第5話 再会
本を読むか。
姉に聞けば。
静のその後はわかる。
(初夜に自分が心から愛した人と結ばれない上に、別人と知って静はショックだっただろうなあ……)
今すぐにでも飛んでいって、抱きしめてあげたい。
に、しても。
のんちゃんが恨めしかった。
ひどいよ。
何て話書くんだよ。
でも。
私は知っているんだ。
のんちゃんは、静が忘れられないんだ。
昔の彼女。
大好きで仕方なかった人。
自分が若い頃に書いた、小説のヒロインと同じ名前の静を。
百合作家で大成して、迎えに行くつもりなんだ。
ほとんど可能性がゼロに近いのに。
ある日、いきなり現れて。
ある日いきなり姿を消した美少女、静を。
のんちゃんは、今でも想っていた。
「百合界の革命を起こすほどの大ヒット作を書くんだ」
って。
のんちゃんは口ぐせのように言っていた。
一緒に暮らしてて、のんちゃんの小説の一番のファンで。
だから。
全財産が10052円しかない、のんちゃんの部屋の片隅には、探偵事務所のパンフが何冊か積んである。
いつか、百合作家になって。
んでもって、静を探して。
そんな夢みたいな事を、二十歳を越した大人が。
本気で思ってるんだ。
(でも……)
あの本の中の静は。
同一人物なのだろうか。
せめて、ハッキリさせたい。
この日、私はもう一度、本の中へ行く決心をした。
よし。
昭和の頃のドロボーみたいに、大っきな風呂敷に荷物をまとめて。
私は本を開いた。
ここっていうページに。
飛んだ。
失敗した。
静には、会えた。
けど。
いきなりピンチなんで。
後にします。
「静!」
荷物を放り出して、腰から
「あっ飛鳥」
「飛鳥姫」
静と五条さんの前には、明らかにあやしい男たちがいた。
「ほー、女がもう一人増えた」
山みたいな大男が、舌なめずりをした。
その前に、子分みたいな小男が二人。
「ほら、ほら。そんなモノ捨てて、こっちへ来んか」
小男の一人が手をひらひらとさせて近づいて来た。
-バンッ-
子分Aの腕を、私は竹刀で払った。
子分Aはびっくりするくらい、吹っ飛んだ。
(うわっ)
びっくりした。
(のんちゃん、グッジョブ!)
昨夜、最後に。
のんちゃんは元気を無くした私に一言、言った。
「あっちに、もしもこっち側の人間が行ったとすると、重力をいじってあるから、さしずめちょっとだけスーパーマンになるかもね」
って言ってくれたんだ。
この一言があったから。
来る気になれたのも、ウソじゃなかった。
「お、お、おのれ!」
向こうは、ガチの槍を振り回して来た。
「やあっ!」
その槍を、竹刀で叩き落とした。
槍は。
真ん中でポッキリ折れた。
(すげえ)
『うわっ、バケモノだっ』
男たちは、さっき吹っ飛ばした子分Aを抱きかかえて。
『逃げろっ』
って。
去って行った。
「あっあっ、飛鳥ぁー」
静が。
立ち尽くす私に抱きついて来た。
「怖かったよおー。飛鳥ー、飛鳥ぁー」
って。
静は号泣していた。
私は静の背へゆっくり腕を回す。
「………」
うーん。
やっぱ可愛い。
のんちゃんの元
ドキドキするぐらい、静は可愛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます