第3話
「それじゃあ聖也、戸締まりとか頼んだわよ」
「わかってる。頑張って」
母親の仕事は看護師だ。今週は夜勤ということで、早めの夕飯を食べてから身支度をして、出勤していった。
「あの、セイヤさん、今日からよろしくお願いします」
少し緊張しがちのティリスが改めて言ってきた。
「あ、ああ、うん。こちらこそよろしく」
2人揃って、こう言うことには理由があった。
今日はティリスの服を大量に買い込んだ。
問題はそれらを何処にしまうかだった。
新枝家は一軒家だが、そこまで大きくはない。
部屋も全部使っているから、ティリスは何処で就寝するかの問題もあった。
そして相談した結果。
「でも、本当にいいの?ティリス」
「はい、もちろんです。それに、1人ではやはり寂しいので」
ティリスの服類は聖也の部屋にある使っていない段のタンスにしまうことになり、就寝も聖也と同じベッドで寝ることが決まった。
ただこのことは聖也にとって苦行になることでもあった。
聖也のベッドは一人用だ。
つまり、ピタッとくっつくぐらいでないと、一緒に横になれない。
しかも相手は美少女だ。
将来結婚することになっている婚約者であっても、今日初めて合った女の子で、年齢的には中学生。
手を出すわけにはいかない。
それに、このティリスという女の子は、王女らしい動きもするが、妙に天然らしいことがある。
今も今日買った可愛らしい服を着ているのだが、ベッドに腰掛けている位置は、聖也からだとスカートの中が見える位置だったり、何もないところで転んで尻餅をついたりもした。
転倒して下着が丸見えになった時は、恥ずかしそうにスカートを押さえて顔も赤くし照れたりもする。
それは可愛いすぎる存在だった。
今まで聖也は女の子と付き合ったことはない。
仲の良い女子といえば、幼馴染の雪菜だけだ。だが雪菜はずっと一緒に育ってきたせいで、異性という感覚が薄い。
なので、ティリスという婚約者となった美少女は、聖也を誘惑するには十分すぎるのだ。というより、ティリスが可愛すぎて、魅了されない男はいないぐらいだ。
それでも聖也は頼ってくれるティリスに報いるために、家のことを説明していく。
トイレの場所や洗面台、風呂等の使い方。洗濯物の置く場所と、色々家の中を回り説明をしていった。
「先に風呂に入っちゃっていいよ」
「わかりました」
聖也の部屋に戻り、ひとまず説明を終えたので、聖也はティリスに先に風呂に入るように促した。
ティリスは素直に従い、教えてもらったばかりの風呂場へと向かった。
「ふう。何も問題がなければいいけど」
流石に風呂は一緒に入るわけにはいかない。
だから、聖也は念入りに教えてきた。
「………………なんか心配だな」
聖也がそう思ったその時。
『セイヤさーん』
風呂場から聖也を呼ぶティリスの声がした。
「……………行くか」
聖也は重い足取りで風呂場へ向かった。
脱衣所に入る前にノックして声を掛ける。
「ティリス、何かあった?」
「あ、セイヤさん!」
すると、いきなりドアが開き、胸を手で隠しただけの裸のティリスが姿を現した。
ティリスの髪や身体は濡れており、ポタポタと床を濡らしていた。
「その、お願いがありまして」
ティリスはあそこも手で隠しながら、モジモジし始めた。
「僕に出来ることなら手伝うけど」
聖也もあまりティリスの方を見ないようにしながら答える。
「あ、あの、恥を承知でお願いします。私を洗ってくれませんか?」
ティリスは顔を真っ赤にして、そう告げるのだった。
こうして聖也は、初日からティリスと風呂に入ることになった。
聖也は腰にタオルを巻いた状態でティリスの前へと出た。
ティリスは聖也の裸を見て、更に顔を赤くする。
そして、湯船に2人並んで浸かりながら、ティリスのことを教えてもらった。
王女であるティリスの着替えや入浴は、全て侍女がやってくれていたということを。
「だからその、私、自分で洗ったことがないのです。ですから、その、お願いしてもよろしいでしょうか」
「その、少し見ちゃうし、触ることになるかもしれないけどいい?」
「ははははい、だ、だいじょうぶ、ですっ!!」
聖也はティリスを鏡を背にして椅子に座らせる。そして聖也は、ティリスの背後に立つ。
これならば鏡でお互いに見ないで済むからだ。
聖也はティリスの背中に回り、後ろから髪を濡らして、洗い始める。
ティリスは下を向き、シャンプーが目に入らないように目を瞑っていた。
(…………ティリスの髪、さらさらだな。それに背中も小さい)
「流すぞ」
聖也の声にティリスは頷く。
その後、聖也は自分があまり使わないリンスも、ティリスの髪に馴染ませた。
シャワーで落としてみると、洗う前よりツヤツヤしている感じがしたので、聖也はこれで良しとした。
「えーと、次は身体を洗おうと思うんだけど」
「ははははひっ、お、お願い、します」
両手で身体を隠しながら返事をするティリス。
「ティリス、最初背中を僕が洗ってみるから、前とか足は自分で洗ってくれない?」
「え、自分で、ですか?」
「うん。まず、これを石鹸で擦って泡立てさせる」
聖也はボディスポンジを泡立てる様子を、ティリスに見せる。
「泡立ったら、これで身体を軽く擦るように洗うんだ」
「き、気持ちいいです」
聖也がティリスの小さな背中をボディスポンジで洗い始めると、ティリスはうっとりとした声をだした。
「それじゃあティリス、これで前の方を洗ってごらん」
聖也は背中を洗い終わると、ティリスにボディスポンジを渡した。
「は、はい」
ティリスは自分で身体を洗い始めた。
「セイヤさん、こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「っ!?」
するといきなり、ティリスはクルっと回って、聖也の方に身体を向けてきた。
しかも、洗えているか確認させようとしているからなのか、ティリスは隠すことをしていない。
聖也の目には、ティリスの泡まみれの綺麗な胸が晒されていた。
「っ!?!?」
聖也は視界から外すために下を向いてしまった。そしてそこには男のあれはなく、綺麗な二つに割れた丘があった。幸いだったのは、座った状態なので、完全には見えていないことだった。
「ティ、ティリス、たぶんだいじょ」
「ちゃんと洗えてませんでしたか?」
流石に聖也が見るわけにはいかないので、「大丈夫だ」と伝え終わらせようとした。しかし、ティリスは聖也が言い終わる前に、自分の身体を見るため立ち上がった。もちろん聖也の目の前で。
「セイヤさ………あっ~!!」
そこでティリスは自分がいかに大胆なことをしていたことを理解した。
ティリスの目の前には聖也が顔を真っ赤にして、目を瞑り壁を見ていた。
それはつまり、見られてしまったということで。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!恥知らずの女でごめんなさい!!」
ティリスはしゃがみこみ、凄い勢いで謝り始めた。
「ティ、ティリス、とりあえずシャワーで泡を落としてから、風呂に」
聖也も混乱していたが、なんとか落ち着きを少し取り戻し、ティリスに指示をした。
「わ、わかりましたっ!!あっ」
「え?」
ティリスは慌てたせいで、さっきの騒動で泡だらけになったタイルで滑ってしまった。
咄嗟に聖也の身体にしがみつき転倒は免れたが、その拍子に聖也の腰に巻いていたタオルが落ちてしまう。
そしてティリスの目と鼻の先には。
「こっ、こっ、これが男の人の………っ~~~~!?!?…………………きゅ~………」
「ちょっ!?ティリスっ!!ティリスっ!!!」
ティリスはあまりの衝撃に気絶をしてしまうのだった。聖也は裸のティリスを正面から支えて名前を呼ぶが、目を覚まさない。
「………このままにする訳にはいかない……よな。ごめん、ティリス」
聖也はティリスに一言謝ってから、介抱を始めた。
☆ ☆ ☆
「………あれ、ここは」
ティリスが目を覚ましたのは深夜の0時を回る前だった。
時計の見方が分からないティリスに時間の確認は出来なかったが、外が暗いことで、夜遅いということはわかった。
「私、どうしたんでしたっけ」
部屋には電気が付いており、ティリスの寝ているベッドに寄り掛かるように聖也が寝ていることに気が付いた。
そして、身体を起こして、自分がタオルを巻いただけの裸の状態だということに気が付く。
「あ、確か私お風呂で………」
そこで、自分が風呂で倒れたことを思い出した。その時に何を見たのかも思い出したのか、ティリスの頬は赤く染まる。
「………濡れてないってことは、セイヤさんが私の身体を拭いて、ここまで運んで来てくれたんですよね?ってことはわ、私の………はわわわわ」
風呂で倒れたティリスがベッドで寝ているということ。そして、この家にはティリスを除いて、人は聖也しかいない。
そのことに気が付いたら、更に顔を真っ赤にした。
「……………でも、介抱してくれたんですよね」
(恐らく裸のままなのは、私が気絶をしてて、上手く着せられないからでしょうし。ふふ、故郷の貴族の男性より紳士かもしれませんね)
ティリスの故郷であるフィルテリア王国では、ティリスの年齢は結婚適正年齢だ。王宮で開かれるパーティーでは、色目を使ってくる者も多かった。
そして、一度だけ、ティリスは学校帰りに暴漢に襲われたことがある。
運良く慌てて放った魔法が、暴漢に命中し、事なきを得たが、それ以来男性に少し苦手意識を持っていた。
だから最初、聖也を見た時に優しそうな人と思って安心した。
胸を触られたが、襲うのではなく、そのことを謝ってきて、服も貸してくれた。
そして今回も、襲うことは出来たはずなのに襲わなかった。むしろ助けてくれた。
ティリスがベッドに寄り掛かる聖也をより一層愛しく感じた。
「お父様、お母様、私、違う世界に来てしまいましたけど、この人、セイヤさんとならやっていけそうです」
ティリスは祈るようにそう呟いた。
「っくしゅん」
「ん?」
裸でいたため肌寒くなったのか、小さくくしゃみをしてしまったティリス。そのくしゃみの音で聖也の目が覚めた。
「ティリス、目が覚めたんだ」
「はい、先ほど」
「どこか痛いところとかない?」
「たぶん大丈夫だと思います」
「良かった。あ、それとごめんね」
「え?」
いきなり謝られて何のことか分からないティリスは、きょとんとする。
「ほら、泡を落とす時とか、身体を拭く時とかにその………ティリスの」
泡が落とす時や身体を拭く時、聖也は意識の無いティリスの裸体を見て触ってしまったことを謝った。
「っ~………だ、大丈夫です。恥ずかしいですけど、助けて頂いたんですから。こちらこそ、助けて頂き、ありがとうございました」
「それとその、下着と寝間着は用意したんだけど」
枕元には今日買ってきた下着と寝間着が用意されていた。
「流石に寝させたまま着せられる自信はなかったから、出しただけなんだ」
「いえ、心遣い感謝します」
「風邪引く前に着替えて。僕は部屋から出てるから」
聖也が腰を上げて、部屋から出ていこうとする。
「あ、あの!」
出ていこうとする聖也の背中を、ティリスが呼び止めた。
「着替え………手伝って貰えませんか?」
結局、聖也は下着を穿かせるところから、ティリスに教えることになった。
ティリスの寝間着は裾の長いワンピースの寝間着だ。理由はシャツとズボンで別れていると、着るのが大変そうだからだ。
そして初夜(最初の夜)は、狭いベッドに2人並んで寝ることになった。
「……………………」
「すぅ………すぅ………」
電気を消し横になる。少し経つとティリスから静かな寝息が聞こえてきた。
「……………寝れないよな」
逆に聖也は眠れずにいた。
ティリスの良い香りと柔らかさと温かさ。それらが聖也の睡眠を妨げていた。
「………お父……様」
ふと、ティリスからそんな寝言が聞こえてきた。
よく見るとティリスの目には、うっすらと涙を浮かべていた。
ティリスの年齢で、突然故郷に帰れなくなった境遇を考えると、寂しくなるのは当然だ。
「大丈夫、僕がいるから」
聖也は優しく抱擁すると、ティリスの悲しい顔は、安心した顔に変わっていく。
そして、ティリスも聖也にすがりつき、甘えるようにして幸せそうな顔になった。
この日の夜、聖也はティリスを守ろうと、強く心に誓った。
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