第4話 ヤータイ村
しばらくして辿り着いたヤータイ村は、リズが予想していたよりも賑やかだった。
ぽつぽつと散らばる民家を通り過ぎると、左右にたくさんの店が建ち並ぶ通りに出た。
問屋や駄菓子屋、干物屋など、リズが初めて目にするものばかりだった。
さらには、天秤を肩に担ぎながら大声で何かを売り歩く商人や、鍛冶屋が刀を作る音、その他様々な人々の声で通りは活気づいていた。
フェインの隣を歩きながら、リズは周りのものに目を輝かせた。
そして、そんなリズに気づくと、フェインが声をかけてきた。
「ちょっと寄り道しようか」
リズは顔をほころばせた。
「うん‼」
早速、フェインはリズの好きそうな駄菓子屋を案内した。
目の前にずらりと並ぶたくさんのお菓子を見て、リズはますます興奮した。
「これ全部食べていいの?」
満面の笑みでフェインを見る。
フェインは苦笑した。
「全部じゃないよ。それにお金も払わないと」
「なぁんだ。じゃあ、どれにしようかな...」
リズは真剣に考え込んだ。
そんな彼女をフェインは可愛いと思った。
そういえば、リズだって鬼の中では変わってるじゃないか。
鬼って駄菓子食べるんだっけ?
そんな事を考えていると、突然肩を叩かれた。
「よう!フェイン、久しぶりじゃねえか」
頭に赤い鉢巻を巻いた金髪の男だった。灰色の着物を着て、腰には白い帯を巻いている。
「ジャンじゃないか!久しぶり。どうしてた?」
フェインは、懐かしそうにジャンと呼んだ男を見た。
178㎝あるフェインと、背丈はそんなに変わらない。
「どうったって、相変わらず魚商売やってるよ。売れ行きは、まあまあってとこかな」
「そっか。まあ頑張れよ」
「おう!ところで、お前なんで今日ここにいるんだ?いつもは店が遠いからって、蔵に貯めてある食糧で過ごしてるくせに」
フェインは少しの間を置いてから、きまり悪そうに言った。
「今日は何ていうか…その…」
そこで、駄菓子を選んでいるリズをちらりと見た。
フェインの視線の先に気づいたジャンは、驚いた表情で尋ねる。
「おい。あの子、フェインの連れか?まさか、俺の知らない間にもう妻を娶ったのか?」
「違うよ。シリアの森に食糧を探しに行ったら、ばったり会ったんだ。で、道に迷っていたというから、一緒に村まで連れて来たんだ」
フェインは咄嗟に嘘をついた。
我ながら何て苦しい言い訳だろう。
けれども、相手は信じたようだった。
「えっ⁉シリアの森?あそこ鬼が出るって昔から有名だよな。よくそんな所に1人でのこのこと出かけたな」
「いや、でも警戒はちゃんとしてたよ。弓と矢も持ってるしな。ほら」
フェインは、背中に担いでいるものをこれ見よがしに見せた。
ジャンは感心した。
「でも、たいした度胸だよ、お前は。やっぱ弓使いは、そこらの商人とは肝の据わり方が違うな」
「そんな大げさな」
フェインは顔の前で手を振った。
その時、リズがこちらにやって来た。
「ねえ、フェイン。私あれにする!なんかね、果実がいっぱいで美味しそうなの」
リズが指さしたのは、苺や蜜柑がたっぷりと載せられたお菓子だった。中には、桜の餡が入っているらしい。
とりあえず、リズがそれだけに留めたことに安堵して、フェインは勘定を済ませた。
「はい」
フェインはリズにお菓子を手渡した。
リズは、大喜びでそれを受け取る。
その様子を見ていたジャンが声を上げた。
「仲が良いねえ、お2人さん。まるで恋人みてえだぜ」
ジャンの言葉に、フェインは赤面した。
「ななな、何を言ってるんだ。俺たちは、今日のさっき、会ったばかりなのに」
フェインは動揺しながらも、必死に弁明しようとしていた。
しかし、リズはあまり気にしていないのか、ジャンを不思議そうに見た。
ジャンは優しくリズに微笑みかけた。
「俺はジャンだ。フェインとは、昔のよしみだ。いや、腐れ縁かな」
そう言って手を差し出す。
ジャンと握手をしながら、リズも微笑んで言った。
「私はリズです。えっっと、フェインとは今日会ったばかりです」
「何で2人とも、俺を自己紹介に使うのさ!」
フェインが声を張り上げた。
「にしても、リズさんよぉ、ここらではあまり見かけねぇ顔だな」
ジャンは、フェインを無視してリズに畳みかけた。
リズは少しそわそわした。
「えっ、そうですか?やっぱり?実は今日この村に来たばかりなんですよ。フェインは村人と変わりないって言ったんですけどね」
「いや、村人とは変わらないさ。ただ俺の知らない顔だなって思っただけで」
「あっ、そう、ですか」
リズは、一生懸命笑顔を繕った。
バレてないかな、私。
そっと目配せしてきたリズに、フェインは言った。
「駄菓子も買ったし、そろそろ行こうか」
実はフェインもフェインで、リズの正体が分かってしまうのではと冷や冷やしていたのだ。
ところが、その場を立ち去ろうとした2人をジャンが制した。
「ちょっと待てよ。折角だから、3人で飯でもどうだ?俺の奢りで」
唐突な誘いに、フェインは目を丸くした。
「いいのか?」
「ああ、今日の記念にな」
「何の記念だよ」
すかさず、フェインが突っ込む。
ジャンは、信じられない、というような顔をした。
「わが友に会った記念に決まってるじゃないか。それと、そちらの美しい娘さんにも。何なら、2人の門出を祝ってやってもいいんだぜ」
ジャンがウインクをした。
フェインは、慌ててジャンの口を塞ごうとする。
「お前な~、一言余計だ!」
そして、フェインはリズを振り返った。口の形だけで、ごめんと言う。
その意が通じたのか、リズは可笑しそうに笑いながら頷いた。
「仕方ないな。お言葉に甘えて付き合ってやるよ」
フェインの同意に、ジャンは頬を紅潮させた。
「そう来なくちゃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます