第7話 招かれざる鬼

ルキとゼオンは途方に暮れていた。


「リズ、どこに行っちゃったのかしら」


ルキが呟いた。

小1時間程、シリアの森の中を探し回ったが、どこにもリズの姿はなかった。


「ちょっと休憩しようぜ」


ゼオンが言ったその時だった。

不意に木の繁みが揺れた。明らかにそれは獣ではなかった。

ゼオンは、ほっと息をついた。


「何だよ、リズ。そこにいたのかよ」


だが、ルキは常備していた手裏剣を投げつけた。相手は、素早くそれを跳ねのける。

ゼオンは、驚いてルキを見た。


「ルキ、お前何やってんだよ」


「誰なの⁉そこにいるのは!」


ルキは、ゼオンの事などお構いなしに声を張り上げた。すると、相手が目の前に現れた。それは、紫色の髪を後ろで1つに束ねた、女の鬼だった。彼女は、肩がむき出しの黒い服に、黒のショートパンツという格好だ。


女を見たルキとゼオンは、たちまち凍り付いた。


「フィーユ」


ルキが顔を強張らせながら言った。


「久しぶりね。ルキにゼオン」


フィーユは、そう言って笑みを浮かべた。

たちまちゼオンが食ってかかった。


「何しに来た?ここには、もうお前の居場所なんかねえぞ!」


「知ってるわよ。ただ様子を見に来ただけ」


ゼオンは、フィーユを睨んだ。その目は、必死に怒りを抑えているようだった。


「まさか、お前がリズを攫ったのか?」


ゼオンの質問に、フィーユは怪訝そうに眉根を寄せた。


「はあ?攫った?人聞きの悪い事言わないでよ。あたしが狙ってるのは人間なんだから。どこかの水色の鬼なんかに興味ないわ」


冗談じゃない、という風にフィーユは肩を竦めて見せた。


「だったら、リズはどこにいるんだ?」


ゼオンは独りごちた。


「誤解してるみたいだから、一応言っておくけど、あたしは知らないから」


「本当に知らないのか?」


「知らないって言ってるでしょ!何回言わせる気?」


今度は、フィーユがゼオンを睨んだ。


「ゼオン、フィーユは嘘をついてはいないわ」


今まで黙ってゼオンとフィーユのやり取りを聞いていたルキが、口を開いた。


「だって、頬が引きつってないもの。彼女、嘘をつく時は頬が引きつる癖があるの」


「へえ、さすがルキね。観察眼に長けてるわ」


フィーユは、ルキを見ながら感心して言った。ルキは顔を背ける。


「別に。昔からあんたの行動見てるから大体わかるだけ」


「なるほどね。ねえ、あたしらの仲間にならない?もう一度、前みたいに一緒に闘おうじゃんか」


フィーユは、静かな目でルキを見つめたまま言った。

ゼオンは背筋がぞくりとした。


何を言い出すんだ、このアマ。


ルキは顔をフィーユに向けると、思いっきり睨んだ。


「誰があんたなんかと。誰が、誰が」


その声は、怒りで震えている。そして、その怒りに任せ、ルキは再び手裏剣をフィーユに投げつけた。

フィーユは素早く左に除け、何事もなかったかのような顔をした。


「いきなり何だい。今日は、あんたたちと張り合う気はないよ。まあ、仲間にならないんなら仕方がないね。残念だけど、敵でいるしかなさそうだ」


そう言うと、フィーユは木の枝に跳び上がった。


「また会うことになると思うから、よろしく」


フィーユは片目をつぶってみせ、それからすぐに踵を返し、森の奥へと消えて行った。

しばらく沈黙が続いたが、それを破るようにゼオンがルキに話しかけた。


「あいつ何しに来たんだ?」


ルキは、ため息をついた。


「決まってるじゃないの。私達を誘いに来たんでしょ。仲間にならないかって」


「それだけか?」


ゼオンの言葉に、ルキは怪訝そうな顔をした。


「それだけって?」


逆に聞き返す。ゼオンは、うーんと唸って考え込んだ。


「わざわざ俺様たちを誘うためだけにはるばるやって来るのか、って事なんだけど。だって考えてもみろよ。ルキが仲間にならないって言った時、あっさり引いたじゃねえか。俺様たちをどうしても仲間に引き入れたいなら、あいつだったら力ずくでもやってみせるはずだぜ。それに、あいつ、『また会うことになる』って」


ルキは、はっとした。


「他に目的があるってこと?」


ゼオンが頷いた。


「かもな」


そうだとしても、一体何のために?


フィーユの行動の意図が全くつかめない2人は、頭を悩ませた。

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