるのですから。うふふふふふ」


「うぅ、リリカさんも怖いです」


「そんなことないですわよ。ティリスさんはわたくしが守りますから、安心してゾンビを撃って下さいな」


「が、がんばっきゃあぁぁぁぁ!!!」


 いきなりゾンビのアップの画面に移り、ティリスは悲鳴を上げてしまう。


「ティリスさん、まだ始まってないですわ」


「でも怖いものは怖いですぅ!!」


「ほら、ムービーも終わって本番ですわよ」


「うぅ………」


 始める前から疲れてしまったティリスだが、頑張って銃を梨莉佳に教わったように構える。すると、画面の遠くの方から沢山のゾンビが、唸り声を上げながら向かってきた。


「きっ、来ましたっ!!来ないでっ!!」


 ティリスは目を瞑って、ゾンビが見えた方向に乱射する。


 数発は当たるが、撃つときに目を瞑っているため、ぜんぜん当たっていない。


「うふふふふふふふ」


 梨莉佳は梨莉佳で、奇妙な笑い声と共に、銃を撃ち続ける。


「凄いです。リリカさんの撃ったゾンビさん、一回で倒れていきます」


「うふふふふ。わたくしはヘッドショットキルしてますから。ふふふふふふふ」


 梨莉佳はティリス側に現れたゾンビも、ティリスの様子を見ながら、確実に仕留めていく。


 なので、ティリスがピンチになることはない。


 しかし


「殺してやりますわ。殺してやりますわ」


「あのリリカさん、その、大丈夫ですか?」


「大丈夫に決まってるじゃないですか。うふ、うふふふふふふ。皆殺し………皆殺しですわぁ♪うふふふふふふふふふふ………」


「リリカさんが壊れてしまいましたっ!?」


 その後、ティリスはゾンビと梨莉佳に恐怖を感じ、ぜんぜんゾンビを倒すことが出来なかった。


 しかし、ゲームは終わらない。


 何故なら、梨莉佳の撃つ銃弾の殆どが、ヘッドショットキルをしていて、1人で次々とゾンビを倒していくのだ。


「ほらほらぁ、まだまだ殺し足りませんわぁ。あはははははははは」


「だっ、誰か助けてくださいっ」


 そしてそのまま、梨莉佳は実質1人で、このゲームをクリアしてしまうのだった。


 ティリスは怯え、半泣きの状態で筐体の外に出た。目の前には雪菜がいて、ティリスにとって砂漠でオアシスを見つけたような感覚に陥る。


「ティリス、お疲れさま」


「うえぇ~ん、ユキさ~ん。怖かったですぅ」


 ティリスはこの筐体の中での恐怖から解放され、雪菜に泣きついた。


「そんなに怖かったの?」


「は、はぃ」


「そう。もう大丈夫だからね」


 雪菜は小さな子供をあやすように、ティリスの頭と背中を撫でた。


「もう………もうあんなリリカさん、見たくありません………うぅ」


「…………え、梨莉佳?」


 まさかの言葉に雪菜は戸惑ってしまう。そこに当人が筐体から出てきた。


「ふぅ。楽しかったですわぁ」


 梨莉佳は凄くほっこりとした表情をしていた。


「あー……ティリス、あの梨莉佳を見たんだね」


「うぅ………」


「茉莉佳、どういうことなの?」


 訳が分からない雪菜は、茉莉佳に聞き返した。


「梨莉佳って、この手のゲームをすると性格が変わるんだよ」


「そうなの?」


「うん。ボクでも怖いぐらいになるから、初めて見るティリスには過激すぎたのかも」


 雪菜は再度梨莉佳を見る。


「はぁ、もっと殺りたいですわぁ」


「……………」


 ヤバそうな雰囲気がしたので、雪菜はしばらく放置することにした。


 その後、ティリスと梨莉佳が落ち着いてから、近くのファーストフード店で昼食を取ることになるのだった。



 ☆     ☆     ☆



「なんか聖也とこうして遊ぶの久しぶりだな」


「仕方ないだろうよ。こいつにはあんな可愛い婚約者がいるんだから……よっ!!」


「痛いって。そんな強く叩くなよ」


 聖也も潤を含む男友達と一緒に遊んでいた。


 今はお昼を食べながら休憩中だ。


 話ながら食事は進み、食べ終わってから次の話になった。


「でよ、次はどうする?」


「っと、悪い。トイレ行ってくる」


「おう」


 聖也は1人、トイレに行くために席を立ち上がった。


 そして、トイレがある狭い通路に曲がったところで。


「きゃっ」「おっと」


 聖也は女性とぶつかってしまい、女性に尻餅を着かせてしまった。


「すみません。大丈夫です………か…………」


「はい。大丈夫ですわ……って聖也君ではないですか」


 聖也がぶつかった女性は、今日ティリスと一緒に遊んでいるはずの東雲 梨莉佳だった。


「こんなところで会うなんて意外ですわね。それよりどうしたのですか?顔が赤いですわよ」


 梨莉佳は聖也と会えたことが少し嬉しくなり、ぶつかってからまだ立ち上がっていない。


「それに先程から何処を見て……っ~!?」


 梨莉佳は己の失態に気が付いてしまった。


 転んだ拍子にスカートが捲り上がっていたことに。


 梨莉佳は今日下着を着けていない。


 それはつまり。


「せせせせ聖也君、あなた、わたくしの見ましたわね」


「……………ごめん」


「ずっと………ずっと見ていましたわね」


「……………はい」


「………………………」


「………………………」


 長い沈黙が続く。


 そして、最初に口を開いたのは梨莉佳だった。


「責任」


「え?」


「責任取って下さいな」


「せ、責任っていったい何を」


「そんなの決まってるではありませんの。わたくしのを見たのですから。殿方には見せたことのない所を見たのですから、それぐらいの責任は取って貰わないといけませんわ」


 梨莉佳はそう言って、聖也に顔を寄せて来るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る