第2話 隅


小さい頃から隅が好きだった。


お盆に祖父母の家に帰省すると、家族4人分の布団が並べられた。私は壁際じゃないと眠れない質で、父の隣も嫌だったので、姉とよく喧嘩をした。



大人になった今でも、ベッドは必ず部屋の隅に置く。寝返りをうって目を開けた時、壁があると安心する。

一人暮らしをはじめて15年以上たち、それなりに引っ越しもしたが、ベッドの位置はずっと壁際だった。一件をのぞいて。



社会人になってしばらくたった頃、駅前に住むよりもちょっと離れた静かなところに住もうと思い立ったときがあって、築そこそこのかわいいアパートに引っ越した。

駅から離れている分今まで住んでいた部屋よりも広い。青い外壁に白い出窓があるのがレトロな感じでお気に入りだった。

白い出窓は、部屋の真ん中にあった。

この時どうしてもベッドをこの出窓に合わせて置いたみたいという衝動に駆られた。

やってみるとベッドを隔ててクローゼット側とベランダ側という感じになり、それぞれの間には十分なスペースが確保された。こうして、人生で初めて隅で寝ない生活がはじまったのだった。



1か月。

睡眠の質が落ちていることに気づく。どうにも疲労がとれない。原因は明らかだった。

最近よくみるあの夢だ。



夜中、真っ暗な部屋で目を覚まし、寝返りをうつ。するとどういうわけか、寝返りをうったはずなのに景色が変わらない。なんど寝返りをうとうとしても、結局見つめる先は枕元にあるうさぎのぬいぐるみとクローゼット。

諦めてぼんやりクローゼットを見つめると、どういうわけか扉が少し開いていて、中にかけられた春物のベージュのコートのようなものが巨大な人影に見えるのだ。

見つめれば見つめるほどその像は鮮明になり、こちらを見下ろしているように見える。

恐ろしくなって体を動かそうとしても動かず、しばらくもがいているうちに目が覚めて、クローゼットなんてかけらも開いていないし、ぬいぐるみもベージュのコートも持っていないことに気づく。



一体なにを見せられているんでしょうね。








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