評釈雪之丞変化
女子の名作と銘打って古今東西BL読みかえのしやすそうな作品を紹介していくこのシリーズ。
を、久々に更新するわけですが新しいものかというとそうではなく、むしろ女子の名作というシリーズをつくるはるかむかしのなんと14年まえに出した無料配布本、当時めっちゃはまってた作品『雪之丞変化』の紹介本をネット公開してみるぜというアレであります。
いちたろう先生のアプリで、文字をデータ化する機能があることを知りためしついでに。
便利なよのなかになりました。
このたびあらためて読み返してみた次第ですがいまとテンションあんまり変わらないね…ちょいちょい当時らしい文体あるけどあんまり変わらないね…成長していいんだよ…
そして作品に対しても、さすがに14年たって愛がさめたかというとそんなこともなく今度舞台観にいこうかなと悩んでいたりもするのですが14年たってキンドルやアマプラや青空文庫などができたおかげでたいへんおすすめしやすくなりました。14年まえは軒並み絶版だった。いちどなんかあのタッキーといまをときめく朝ドラヒロインでドラマ化したのに復刊しなかった。あのドラマ、原作というよりいちかわこん版ドラマリスペクトでW尾さんの絢爛豪華な場面をT田さんにやらせたかっただけなのでは疑惑がわたしのなかにあるのですがとかオーケーちょっと落ちつこうか。
つまりかのようにいまだ愛はあふれている次第であります。
おすすめレビューどころか話の最後までがっつりネタバレしてるどうしようもない紹介本です。
ごめんね。
14年はまり続けておもうことは、雪之丞変化、こんなに絢爛華麗かつたくさんの素晴らしい役者さんに演じられてきた作品なのに要するに「長崎のかたきを江戸で討つ」という出オチ感が最高です。
さすがはせがわしぐれの随筆で階段オチをくりかえす旦那さんの作品だけあります。酒浸りで書いてたんかな…て思うところも頻々。
あとから出てきますが初ちゃんの元彼のなまえとか綱渡り感がすこい。
あとだいたいにおいて八犬伝パロ。ところでわたしのすきな犬士は毛野で小文吾毛野ですが雪之丞変化は信乃毛野混ぜ合わせた主役に相棒が現八って言ったらめっちゃわかりやすいかもしれない。ヒロインのなまえ浪路だし。
それはさておき。
それではまだ若々しきパッションを多分に残したわたくしめの熱き語りを存分にお楽しみください。
何度でも言いますが『雪之丞変化』という作品について完全にネタバレしてるのでにがてなかたはご容赦を。
なんなら高校の国語便覧とかでもネタバレされてますけども。
とにかくあのころは、おすすめしても作品を読んでくれるひとがほとんどいなかったのでディテールをまとめて強制的にもえ話に付き合わせようとしていた。
なかなかな力技でした。
それでははじまりはじまり。
●まえがき
はじめまして、こんにちは。羽太と申します。
このたびはこのような本をお手にとっていただき、ほんとうににありがとうございます。
無料配布でしかも妙にあつい謎の本ですがこれはいったい何なのかというと、わたくし羽太が先日、三上於菟吉先生の『雪之丞変化』を読んだところ、そこに出てくる主人公と相棒がどうしようもなくアレで「文学史とか載ってる本なのに名作なのにどうなのこれ!」とおもい、たぎるもえを四方八方にぶつけてみたのですが作品自体が古すぎてだれも知らないし読んでもくれなかったので脳内自家生産で地道に布教していこうと画策したものです。(長い)
おひまつぶしにでも、読んでいただければさいわいです。そしてちょっとでもこの「大衆文学史に残る傑作」というベールに包まれたトンデモ世界に興味を持っていただければ、これにまさるよろこびはありません。
…読んでくれたらもっとうれしいです(ぼそ)
ただより高いものはない、の精神で、暑苦しく愛をもさもさ語っていこうという魂胆ですが、よろしければどうぞ、おつきあいくださいませ!
2006.8.19
羽太拝
●『雪之丞変化』
『雪之丞変化』は東京朝日新聞で1934(昭和九)年11月7日から1934(昭和一〇)年8月22日まで連載されました。
当時はすごい人気で映画とか人形劇とか舞台とかばりばりなった名作です。N○Kでも人形劇になったり。
映画なんて主演が美空ひばりとか長谷川一夫とかです。
おじいちゃんおばあちゃんに聞いたらきっと知ってます。
そいで現在のきなみ絶版です。(…)
●よくわかる人物紹介
★雪之丞(17) 主人公… 役者 / 本名:松浦雪太郎
元は長崎で代々聞こえた物産問屋・松浦屋の一粒種。
七歳のころ、時の長崎奉行や商売敵の奸計にかけられ生家が没落。父母を亡くしたのち、貧乏役者・中村菊之丞に拾われ旅の一座に入る。生来の美貌と機転で一座を支え、大坂一の女形と謳われるまでに成長。巡業先の江戸でも大評判をとる。
役者稼業は世を忍ぶ仮の姿、実はちいさいころから復讐のため身を鍛錬し生きてきた。のでものすごく強い。うえに賢い。のだけども復讐のことしか頭にないせいか、それとも師匠たちがかわいがるあまりガードしまくったせいかちょっと情操に問題があるというかたぶんこのひとこどものつくりかたとか知らないんじゃないだろうかとおもわれる節が頻々。役者なのに。色気を武器に仇の娘をたぶらかしているはずなのに。
登場人物の9割は老若男女の別なくこのひとに惚れる。
清楚できまじめでわりと天然。
長崎小町と呼ばれた母と瓜二つの容姿。
★闇太郎(20代前半)… 義賊
江戸一番の大盗賊。元は武士の家の出で、父親が上役に嫌われ切腹させられたことから世を憎み無頼の徒に。飄々と悪をくじき弱きを助ける、粋でいなせな色男。強い。かっこいい。それはもう滅法かっこいい。困窮のどん底で友を助けられず見殺しにしてしまったという暗い過去を胸に秘めている。女ぎらいが珠に疵。
江戸に来てまだ右も左もわからない雪之丞がごろつきにからまれたところを助けたことが縁のはじまり。ひと目出会ったその日から雪之丞にめろめろ(死語)で、運命だの宿世だのと云いながら復讐を手助けし、陰ひなたになり世話を焼く。
雪之丞への愛は物語の進行とともにどんどんすごいことになる。たぶん奥歯に加速装置とかついてる。
昼間は腕のいい牙彫職人。
★土部浪路(18?) … 将軍龍妾
雪之丞が仇と狙う男・土部三斎の娘。
大奥一の美女。将軍寵姫としてこの世の栄華を尽くす。しかし「わたし、このまま将軍(えろじじい)のために青春費やしてていいの?」と絶賛自分見つめなおしキャンペーン中、芝居見物に出かけたところで雪之丞にひと目惚れ。雪之丞が自分を利用し復讐を遂げようとしているとも知らず、一途な愛を貫く。でも権力にものを云わして雪之丞を座敷に呼びだしたり、金を使って一軒家を買いとり勝手に愛の巣を築いてえんえん来ぬひとを待ち続けてたりとやることはちょっと怖い。
いやそれも純愛。せっかく美女で清純でいじらしいのにそれを拭いきれないどうしようもない設定のヒロイン。
★軽業のお初(たぶん20代前半) … 女陶模
「江戸の悪党.男は闇に女は初」と謳われる美女。
元は軽業の太夫だったが、やくざ者・長二郎と恋に落ち悪の道に染まる。長二郎が捕まって島流しにあったあとも女親分として名を馳せる。
土部家に盗みに入り、捕まりかけたところを雪之丞に救われ、恋に落ちる。
ひょんなことから復讐計画を知り、すきなひとのためならばとあの手この手で参加しようとするが拒否され、逆恨みで雪之丞を銃で撃ったり穴に落としたりする。
これと見込んだ男を瞬殺するスキルはSSクラス。雪闇には利かぬがほかの男はころころ落ちる。
常に自分に正直で鉄火な姐御。乙女な部分もあるかわいいひと。
ところでお初ちゃんの回想のなかの長二郎はおそろしく闇太郎に似ているのでわたし最初ぜったい初は闇に行くんだろうとおもってた
んですが違ったですね。(どうでも…)
〔味方ご一行さま]
★孤軒先生
雪之丞の学問の師匠。奇人。なんか占い師のふりとかして神社の境内によくいる。自宅にかわいいちびっこ少年を住みこませている。
独身。
★脇田一松斎
雪之丞の武道の師匠。いいひとだがちょっと雪之丞を贔屓しすぎ。
嫉妬したほかの門弟から「先生ぼくを見て!」と刺されそうになったことがある。なんだこの道場。
ここんちにもかわいいちびっこ少年の内弟子がいる。独身。
★中村菊之丞
雪之丞の芸道の師匠。貧乏長屋で、零落した松浦親子の隣に住んでいた。
雪之丞父が仇を憎んで狂乱のあげくに死んだとき、いきなり飛びこんできて「坊ちゃんは私が必ずお育て申しあげます!」と男泣きに誓うのだが、いやおまえなんで…単なる隣のひとってだけなのに...
もしかしたらこ の ひと雪之丞父がすきだったのかもしれないと私は密かに睨んでいる。
細面のいい男。独身。
★島抜けの法印
はじめはお初の色香にたぶらかされ敵にまわるが、闇太郎の一喝で役立つ仲間に。頭の回転はいまいちだが気のいいおっちゃん。エセ坊主。
わ例ちゃんはこのひとの名前を最初に聞いたとき「島抜け? もしかして!」みたいになるのでまだ長二郎に未練たらたらなのがまるわかりなのにだからどうして雪さんに…(もういい)
〔敵方ご一行さま]
★門倉平馬
脇田門下で雪之丞と一二を争っていたが、雪之丞が先に免許皆伝されることになりキレて出奔。土部家の用心棒になる。
よくいる小物敵タイプだが実は雪之丞より強かったりするのでいやもう脇田先生はほんとうにどういう目的でもって道場を運営しているのかと心配になる。お初ちゃんのことがすき。
正直ただの三下なのに映画ではふなこしえいじがキャスティングされたためかっこよすぎてえらいことになっていたのでみんな観てください。ふなこしえいじに「雪!」て呼ばれて命を狙われるはせがわかずお、ふだん闇雪にしか興味のないひとですら兵雪に落ちること請け合い。請け合うもなにもわたししかいないけど。
★土部三斎
元長崎奉行。いまは江戸を裏で牛耳る隠居。悪者。ラスボス。
雪之丞の母の美貌に惚れこみ、力ずくでものにしようとして失敗。
逆恨みに松浦屋を奸計にかける。
★広海屋
松浦屋の商売敵。
★浜川平之進
元長崎奉行代官。お金だいすき。わりと影が薄い。
★横山五助
役人。お金だいすき。浪路さまに懸想する。
★三郎兵衛
元松浦屋の番頭。いまでは江戸で有名な物産問屋・長崎屋の主。
[その他]
★松浦清左衛門
雪之丞の父。元・老舗物産問屋・松浦屋の当主。
土部たちの甘言にたぶらかされて密貿易に手を染め、その罪が露見するとすべてを背負わされた挙げ句に店を追われ、妻を亡くし、裏長屋で狂死するというあんまりな運命を辿るひと。
しかしいくらつらいからと云っていまわのきわに七歳のこどもに向かって「俺は死ぬぞ、雪太郎。死んでお前の胸の中に魂を乗り移らせ、お前の手で屹度あやつ等を亡ぼさずには置かぬのだ」と云い残す父親ってどうなんだろうか。
★雪之丞の母
長崎一の美女・港内の貞女と呼ばれたひと。土部に強引にものにされそうになり、夫に操を立てるため自害。
このひとの鼻があともうちょっと低ければ、土部に横恋慕されることもなく、松浦屋が狙われることもなく、松浦家はしあわせだったとおもわれる。たぶん雪之丞はなかみも外見もおかあさま似。
… では、両親を悪者に殺された少年・雪之丞が、十何年の歳月を越え復讐の大望を遂げる、という題目の下にくりひろげられるBLワールドをぜひご覧ください。
●みどころ闇雪ハイライト
【出会い編】
江戸へ巡業にきた中村菊之丞一座。
一座の看板太夫・雪之丞は、顔見世興行成功の願掛けに八幡さまへ詣でた帰り、酔った浪人にからまれる。腕におぼえはあるものの、役者が浪人を斬ったとなれば大問題となることは確実、こまりはてる雪之丞。
そこへ「うむ、面白いな。こいつあ面白いな」とか云いながら首をつっこんできた遊び人風の男がひとり。
雪之丞と闇太郎、運命の出会いです。(…)
「ねえ、役者衆─売り出しの身で、大道に手をついているのは、あんまりいい図じゃねえ、おいらが引き受けたから、さあ早く行くがいいぜ」
と云って雪之丞を逃がす闇の兄貴。申し分なくかっこいい。
そして雪之丞が行ったのを見届けてから浪人相手に切った啖呵が
「さあ、お浪人、相手が変ったぜ。弁天さまのような女形のかわりに我武者らな、三下じゃあ、変りばえがしねえだろうが、たのむぜ。その斬れ味のよさそうな刀の、始末を早くつけたらどうだ?」
とほんともうたまらんのですが、当の雪さんはどうおもっていたかというと、「いずれ手練れの方だろう」と感心しつつ「しかしあのひとの恰好は…?」となんでか闇さんがしていた吉原かぶりに注目している。上方から来て江戸のしきたりをまだちゃんと知らない雪之丞。あれはただの遊び人の風俗だとだれか教えてやれ。
最初からなにかずれているふたり。(というか雪之丞)
〔再会編〕
浪人との悶着があったその晩、夜道を歩いていた雪之丞は覆面の暴漢に襲われる。からくも撃退したが、手口から犯人はおそらく兄弟子・門倉平馬だと知れる。平馬は雪之丞が自分より先に免許皆伝したのを恨みに思い、道場を出奔、以来姿を消していた。
兄弟子の悪への傾斜に胸を痛める雪之丞、そこに男が声をかけてくる。見れば昼間の色男。闇太郎と雪之丞、運命の再会です。
また襲われては危ないからと駕籠を呼びにいってくれる男。
しかしなぜか待てど暮らせど帰ってくる気配がないので、雪之丞はしかたなし自分で駕籠を探しに行く。
そこで突如起こった捕り物騒ぎ。「御用だ、御用だ」とわらわらやってくる十手持ちたちに、だがまわりにいただれも手を貸そうとしない。ふしぎがる雪之丞に、駕籠かきは云います。
「あいつらが追っているのは闇太郎でしょう。ほかの盗人ならどうでも俺らも捕まえる、が闇だけはしねえ。肩で風切る、勢いで、倉には黄金は、山程積んであろうところから、気随気儘に大金を掴み出し、今日の生計にも困るような、貧しい者や、病人に、何ともいわず、バラ蒔いて、その日を救ってやるという、素晴らしい気性者。江戸の誇りですよ。」
いつまで経っても帰ってこない男、そのひとはもしかして…と、気づく雪之丞。
「雪之丞は、駕籠かきたちよりも、一そう強く、あの若い生き生きしい、いなせ男を、思慕せずにはいられない。」(本文)
恋の予感。
〔確信編]
芸の見事さを気に入られ、土部三斎の屋敷に招かれた雪之丞。
その帰りに行き逢わせた闇太郎は、「あの太夫はただ者じゃあねえ」と見込み、ふたりで話す機会を得ようと跡をつける。
しかしついてく途中で「それにしても上方くだりの、あのなまっ白い女形がなんだって、おれの気持を、こんなに引付けるのか」なんて考えてしまってる時点で闇太郎は完璧にもうアレです。しかも続いて「あの駕籠に乗っているのは、てっきり雪之丞だ。そら..この辺にまばらしく好い匂いがプンプン残っているじゃあねえか」とか云うにいたっては本気で彼の将来を心配したくなります。まあいまさらだけど。
首尾よくナンパに成功し、自分ち(浅草田圃の中の一つ家てどういう…)に雪さんを連れこむ親分。「お前が天下を狙うなら、俺にも片棒担がせてみないか」とのっけから熱烈きわまりない。
それに惹かれながらも、志をひとに明かすことに躊躇する雪之丞。
結局親分は、「俺は、お前が腹の中を割ってみせて呉れねえと云って、先程も云う通り、少しも恨みに思いはしねえ」と、江戸っ子らしくひきさがる。しかし、次に続く台詞、
「なあに、太夫、俺たちの交際は今日明日に限ったものでもない。お前も知らぬ土地に来て、当分、苦労を仕様というには、俺のような男でも、いつか又、用になろうとも知れぬ。その時には、これこれだから、急にお前の命が欲しいと知らせてくれれば、どんな所へでも飛んで行くよ。男同士が、好き合ったからには、遠慮は少しもいらぬことだ」
てあんた。全然諦めてない。ラブい。
〔蜜月編]
お初に復讐計画がばれ、焦る雪之丞。このままではすべてが破綻してしまう、どうにかしなければ!ということで餅は餅屋、悪党のことは江戸の悪党に聞けと、闇太郎を頼ることに。
白分の抱えているすべてをぶちまけ、助力を請う。
親分そりゃもう大喜び。さっそくお初を荒れ寺に監禁し(のんきものの息抜けの法印などをお目付役にするのであっさり逃げられる)(それくらいも予想できんほど浮かれていたのか) 大望成就を願って自分がつくった鷹の根付けを雪之丞にプレゼントする。雪之丞が自分ちに尋ねてきたと知るや駆け出してきて迎え、風邪をひかせちゃ悪いと家に一枚しかないどてらをいそいそと着せかける。
大丈夫か。
そのくせ雪之丞への恋に悩むお初ちゃんを「色気違い」と呼び、
「何だって、世の中の奴ぁ、色恋ばかりにそう狂ってやがるんだ」
とか嘲笑うんですがいやいやおまえが。
つーか「太夫がもう少し不男ならあんなに女にもてなくて済んだのに」とか云うところを見るに、つまりおまえはあれか、女どもは上っ面でぼーっとなるが俺の愛はそんな軽いもんじゃあねえとそういうことを主張したいのか。末期だな。(わたしが)
着々と進んでいく雪之丞の復讐を影になり日向になりサポートする闇太郎。お初に穴に落とされたり門倉平馬に狙われたりで艱難辛苦の雪之丞を颯爽と救う姿はまさにヒーロー。でもあいかわらず雪之丞には「親分が私に手を貸してくださるのは復讐を果たせという神仏のお導きからだ」とかおもわれてる。
哀れ。
〔運命の分かれ道編]
悶着のすえ、誤って横山五助を刺し殺してしまった浪路。ふとしたことからそれを救った島抜けの法印。法印からの連絡を受けた闇太郎は、ひと殺しのショックと雪之丞への思慕でもはや息も絶え絶えとなった彼女を自分の家に運びこみ、雪之丞ともども末期の水をとることに。(昔のひとは弱すぎないか… )
仇の娘ゆえに純愛を向けられても応えられなかった雪之丞、父の悪行を知らず一途に雪之丞を恋した浪路。ふたりの思いが通いあうとても感動の場面なのだが、ここでも親分ははずさない。
浪路さま臨終の場面の一文をご覧いただきたい。
「そうだ─闇太郎こそ、この権門に生れて、父兄の欲望の餌となり、うわべだけの華麗さに充たされながら、煩わしく、暗く、かなしい半生を送らなければならなかった美少婦の、真実の心の悩みを知っていたのであった。」(本文)
…親分、なに知ってたんですか。
べつに家柄とか立場とか全然かぶらないよね君たち!
これはもうあれですか、そのちょっとまえにあった闇の親分の述懐、「闇太郎に言わせれば、彼自身もほんの行きずりの邂逅が縁となって、こんなにまで打ち込まねばならなくなった雪之丞だ─まして浪路は、夢多き一少婦、身分も、境涯も、この恋のために忘れてしまったのも無理からぬことと思われ、そして同情の念を起さずにはいられない」ていうところとからめていいわけですよねそれでいいですよね三上せんせいファイナルアンサー?(…)
おなじ思いを抱きつつ、明暗の道を分けたふたり。
雪之丞が罪なのか、三上せんせいの筆が罪なのか。悶える。
〔大団円編]
門倉平馬との激闘を乗り越え、みごと土部三斎らへの復讐を遂げた雪之丞。
しかし安堵するのも束の間、江戸奉行が闇太郎のねぐらを急襲しようとしていることを知る。
大恩ある親分の身が危ない! 雪之丞は勢い浅草に走る。
折しも闇太郎が十手持ちに囲まれているところに飛びこんだ雪之丞。免許皆伝の腕でもって、ばったばったと敵をなぎ倒す。雪之丞の復讐が気がかりでことを荒立てることができなかった闇太郎も、相棒の無事な姿を見、本領発揮。勇猛果敢に敵を討つ。
「逃げるなら一緒に逃げよう。雪さんどこまでも一」
「あい。そうしましょうか!」
ふたりは手に手をとりあって、夜の闇へと落ちていく。
そして後日。中村菊之丞一座の公演中、新顔の男衆がひとり、雪之丞の芝居を、舞台の袖から見つめているのだった。
★ポイント
①雪さんといっしょにいると盗人心がなくなって真人間に戻りたくなると告白する闇太郎。
②ふられたお初が、そっと舞台を見に来ていることを雪之丞に報告するときの闇太郎。勝ち誇りすぎ。
②最後には一座にくっついて大坂にまで行っちゃう闇太郎。生粋の江戸っ子でほかの土地には行きたくないって云ってたのはだれだ。愛はすべてを凌駕する。
●あとがき
『雪之丞変化』ってわたし、平成の御代に何でいきなりそんな70年以上もまえのはなしを…とかいう根本的な疑問とか、愛だけが先走って体裁とかデザインとか全然かんがえてないていたらくとか、いろいろ改善点はあふれる大河のごとき勢いですが、ここまで読んでくださる方々どうもほんとうにお疲れさまでした!
「あいつらできてんだぜ!」という同人語りを全編通してお送りしてきたわけですが、ほんとうの『雪之丞変化』はそれだけではなく涙の純愛あり手に汗握る活劇あり息呑む策略ありの一大エンターテイメントとなっております。めちゃくちゃおもしろいです。とくに闇太郎の旦那のかっこよさ、雪之丞の凛々しさには心底脳髄まで痺れます。これを機に、このすてきな物語に触れてもらえたらさいわいです。(三上先生のまわしものではない… )
ではでは、ほんとうにこのたびはありがとうございました!
■読みやすい雪之丞本
・講談社大衆文学館コレクション
三上於菟吉『雪之丞変化』上下(講談社・1995.7.20)
さわりだけ読める
・新潮社編『颯爽登場! 第一話』(新潮文庫・2004.7
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