友達の輪
第9話
ティリスが来てから2ヶ月近くが経った。
あれからティリスは、聖也達が所属している遊泳部に入部し、聖也から泳ぎを教わっていた。
最初の頃とは考えられないぐらい泳げるようになり、自由型なら25m泳げるようになっていた。
ただ、泳げるようになる前に1つ事件があった。
それはティリスが初めてゴーグルを装着して水に潜った時に起こった。
ゴーグルを装着して水中に潜ると、あまりに綺麗な視界に興奮し、多量の水を飲んで溺れそうになってしまったのだ。
近くに聖也がいたから事なきを得たが、水中では興奮してはいけない。慌ててはいけないと、ティリスは学習したようだ。
それともう1つ。出来事というより、1つ変化があった。
それは2週間程前、土日の連休前の放課後のある出来事が発端だった。
「フィルテリアさん!ボク達と遊びに行こうよ!!」
「……………えっと」
聖也とティリスが帰ろうと席を立った時に、声が掛けられた。
声を掛けてきたのは、セミロングの黒髪をした女子だ。背丈はティリスより高く、雪菜より低い。一般的な女子ぐらいだろう。
スパァーーーーンッ!!!
「へぶっ!!!」
「姉さんが突然申し訳ありません。たまに絶叫する性癖がありまして」
最初に声を掛けて来た女子は、後から来た同じ顔同じ髪型をした女子の持つ大きなハリセンで、後頭部を叩かれカエルのように床に潰れた。
「お前のツッコミは相変わらずだな。
「聖也君がずっとフィルテリアさんに夢中だったからですわ。わたくしは聖也君と色々と遊びたかったのに」
ハリセンを持った女子は、
「痛いよ梨莉佳っ!!」
「あら?お早い復活ですわね、姉さん」
ハリセンで叩かれた方は東雲
茉莉佳は梨莉佳の双子の姉。顔は本当に似ていて、ほんの少し妹の梨莉佳の方が目が垂れている。
背丈も同じだが、1つ大きな違いがある。それは悲しいことに胸だ。
姉の茉莉佳はぺたんこでティリスより小さい。妹の梨莉佳はティリスよりある。
なので、そこで判断すれば間違えることはない。
「それより梨莉佳。フィルテリアさんのパンツは可愛らしいピン『スパァーーーーンッ!!』へぶっ!?」
話している途中の茉莉佳の顔面を、梨莉佳がおもいっきりハリセンで叩いた。
「フィルテリアさん。本当に馬鹿姉が申し訳ありません」
「い、いえ」
ティリスは頬を染めているが、どちらかというと、梨莉佳のハリセンのツッコミに驚いていた。
「改めてまして。わたくしは東雲 梨莉佳。この馬鹿姉は東雲 茉莉佳。見ての通り双子ですわ。姉妹共々、宜しくお願い致しますね」
「は、はい。シノノメさんとシノノメ………あれ?」
「わたくし達は名前で呼んで頂いて結構ですわ」
「分かりました。リリカさんとマリカさんですね。よろしくお願いします」
「それより梨莉佳、何か用があるのか?」
「はい。実はですね。明日の土曜日に、雪菜さんとフィルテリアさんとわたくしの3人で遊びに行けたらと思いまして」
「ボクも連れてってよ!!っていうか、ボクが最初に発案したんじゃん」
茉莉佳がガバッと起き上がり、梨莉佳にツッコミを入れる。
(うーん、ティリスに新しい友達が出来るチャンスだし、僕以外に慣れるチャンスでもあるか。ティリスが大丈夫そうなら、行かせてみるか。何かあったら、スマホでユキに知らせてもらえばいいし)
聖也は短い時間でそこまで考えた。
「雪菜さん、いかがでしょうか?」
「いいわよ。私も久々に茉莉佳達と遊びたいし」
「フィルテリアさんはどうでしょう?」
「私は………」
ティリスは期待半分不安半分の顔で、聖也の顔を見る。
「………ユキ、ティリスのこと、頼めるか?」
「任せなさいって。何かあったらすぐに連絡いれるわ」
「ありがとう。ティリス、女子だけで遊んでこい」
「はい!ありがとうございます」
こうしてティリスは、地球の日本に来て初めて聖也以外と出掛けることになった。
☆ ☆ ☆
「ティリスー、来たわよ」
10時になる前に雪菜が新枝家を訪れ、ティリスを迎えに来た。
「それではセイヤさん、行って参ります」
「うん、気を付けて。行ってらっしゃい」
ティリスは聖也と出掛ける時のように少しオシャレをして、雪菜と一緒に出掛けて行った。
「さてと、僕も準備しておこうかな」
聖也もせっかくなので、潤を含めた男友達と遊ぶ予定だ。
聖也も出掛ける準備を始めた。
「おはようございます」
「おはよ、ティリス。今日はよろしくね」
「はい♪よろしくお願いします」
2人は東雲姉妹との待ち合わせ場所へ向かった。
ティリスはご機嫌で、雪菜が聞いたことのない鼻歌を口ずさんでいた。
「それってティリスの故郷の歌?」
「はい。私の故郷では有名な歌です」
「ふーん」
そのリズムは少し独特で、雪菜の耳の残るのだった。
「おはよー!!」
「おはようございます」
待ち合わせ場所に到着すると、既に東雲姉妹は待っていた。
「おはよ、2人とも」
「おはようございます」
東雲姉妹の私服はパッと見て似ていた。しかし、よく見ると、茉莉佳はキュロット、梨莉佳はスカートとなっていた。
「茉莉佳はまだスカート苦手なの?」
「そうだね。苦手というより、動き方を考えないと、下着見えちゃうからね」
「ふう。東雲家長女であるというのに」
東雲家は古くからある家だ。この木見鳥町が出来る以前、まだ村だった頃からある由緒ある家だ。
なので、この東雲姉妹はお嬢様ということになる。
「それで、今日はどこ行くの?」
「ゲームセンター行こうよ!フィルテリアさんは行ったことなさそうだし」
「げーむせんたー、ですか。確かに聞いたことのない場所です」
ティリスは聖也と休みに出掛けてはいるが、それは公園やショッピングなので、行ったことはなかった。
これは聖也がティリスのことを考え、人混みや煩い場所を避けての行動だ。
「少し煩い場所だけど、ティリスは大丈夫?」
「煩い場所ですか。確かに苦手な場所ではあります。でも気にはなります」
煩い場所は苦手なティリスだが、ティリスの世界には無いものばかりあるこの世界の煩い場所というのに興味を持った。
「それじゃあ行くだけ行ってみようよ」
「そうですわね。行ってみて駄目でしたら、移動すればいいですし」
こうして、ティリスは初めてのゲームセンターへと向けて歩きだした。
「そういえば、フィルテリアさんの昨日みたいな可愛いパン『スパァーーーーンッ!!』ぶふっ!?」
「姉さん、往来で何を失礼なことを聞いているのですか」
どこから出したのか分からない大きなハリセンで、梨莉佳は茉莉佳を叩きながら諭した。
「いや。本当に可愛いかったんだって。だからそれは聖也君の趣味なのかなって聞こうかと」
「それは…………それは確かにわたくしも気になりますわね。実際はどうなんです?フィルテリアさん」
「あの、それは…………その、確かにセイヤさんに服も下着も選んで買って頂きましたけど」
「ってことは」
「聖也君は少女趣味ということですわね。ふふふ、良いネタが仕入れられましたわ」
今日のティリスはフリルがいっぱい付いた少女趣味の服を着ている。
「ふーん、聖也ってこういうのが好きなんだ」
雪菜もそれは意外だったらしく、何かの参考になるかもと思い、ティリスの服装を見ていた。
そんなこんなありながら、道中4人は交通に気を付けながら楽しくお喋りをしていた。
これもティリスにとっては初めての経験で、終始笑顔が絶えなかった。
そして、目的地のゲームセンターにやってきた。
ここは木見鳥町唯一のゲームセンターで、土地の安さから、かなり大きいゲームセンターとなっている。
人形やお菓子を取るキャッチャー系はもちろん、メダルゲーム、スポーツゲーム、音楽ゲーム、レースゲームと、ありとあらゆるゲームが入っている。
入り口から入ると、煩いぐらいのゲームの音が鳴り響いていた。
「ティリス、大丈夫?」
「……………………」
雪菜はティリスが大丈夫か聞いたが、ティリスから返事は返って来ない。
「ティリス?」
「………………ふぁ、ふぁれは何ですか!?」
ティリスは見たことのないモノばかりで、呂律が回らない程興奮をしていた。
「その様子だと大丈夫そうね。あれはお金を入れて、アームを動かして人形を取るのよ。やってみる?」
「はい!」
「あ、でもティリスってお金は」
「セイヤさんとお義母様から頂いてます。えっとこれは千円で………」
ティリスは持っていた鞄から財布を出して数え始めた。
ティリスはお金のことも教えてもらっていた。ただ、お金は数えられるが、どれぐらいの価値なのかはわかっていない。
そして、聖也もそうだが、聖也の母親もティリスには甘い。
その結果。
「四万五千円あります」
「へ?」「は?」「まぁ」
女子高生、いや、女子中学生が持つにはあまりの大金だった。
「これで遊べますか?」
「え、あ、うん。余裕で遊べるわ」
(聖也もそうだけど、おば様もティリスにベタ甘なのね)
雪菜は心の中でため息を吐いた。
「ユキさん、これはどうやって遊ぶのですか?」
ティリスは雪菜に操作方法等を聞きながら、色々なゲームを楽しむのだった。
「うぅ、取れないです」
そして、キャッチャー系の初心者がやりがちな落とし穴に見事に濱っていた。
「ティリスはあのウサギの人形が欲しいの?」
「はい。………あれはウサギっていうんですね」
(知らんのかい)
雪菜は内心ツッコミながら、お金を入れる。
「ティリス、私と一緒にやりましょ。教えてあげるわ」
「はい、お願いします」
雪菜の表情が真剣になった。
まるで獲物を狩るような目だ。
ティリスは逆らってはいけない。本能でそれに気が付き、素直に従うことにする。
そして、雪菜の指示でチャレンジすること三回。
見事にウサギの人形を取ることができた。
「うわぁ♪ありがとうございます!!」
ティリスは小さな子供のように喜び、満面の笑みで雪菜にお礼を言った。
「いっ、いいのよ。これぐらい」
ティリスの素直な満面の笑みに射殺されそうになってしまう雪菜であった。
「ねぇねぇ皆であれやらない?」
そこに茉莉佳がやってきた。
茉莉佳が指差しているのは、マ◯◯カートのレースゲームだ。
そのゲームの略称と同じ名前の茉莉佳は、いつも引かれるモノを感じるらしい。
「お、いいわよ。私、結構上手いんだから」
「それは聞き捨てなりませんわね。わたくしだって上手いのですから」
「何を言ってるのさ。このゲームでボクに勝とうなんて百年早い!!」
「えっと、そのゲームはどんなゲームなのですか?」
このゲームは4人まで一緒に遊べる仕様になっている。
最初の一回はティリス1人でやらせて、3人でティリスにあれこれ教え込んだ。
「り、理解はしました。はい、大丈夫です」
不安はあるが、なんとかゲームを操作方法を理解出来たティリス。
そして、4人でのレースが始まる。
このレースゲームはアイテムがあり、それで邪魔をしながらレースをするゲームだ。
だから、多少の運要素も絡んでくる。
今回のルールは4レース行い、それぞれの順位で貰えるポイントが多ければ勝ちとなる。
「ねぇねぇ。せっかくだし、ビリの人は罰ゲームにしようよ。恥ずかしい話をするってことで」
「えっ、ええっ!?私初心者なんですが」
「勝負は初心者だろうが玄人であろうが本気でやるものだよ!!」
突然の追加ルールで、ティリスが戸惑いを見せる中、第一レースは始まった。
最初に飛び出したのは雪菜と茉莉佳だ。そのすぐ後ろに梨莉佳。そして最後にティリスが頑張ってついていっている感じだ。
第一レースは雪菜が一位となり、茉莉佳、梨莉佳と続いて、案の定ティリスが最下位だった。
「うぅ。皆さん速いです」
「いえ。初心者なのに、わたくし達にここまで付いて来られるのは凄いと思いますわ」
「そうでしょうか」
「ええ。なので、速くなるためのアドバイスですわ。まずコースを覚えて下さい。そして、上手い人をよく観察して下さい」
隣に座っている梨莉佳からアドバイスを貰い、ティリスは真剣な表情になる。
そして、第二レースが始まった。
初めは第一レースと同じような展開になっていた。
「ここはこう曲がって………、マリカさんはあそこを………」
ティリスは自分の操作だけでなく、前方を走る他のプレイヤーの観察も、しっかりしていた。
第二レースは三週するコースなので、一週目でしっかりコースを覚えれば、二週目以降は一週目より上手く走れる。
ティリスはそれを実行し、三位との距離を徐々に縮めていく。
「あっ!?カミナリ!!」
「嘘でしょ。このタイミングで」
「やりますわね。フィルテリアさん」
カミナリはゲームのお邪魔アイテムで、使用者以外に影響のあるアイテムだ。
ティリスはそれを三週目の中盤に引き当てたのだ。
そのお邪魔アイテムのお陰で、ティリスは初めて人を抜かした。
そして、1つ前の人をお邪魔するアイテムを引き当て、なんと二位でゴールした。
「やりました♪」
「負けましたわ」
「まさかティリスに最後抜かれるなんて」
ティリスに抜かされた梨莉佳と雪菜は本気で悔しがっていた。
第二レースを終えた時点の点数は、二位、一位と取った茉莉佳が一位。一位、三位を取った雪菜が二位。
なんと三位には四位、二位と取ったティリスが来ていた。
そして、三位、四位を取った梨莉佳が最下位となった。
「まだまだこれからですわ。次はわたくしの得意コースですもの」
まさか初心者のティリスに総合点数を抜かされるとは思ってもいなかった梨莉佳は、本気で勝負を掛けることに決めるのだった。
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