裏切り

ミュウ@ミウ

第1話


 私の両親はいつも家にいなかった。小さな私を箱に閉じ込めてどこかに行く。

 朝早く、「お仕事頑張って」とお父さんを見送るお母さん。お母さんは私のために朝食、昼飯、夜飯をタッパーに入れて冷蔵庫に入れる。そして「ごはんは冷蔵庫のやつを好きな順番で食べてね」と、こったお化粧をして、おまけに露出の高い服を着て夜遅くまで帰ってこない。

 私は部屋で絵をかいたり、本を読んだり、退屈なテレビを見たりして時間を浪費した。勝手に外に出るとすごく怒られるから。窓の外で楽しそうに遊んでいる子供たちが、とても羨ましいといつも思っていた。

 夜遅くに「ただいま」とべろんべろんに酔っぱらって、顔を赤くして帰ってくる酒臭いお父さんはの姿を見ると情けないとは思いつつも、嫌いには慣れなかった。

 お父さんは、いつも千鳥足で風呂にも入らず、酒臭いスーツを着替えもせずにソファーの上にダイブして、気絶したように眠るので、私はいつも布団をかけてあげる。

 そんな父親より遅く帰るお母さんは、なぜか元気で、毎回違った人の匂いをつけて帰ってくる。タバコ臭い人、汗臭い人、フレッシュな匂い。毎回別の人に会う仕事なのだろうか? といつも疑問に思っていた。

 ある日、いつも通りの日常で、父が先に出て、母が見送った。そして冷蔵庫にご飯を入れて「じゃあね」と私の頭を撫でて出て行った。不思議なことにその日。お父さんが帰ってきた。家の中をくまなく歩きまわって「お母さんは?」と、優しく聞いてきた。

「お仕事に行ったよ」と私は答えた。

「そうか、父さんも仕事に行くね」

「うん。いってらっしゃい」

 その晩お母さんは帰ってこなかった。

 次の日の休み私は嬉しかった。飽き飽きしていた箱から出られたのだ。お父さんが出してくれた。大きな手をしっかりと握って知らない道を歩いた。公園で遊んだり、川で遊んだ。

 夕方、父親がしらない家の前で立ち止まりしゃがんで私の頭を撫でた。

「ここがお前の家だよ」

 後から気づいたのだが、父の両親の家だった。おじいちゃんと、おばあちゃんは私を迎え入れてくれた。

 でも、母親は一緒ではなかった。私は聞いた。

「ねぇ? ママは?」

「ママはね。パパを裏切ったの。だからもう忘れなさい」

 それ以上は聞いてはいけない気がした。

 それから、私の新しい箱はとても居心地のいいものだった。毎日おばあちゃんが美味しいご飯を作ってくれる。おじいちゃんが面白い遊びを教えてくれた。休みの日にはいろいろなところに連れて行ってくれた。デパート、水族館、遊園地、海、山、美味しい御飯やさん、綺麗な景色の場所。私の世界が少しだけ広がった。

 お父さんも、べろんべろんになって帰ることはなくなったが、お母さんと同じ感じになった。かっこいい服を着て、髪の毛を整えて、良い匂いの香水をつけて出て行く日が増えた。そして、帰ってくるたびに別の人の匂いをつけていた。

 ある日、父はとても懐かしい匂いをつけて帰ってきた。

 父の顔色も良かった。

 ―――ああ、なるほど。

 その日、父は私を裏切った。

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裏切り ミュウ@ミウ @casio_miu

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