鬼恋
めいしゃん
第1話 はじまりの前の静けさ
少年は、樹々の間からじっとその光景を見ていた。
恐ろしかった。鬼が人間を喰らっていた。膝が震えて動けなかった。
少年は、見つかるまいと必死に息を潜めて、その場にうずくまっていた。
辺りは暗く静かで、虫の声さえ聞こえなかった。
不意に肩を小さく叩かれる。少年が恐る恐る振り返ると、そこには鬼の少女がいた。
驚いた少年は思わず叫んでしまいそうになったが、すんでのところで鬼の少女の手によって口を塞がれた。
少年が身動きできないでいると、鬼の少女は耳元で囁いた。
「ここにいてはダメ」
彼女はそう言うと、少年の手をとり、足早に歩き始めた。
少年は呆気にとられながらも、鬼の少女に手をひかれるままついて行った。
そうして2人が辿り着いたのは、森を抜けてすぐのところだった。
遠くには村が見える。
鬼の少女はそこまで来ると、立ち止まって言った。
「ここからは1人でお行き」
少年は何故だか戸惑いを覚えた。
恐らく、もうこの少女に会うことはないだろうと思った途端、急に寂しくなったのだ。
「ありがとう」
とりあえずお礼だけ言うと、少女は悲しげに微笑んだ。
満月に照らされたその顔は美しく、髪は銀色で、この世のものではない気がした。
鬼の少女は踵を返すと、元来た道へと走って行った。
少女の消えていく背中を呆然と見つめながら、少年はしばらく立ち止まっていた。
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