第2話 静

「飛鳥の持ってくるお菓子は、本当に美味しいよね」

 静が言った。

「そう?」

「うん。こっちのは、パサパサしてるから」

「そっか」

 二人で。

 静の家の、日本庭園のモデルのような庭を眺めながら、まったりしていた。

 お茶をすすり。

 おまんじゅうを食べている。

 何往復かして、ようやく気づいた。

 ここは、本の中の世界で。

 しかも姉の、のんちゃんの完全な趣味100%で書いた本の中で。

 誰かが、本を閉じると現代に戻る。

 こっちの一日は、向こうの一時間くらいだ。

 静を助けたことで、静の邸では『飛鳥姫』と呼ばれ、自由に出入り出来るようになった。

 ふいに、

「飛鳥は好きな人いるの?」

 そう尋ねてきた。

「うーん。まあ…。この間、すごい綺麗な人を学校で見かけて。名前も知らないんだけど。ちょっと気になってる」

「そうなんだ」

「静は?」

「うん。好きっていうか、親が決めた許嫁いいなずけがいるの…」

「いっ…いい、いいなずけ⁉︎」

「うん。最初はイヤでイヤで仕方なかった。でも…」

「でも?」

「会ったらね、優しくて、すっごく綺麗な顔立ちをしててね、次郎って言うんだけど。気づいたら目で追ってたの」

 ちょっと照れたように、静は言った。

「そっかぁー。だったら、良かったね」

 心の底からこの言葉が出た。

 まだ出会ったばかりだけど。

 私たちはまるで姉妹みたいで。

 何ていうか、すごく一緒にいて楽しい。

 大親友とすら感じるくらい、私は彼女を大切に大切に感じていた。

 静は、瞳が大きくて、唇がピンク色で。

 アイドルみたいに可愛かった。

「いつか、飛鳥にもちゃんと紹介するね」

 彼女は優しく微笑わらった。

 その笑顔は、天使のようにふんわりしていて、のんちゃんの昔の彼女にとても似ていた。


(ん?)

 似てる。

 似ていた。

 姉の元彼女カノに。

 静は似ていた。



「あれっ、あんた、いたの?」

 本を閉じた姉に。

「ねー! そんな事どーでもいいから! のんちゃん。のんちゃんの昔の彼女、名前何⁉︎」

 姉の腕をガチっと掴んだ。

「いつの?」

「え、いつ?」

「高一? 二? 三? 大一? 大二?」

(こっ)

 この人すげえ。

 めっちゃモテてんじゃん。

「い、家、連れて来た人。たぶん大一か、二か。あったぶん最後…の方…」

「静?」

(うわ、ビンゴだ)

「とっ、特徴あんの? その静…さん」

「んー。あっ、左乳の下にホクロあるよ。けっこう大きいやつ。ぐらいかね。めくるとわかる」

 姉はそう言って、笑った。

(めっ)

 めくれるか、んなもん。

 でも。

 携帯の中の写真は見せてくれた。

 やっぱり。

 激似だった。


 明日は土曜日だ。

 私は、部屋のライトをつけた。

 本を開く。

 少し速読して、安全な所へ行く。

 はずだった。


 ぐすん…。

 速読失敗した。

 私。

 牢屋に入ってる。



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