第2話 鬼神山
リズはため息をついた。
今日もか…。
まずテーブルに並べられたものを一瞥し、それから同じ食卓についている2人の鬼を見る。
2人は、もくもくと食べ続けている。
リズはたまらなくなって言った。
「なんでウサギなの?私はマンモスが食べたいって言ったのに!」
すると、向かい側に座っていたゼオンがしかめっ面をした。
「お前、俺様が毎朝どれだけ腹を空かしながら狩りをしてるか、知ってんのか⁉」
ゼオンの髪は普段から赤いが、今日は一段と赤く見える。
リズは一瞬たじろいだが、すぐに言い返す。
「知らないわよ。だって狩りの当番はあんたでしょ。自分から言い出したくせに」
「それは、この家の中でオスが俺様しかいないからだ」
ゼオンは胸を張って答えた。しかし、リズも負けじと言い放つ。
「何威張ってるのよ。私だって、デーモン界ではトップクラスだもん」
「じゃあ俺様に勝てるか?」
「やってやろうじゃないの!」
2人は朝っぱらから闘志を燃やしていた。リズは、今にもゼオンをぶちのめしてやりたい衝動に駆られた。
「そこまでにしとけば?」
不意に声が制した。
リズとゼオンは声の主を同時に振り返る。
それまで2人のやりとりを黙って聞き流していたルキが、間に割って入った。
「リズもゼオンも、毎日張り合いばっかりして、よく飽きないわね」
リズとゼオンに比べ、クールで落ち着いた口調がいかにも彼女らしい。
「ルキ~、いい加減ゼオンを懲らしめてやってよ~」
リズは、甘い声でルキにすがりついた。
「時間と体力の無駄ね」
ルキは、食後のお茶をすすりながら言い放つ。
「大体、この時代にもうマンモスなんていないんだから」
「えっ、そうなの⁉」
「そうなのか⁉」
ルキの言葉に、リズとゼオンがまたもや同じタイミングで声を張り上げた。
そんな。マンモスが食べられないなんて…
なんて不平等な世の中なの‼
リズは頭を抱えた。
「残念だったな。マンモスが生きてなくて」
ゼオンは、勝ち誇ったような目でリズを見た。
リズは勢いよく席を立つと、戸口に向かって足早に歩き始めた。
「おい、どこ行くんだよ?」
ゼオンがリズの背中に声をかける。
リズは、「ちょっと散歩」と刺々しく言って、そのまま出て行った。
「あーあ、怒らせちゃった」
ルキがゼオンを見ながら、意地悪く言った。
ゼオンは目を逸らし、すっかり冷めてしまった朝食に手をつけた。
リズとルキ、そしてゼオンは、子供の頃からの幼馴染みで、3人は人間ではなく、鬼である。鬼といっても、そこらの鬼とは違う。
具体的にどこが違うといわれれば、彼らは人間を食べない。
その昔、
しかし、集落のすぐそばに位置するシリアの森には、たまに人間が現れた。
鬼たちはシリアの森に行っては、迷い込んだ人間を次々と食べた。
そのため、村人は恐れ、誰も森には近づかなくなった。
そして、鬼たちは人間を求め、別の集落に移動することとなった。そこで、鬼神山に残ることを選んだのが、リズ達3人だった。
3人は、幼い頃から決して人間を食べまいとしてきた。
鬼だが、人間と同じように、獣や木の実、草の根などを食べ続けてきた。
それは、大人の鬼たちの酷い所業をずっと見てきたからだった。
彼らは他の鬼たちの様にはなりたくなかったのだ。
しかし、鬼たちが去っても、人間の恐怖は消えることはなかった。
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