不快感

 柱時計が小さな鐘の音で真夜中を告げたとき、真拆はふと顔を上げた。月が見ていると思った。カーテンを細く開くと案の定そこには冷たい月がいた。ぞっとした。そういえば明日は満月だなと彼は思った。強い目眩を感じたためにカーテンを引き、夜着に着替えると寝台に倒れ込んだ。しばらくの間、悪寒を感じた。この目眩と悪寒は、真拆の女性嫌悪に見られる症状と同一のものである。女性とすれ違うだけで悪寒がするし、うっかり体が触れると鳥肌が立つ。そして目眩。真拆は寝台から起き上がり、もう一度、カーテンの紐をかたく結び直した。


 それにしても、月の影響をこれほど強く感じたことは今までに無いことだ。先月の満月は奥歯の痛みがひどく、ふと漫想にでも耽って歩こうものなら、ふわふわと靴が浮くので大変だった。思わず電信柱にしがみつかなければならなかったほどである。予感とでも言うべき不思議な感覚は日毎に募るばかりだ。明日は満月で、狼男にでもならなければいいがと考えながら、真拆は右手に懐中時計を握りしめ、その秒針の音に耳を傾けた。


 そして断続的で不安定な浅い夢の世界へと浸水してゆく。



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