新生活の始まり
第1話
新枝 聖也はごくごく普通の高校生だ。
得意科目も特になく、運動も普通。
ただ、人が困っていたら助けずにはいられないぐらいのお人好しの性格をしていた。
だからなのか、聖也の周りには人が集まることが多い。
この日、ゴールデンウィーク真っ只中ということもあり、友人に誘われて遊びに出掛けていた。
「よっしゃあストライク!!」
気の強そうな男子がガッツポーズをとりながら、後ろへ下がって来た。
「次は新枝の番だぜ」
「頑張るよ」
ボーリングは得意ではないが、苦手でもない聖也は、いつも通りを心掛けて投げる。
二回投げて9本倒せたので、まあまあというところだ。
「ドンマイドンマイ!次は誰だ?」
気の強そうな男子は、次の人を急かす。
聖也は椅子に座り、周りを観察していると。
「新枝、この前はありがとな」
先程とは違う男子が声を掛けて来た。
「えっと、何かしたっけ?」
「してくれただろ。1人じゃ時間内に片付け終わらなかったから、マジで助かった」
聖也はこの友人と何があったか思いだそうとするが、思い出せない。いや、思い付くことが多過ぎて、どれか分からなかった。
「まぁ、お前にとっちゃ、たくさん助けた中の小さな一つだったのかもしれないがな」
クラスメイトの友人達は何か困ったら、聖也に相談すれば助けてくれる。そういう認識がいつの間にか出来ていた。
「本当に俺達はお前と友達になれて良かったぜ」
なんて返したらいいのか分からないが、相手が喜んでくれることは、聖也にとっても嬉しかった。
そして、高校に入ってから、こんな日常が一年以上続いている。
夕方になり、皆と別れて遅くならないうちに聖也は帰宅した。
「ただいま」
「おかえり聖也、もうすぐ夕飯だから手伝ってってもいい?」
「わかった」
聖也は母親にそう言われ、荷物を部屋に置いてから、夕飯の手伝いを始めた。
この日もこうした当たり前の日常が続いていた。
夜は友人達に誘われオンラインゲームをして、風呂に入り、いつものようにベッドに入った。
ゴールデンウィークは後2日。
聖也に予定という予定は入っていないが、また誰かから連絡があり、遊ぶことになるのだろう。
そう考えながら、聖也は夢の中に入っていた。
☆ ☆ ☆
「………この方が」
聖也の耳に聞き慣れない少女の声が響いた。
「この方が私の………」
(……………誰だ?)
聖也はゆっくりと意識が覚醒していく。
「………ん?」
ふと、布団の中に何かが入ってくるのを感じた。
それは柔らかく、温かい何かだ。
「………なんなんだよ」
聖也は眠りを妨げられたことに機嫌を少し悪くしつつ、その温かい何かを追い出そうと手を伸ばした。
「ひゃんっ!?」
「…………え?」
手に伝わるとても心地良い柔らかい何かと女の子の悲鳴。
手の中のものは、柔らかさの中にコリっとした少し感触が違う部分もある。
聖也はゆっくりと視線を下に向ける。
「あ、あの、いきなり胸を揉まれると………その」
「……………………」
そこには銀髪の美少女がいた。青い瞳が宝石のように輝き、銀髪もシルクのように薄暗い中でもわかるぐらいに眩しい。肌も美白と言っていいほど白く美しかった。
そんな美少女が裸で、聖也の上に座っていた。
そして、そんな美少女の胸は聖也の手で隠されていた。
聖也は思考がフリーズしてしまう。
「ひゃん、あぅ、その、胸揉まないで頂けると」
男の性なのか、聖也は無意識に美少女の胸をむにむにと揉んでいた。
「ご、ごめん」
そう言って手を離すと、綺麗なピンク色の突起をした美しい胸が姿を現す。決して大きくはないが、とても美しい胸をしていた。
「…………………っていうか誰だっ!!!」
そこで初めて美少女が見知らぬ人だと気が付き、聖也は飛び起きた。
「きゃっ」
美少女は小さな悲鳴を上げ、聖也の足の上に女の子座りをする。
「あ、あの、私はティリス・フィルテリアといいます。その、えと………あなたのお嫁さんになりにきました」
これが唐突すぎる聖也とティリスの出会いだった。
「お嫁さんって…………というか君はいったい何処からここに入って」
「そ、それは」
その時、カーテンの隙間から朝日が射し込み、ティリスの美しい身体を照らす。聖也は見ていたい気持ちを抑え、視線をティリスから逸らした。
「その、説明の前に服を着てもらってもいいかな?流石に裸の女の子を目の前にしたままだと、その」
「ふく?はだか?……………ふく………………ふぁっ~!?!?」
ティリスはそこで自分が裸であることに気が付いた。
「え?えっ!?ふっ、ふくはっ!?!?」
ティリスは手で身体を隠し、涙目になりながら周りを見渡す。
「だ、だって転移する時はちゃんと服着てて」
「て、転移?」
あわてふためくティリスから、ありえない単語が聞こえて、聖也は驚いてしまう。
(転移って、ゲームやラノベでよくあるあの?でもそれが本当ならば、いきなりここに現れるのにも説明がつく。いや、実際にあるのか?でも、目の前の女の子は日本人って感じはしないし)
聖也は半泣きのティリスの傍ら、逆に冷静になり、そう見当をつけた。
ティリスは服が落ちてたりしていないかと、涙目でキョロキョロと探していた。
「えっと………とりあえずこれを着て」
聖也はタンスからジャージの上下を出して、ベッドの上であたふたするティリスに渡した。
「あ、ありがとうございます。あ、あの」
「ん?」
すぐにジャージを拡げたティリスは、困った顔をした。
「これはどうやって着れば」
「朝から煩いわよ。どうしたの聖……や…………………」
そんな声と共にドアが開いて、最悪のタイミングで母親が入ってきた。そして、息子の聖也と裸の美少女のティリスが目に入り、母親はフリーズしてしまう。
「母さん、これはその」
何か言わなければと聖也は考えるが、何も言うことが思い付かない。
「聖也、あ、あんた、いつの間にこんな可愛い外国の美少女と」
母親は信じられないという顔をして、聖也とティリスを交互に見る。
「セイヤ………セイヤ様」
母親が聖也の名前を言ったことで、ティリスは聖也の名前を理解し、小声で反復した。
「違うから!!何もしてないから!!」
「あ、あの、セイヤ様、この服の着方を」
「ねぇ、あなたの名前なんていうのかしら」
「だあぁぁぁもうっ!!朝からやめてくれぇ!!」
そのあと、簡単な自己紹介をし、ティリスにファスナーのことを教えて、服を着てもらった。いや、聖也が着させた。ジャージの下は大きすぎてぶかぶかで、すぐに脱げてしまうので、上しか着ていない。ジャージの上もぶかぶかなので、短めのワンピースのような状態になっている。それでも、何も着ないよりはましだということで妥協した。
そして、聖也は母親と一緒にティリスの話を聞くことになった。
それは聖也が予想していた通りのことだった。
ティリスはフィルテリア王国という国から、転移魔法で来たと言ったのだ。
フィルテリアという国は地球にはないし、魔法という単語が出て来たので、異世界から来たということが確実となった。
「あれ?確かティリスの名前にフィルテリアって」
「はい。私はフィルテリア王国の第2王女となります」
「「ええぇぇぇぇ!?!?」」
まさかの事実に、聖也と母親は驚き声を上げてしまった。
「えっと、ティリス様って呼んだ方が」
「ティリスで結構です。セイヤ様」
「それじゃあティリスで。僕のことも聖也って呼び捨てでいいから」
「いえ、流石に年上の方に呼び捨ては失礼です。なので、セイヤさんと呼ばせて頂きます」
ティリスはにこりと微笑み、聖也のことを見つめて来た。
「僕が年上ってことは、ティリスはいくつなの?」
「私は今は14です。今年で15になりますが」
「なるほど。僕は今年で17だから、2つ下か」
「そうなりますね。それよりここは何という国なのですか?このお洋服もそうですが、この部屋にあるもの見たこともないものばかりで」
ティリスは部屋をキョロキョロしながら聞いてきた。
「ここは日本って国だよ」
「ニホン?聞いたことない国です。これでも勉強はしているのですが。まさか未開地の先の国?」
ティリスはぶつぶつ言いながら考えていた。
「たぶんっていうか、確実に別の世界だよ」
「別の………世界?」
ティリスは聖也の言葉の意味を理解出来ないでいた。
「うん。だって僕達のこの世界に魔法なんてないから」
聖也は事実を隠すことなく伝えると、
「……………冗談です……よね?」
「いや、ホントに」
「…………………………うぅ」
見つめあって、聖也が嘘を言っていないことがわかったのか、ティリスは涙目になってしまう。
「ど、とうしたの?」
「わ、わたし、どうやって帰ったらいいのですか?」
「え?来たときと同じ転移魔法で帰ればいいんじゃ」
「ふぇぇ、て、転移魔法は何人もの多くの人の魔力を使って出来る魔法なんだもん。ぐすっ、わ、わたし1人の魔力じゃ………うわぁぁぁん」
ティリスは本格的に泣き出してしまった。
「だ、大丈夫。大丈夫だから泣かないで」
「ぐすっ、セ、セイヤさん」
「僕が側にいるから」
聖也はティリスを抱き締めて、背中をポンポンと叩いて落ち着かせようとした。お人好しの聖也には、泣いた女の子を放っておくなんて選択肢はなかった。
「で、でもぉ」
ティリスは涙目で聖也を見上げてくる。
(うっ。可愛いし良い匂いするし柔らかいんだけど。でもここは我慢しないと)
聖也はティリスの魅力に負けそうになるが、気合いで我慢をする。
「大丈夫。僕が助けられることは助ける。だから安心して欲しい」
「うぅ、ぐすっ」
それからしばらくの間、ティリスは聖也の胸で泣いていた。
「申し訳ありません」
ティリスは本当に申し訳なさそうに聖也に謝った。ティリスの目元はまだ赤い。それでも、普通に話すことが出来るようになるまでには、落ち着きを取り戻していた。
「気にしないでいいよ。いきなり帰れなくなったら、泣きたくなる気持ちはわかるから」
聖也はシャツを脱ぎながら答える。
なぜ脱ぐのかというと、聖也のシャツはティリスの涙と鼻水でびしょびしょになっていたのだ。
「ほわぁ………」
「どうしたの?」
「男の人の身体を初めて見たので………、触ってもいいですか?」
「別にいいけど………」
ティリスはおどおどしながら、聖也の腹筋に触れた。腹筋が割れている訳ではないが、ティリスは自分とは違う少し硬い感触に、ティリスは少し感動を覚えていた。
「あなた達、お似合いだから結婚でもしちゃえば?」
「は?」「え?」
いきなりの母親の言葉に唖然とする2人。
「ティリスちゃんは帰れないかもしれないんでしょ?それを聖也が面倒見るんだったら、結婚しちゃえば、ずっと面倒見ることが出来るじゃない」
「いや、でもいきなり結婚って」
「聖也、あなたは嫌なの?」
「嫌っていうか、まだティリスのこと、よく知らないし」
「ティリスちゃんの見た目はどうなのよ?」
「凄く可愛いと思うよ」
「はぅ」
聖也が率直に感想を言ったら、聞いてたティリスはボンっと音を発てるように顔が赤くなった。
「ならいいじゃない。こんな可愛い子、滅多にいないわよ」
「でも、僕なんかじゃ」
「私は構いません!!」
聖也は自分とは釣り合わない。そう思って否定をしたのだが、それをティリスは大きな声で遮った。
「私はセイヤさんと結婚することは構いません。だって、私は『運命の転移魔法陣』でここに来たのですから」
「『運命の転移魔法陣』?」
また謎の単語が出てきて聞き返した。
ティリスはその魔法陣について説明を始めた。
それはフィルテリア王国にある古い儀式の1つだということ。
王家に産まれた女の子は15歳となる年に、古くから伝わる『運命の転移魔法陣』に入るという仕来たりがあるというのだ。
その魔法陣は、生涯共に生きる相手の元へと転移するものだと云われている。
過去の事例から、その相手に選ばれるのは、他国の王子や貴族が多いそうだ。
そして実際に会うと息が合い、最終的に結婚をし、生涯を共に過ごすことになるという。
そして、その相手を自分の国、つまりはフィルテリア王国に連れていき、挨拶をするというのも風習になっているそうだ。
ティリスも旅支度をして、魔法陣に入って送られて、ここに転移して来たのだが、着いた場所は異世界である地球で、服や装飾品、旅支度で用意した荷物までなくなって、文字通り丸裸で聖也の所に転移してきたという訳だ。
「私の運命の相手。それがセイヤさんです。セイヤさんはカッコいいと思いますし、優しい方だということも分かりました。なので、その………結婚してもいいです。いえ、結婚したい………です…………っ~」
最後は顔を赤くしながらティリスは言い切った。
「なら結婚しても問題ないわね」
「でも僕達の年齢じゃ結婚出来ないよね」
日本では男は18歳、女は16歳にならないと結婚出来ない。
だから最低でも後1年は待たなければならない。
更に言うと、ティリスの戸籍のこともある。戸籍がなければ結婚は出来ないのだから。
「それなら婚約者として1年一緒に過ごしたらどうかしら。そうしたらお互いのこと理解できるじゃない」
「それはそうかもだけど………」
「ティリスちゃんは学校行きたい?」
「学校ですか?別の世界の学校には興味はあります」
「それなら何とか転入させてあげるわね。こういう時は親戚が校長だと助かるわね」
実は聖也が通っている木見鳥高等学校は、親戚の叔父が校長をしているのだ。
母親はいきなりできた息子の可愛い嫁に興奮を隠せず、思い付いたことを次々と提案していった。
そして最終的に。
「よし!!今日はティリスちゃんの洋服を買いに行くわよ!!!」
いきなり出来た可愛い義理娘に興奮する母親の勢いに勝てず、今日はティリスの洋服を買いに行くことが決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます