赤い十人の男

 タイトルがめちゃめちゃ気はずかしいけどひらめいたときはこれいけるなっておもった、ドヤ顔でおっさんギャグをひけらかしたい年寄りごころといまだ捨てきれないわかものの羞恥心のはざかいにある昨今です。

 ということで赤備えをまとう十人のつわものといえばご存知真田十勇士。

 のお話を今回はしたい。

 いやご存知どころかわたし今回ここにいたるまで真田十勇士のことろくろく知らなかったうえに唯一あったイメージが「真田幸村の配下っていう設定の架空の人物たちのことでおそらく十人のうち半分くらい大阪夏の陣で死ぬ」とかいうすごい雑なものだったのでご存知とかいうのどうかとおもうけどほらまあそこは定型文的にね……なんかね……


 しかもよそさまはさりながら、高校で日本史B選択だったり日文出身だったり大阪出身だったり一時期天王寺はホームってくらい仕事に遊びにうろうろしていた過去があったりひいては大阪城だって毎日見てたことだってあったり、なんてことがあるのになんでわたしはまったく真田のさの字も知りもしない興味もないでいままでの人生すごしていたのかまったくもって宝のもちぐされっていうかほんまなんで知らへんねんっていまになってわれながらあきれてるけどそれはさておき。

 しょうじき昭和以前の日本史のトピックにいままでまったく興味がなさすぎて関が原の戦いで東軍と西軍のどっちが勝ったかさえ記憶になかった。ましてや東軍と西軍の構成要員などまったくもって知るよしもなかった。日本にごめんなさい。それもさておき。


 ではなぜそんなわたしが真田のひとびとに興味をもつようになったかというと、答えは簡単、映画『真田十勇士』を観にいったからでした。


 つつみ隠さず言うと十勇士のことなんにも知らないながら出演者にちょっと贔屓の役者さんがいらしてそのかたの殺陣を鑑賞したいなと劇場に足を運んだところ画面いっぱいにその役者さんともうひとりすてきな役者さんとのド直球のブロマンスが展開されて、どういうこっちゃねん……となったから……ほんとあれどういうこっちゃねんって感じだった。結局映画五回舞台一回いきました。堪能した。


 そんで、どういうこっちゃねんってなるよねあれはなるよねってともだちに主張してご同道を願ったりメールやLINEやSNSでプレゼンしまくったんだけどもなぜかわたしのまわりのひとの胸にはそういう意味ではヒットしなかったみたいで結局ずっとSNSでひとり壁打ちしてたって事実もあるのでげにむずかしきはもえごころだとおもいましたがそれもさておき。


 あとブロマンスはともかくそもそも八犬伝とか水滸伝とかめっちゃすきなので映画真田の王道ケレンたっぷりの演出にノックアウトされたとか、青年やおっさんたちの群像劇もすきなのでそこでもノックアウトされたとか、いろいろありました。


 要するに映画めっちゃ好きです。DVDは豪華版を買いました。


 で、そんな風にとってもはまっていたので映画が公開終了してしまったあとのロスがひどくて、それをどのように埋めるかってことでわが真田十勇士遍歴がはじまった次第。

 あいかわらず前置きが長い。

 手はじめにほるぷの複刻版『立川文庫猿飛佐助』を読み、それから家にあった昭和講談本を読み、柴錬に村上元三にそれから現代作家に児童文学にと目につく端から読んでいき、そんなこんなで現在にいたるまで読んだ真田十勇士ものは計十五シリーズ二十冊。

 映画が公開終了してから約三ヶ月、そのあいだわたしは約百五十人の十勇士プラス十五人の真田幸村さまと出会い、ゆくすえこしかたを見守りそして別れました。別れてないひともいるけど。シリーズまだ終わってないのとかあるけど。あとちょっと検索したかぎりでもこの倍くらいにはまだ未読の小説があるし映画やまんがやドラマに関してはまったく手つかずだしほんともうどうしたらいいかわからないことになっているんだけどなんかもうそれはおいおいということで。


 で、ここ三ヶ月ほど真田十勇士について学んだ結果、不肖わたくしめが理解した事実はひとつです。


 真田十勇士の設定、めっちゃフリー素材。


 十勇士の面々の設定、年齢も家族も生活環境も出身地も身分も階級もそのほかもろもろすべてにいたるまで作者によってぜんぜん違う。

 ほんとに違う。

 架空の人物とはいえ名字からして真田家直属の家臣であることが正史上であきらかな海野と望月のダブル六郎ですら作品によってはときどき信州から出ていってしまう……九州の神官とかになってたりする……。

 たぶん原典というか典拠となるのは大正年間に刊行された立川文庫なんでしょうが、わたしが読んだのは『猿飛佐助』だけなのでほかの『由利鎌ノ助』とか『霧隠才蔵』とかの登場人物設定はまたべつなの……? だからみんなそれぞれこんなばらばらなの……? とかいろいろ、考えつつしかしたとえば三好入道兄弟なんて犬飼六岐『黄金の犬』では戸愚呂兄弟みたいな老人たちだったのに林芙美子『絵本猿飛佐助』では豪快熱血青年僧だったりさ……あと村上元三版真田十勇士の、えらいひとの稚児あがりでいまもそれを武器に世を渡り歩いている望月六郎とかほかの作品にはまあない設定だし、松尾清貴版真田十勇士では海野六郎が少女で佐助の姉弟子っていう、筧十蔵にいたってはうまれも特技もまったくもって統一性がない……。

 ただ霧隠才蔵だけは腕の立つイケメンクールキャラってところほとんどぶれないので、日本人の思い描くライバル像ってけっこう不変なんだなと興味ぶかかったり。

 佐助は明朗闊達な武士から時代を経るにつれてちいさくて敏捷な忍に変わっていくのでそれもちょっとおもしろい。


という風にいろいろ読み比べつつ、そしてどれもとってもおもしろくはあれども映画真田十勇士の青春群像かつ娯楽活劇のジェネリックにはならぬのだな……ていうかまあ基本の舞台が関が原とか大阪の陣だししかも敗軍の将の下にいるひとたちなのでもうリアルに殺伐としすぎて仲間との交情とかないじゃんみな幸村配下としてそれぞれの任務を全うしていくだけじゃんいやまあそりゃそうだよねいまはともかく昔の時代小説でおっさん武士たちが十人もきゃっきゃしてたらそっちのほうが読者びっくりしちゃうよね、むしろ作品内に十勇士のなまえが出てきたらああこいつはほかのやつと違って裏切らないなと安心するくらいが関の山だしむしろそれさえうかうかしてられないときあるし敵も味方もばんばんころしあうし騙しあうししかもメンバーのうち半分はラスト死んじゃうしねってまあそりゃそうだ真田幸村が滅びるの史実だもんねこのひとたち史実のキャラじゃないけどねみたいな境地に達しかけた折も折、手にしたのが小前亮『真田十勇士』(全三巻+外伝/小峰書店)でありました。

 この小前版真田十勇士が、いままでの殺伐としたおっさん十勇士たちの姿を見続けてわりかしすれてしまったわたしのオタク心に染み入るがごとく少年漫画および少女漫画もえのポイントをがっつがつと押してきてくださったので……いままでありそうでなかった十人の青年たちの青春群像劇をとてもたのしく描いてくださっているので……すごいジェネリックになりました。

 砂漠にオアシスを見る思いでした。オタク心的に。

 とはいうものの、わたくしそれまでの真田遍歴でそうとう心がすりきれていたので、純粋無垢でかわいくていいこで才能があってという漫画やアニメのやんちゃわんぱく主人公そのまんまな佐助をはじめて見たときはまぶしくて正視できなかったし、しかもそんな佐助をまわりのひとびとがとてもやさしくあたたかく見守っているので、一巻の途中くらいまで「まさかそんなはずはない! 佐助のまわりにこんなやさしいひとたちがいるわけがない! この師匠とか兄弟子とかは笑顔の下に裏切りの仮面を隠してるんでしょ? 油断させといてとんでもない死地に佐助をほうりこむんでしょ!?」というどすぐろい猜疑にとりつかれながら読んでいた。


 暗い。

 われながらめっちゃ暗い。

 もっと世間を信じて。信じられないけど。戦国時代だし。


 そしてそんな風に怯えながらも読みすすめていき、いっかな佐助が裏切りに遭う気配がないので、もしかしてこれがさとり世代の児童文学ってやつか……だれも傷つくことのないすべてがやさしい世界か……などとものすごく偏見に満ちた感想をいだきかけたどこまでも暗いわたし、とはいうものの同時期に出された松尾版真田十勇士では児童文学なのに佐助が五年くらい師匠に監禁されて毎日半殺しにされてたりもともとつらい過去を背負ってた才蔵がそのうえ任務に失敗して腕ぶっちぎられてたりしてたなっておもいだして、いやこれは世代がどうとかとはまた違う話やな、ってなった。


 いや松尾版十勇士めっちゃ好きですけど。めっちゃ泣きますけど。松尾版十勇士についてはもえとかべつにして語りたいとこいっぱいあるけどそれは今回置いといて。

 ということでここからは小前版十勇士がいいぞという話になります。

 いろんな意味で。

 ちなみにこの記事の本題は『女子の名作』です。

 そういうことです。

 お察しください。

 歴史的事件とひとびとの関わり、魅力的な登場人物たちなど真田十勇士に興味のある向きの入門書としてもいいんだろうなとか娯楽作品としてめっちゃおもしろいなとかいろいろ見どころはたくさんあるんですけどとりあえずこの記事は『女子の名作』的アプローチで参ります。


 まずは猿飛佐助と霧隠才蔵。

 たぶん世にその名を知らぬものはないだろうってくらいの忍者のダブル筆頭格。

 ってきめつけてもそんなに支障はないんじゃないかな……どうかな……あったらごめん。

 なにしたひとか具体的に知らなくても、「あー、なんか忍者で、ライバル同士で、伊賀とか甲賀でなんかそんな感じの」みたいなイメージはあるだろうおふたり。ちなみに実際十勇士ものを読むとふたりの出身はときには佐助が伊賀とかときには才蔵が甲賀とかときにはそれがまったく反対になってたりむしろそれ以外とか作品によってぜんぜん違うのでわたしはいまだにこのひとたちがどこ住みの忍かわかっていない。いきなりふたりをさしおいて望月六郎が甲賀者だったりするときもあるから油断できない。十勇士は常にフリー素材です。

 わたし自身この日本物語史上の忍者二大巨頭みたいなふたりでもえとか語ることになるとはおもわなかったしいままで読んできた十勇士もののなかでこのふたりの関係性にもえたこともなかったのでここにきてうかうかとどぼんしたことにいまだに茫然としています。

 純真でちいさくてかわいくて幸村様に一生懸命仕える猿飛佐助。

 クールで寡黙な長身イケメンで金のためなら手段を問わない凄腕の渡りの忍び、霧隠才蔵。

 一時は敵味方に分かれながらも、その純真さに心ひかれてか佐助にのみ優しさを見せる才蔵。そして仲間になるにいたっては、あ、これ中学生くらいのとき図書館で借りたわりと古めのルビー文庫で見たやつや……というきもちにしみじみとなりました。とにかく才蔵が佐助に甘い。甘すぎてよそごとながら気恥ずかしい。わたし児童文学読んでるんだよね? 昔のBL風味少女小説読んでるんじゃないよね? と何度か確認したくなった。


 これが一番め。


 つぎは真田家家臣団でも名家とされる望月家の六郎と海野家の六郎。

 望月は明朗闊達、武術に長けたさわやか好青年。

 海野は知略に通じた銃の名手、冷静沈着がすぎて無愛想なのが玉に瑕、目の細いおとなしやかな風貌。

 正反対の風貌と気質のふたりは竹馬の友であり、おおきな困難を乗り越えたのちともに幸村さまの手足として勤めている。

 このふたりの幼少期から青年期までスピンオフで読みたいわ……! ってめちゃめちゃおもいました。

 ダブル六郎がこんなになかよしでかわいい作品ほかになかった。

 どちらも真田を支える名家の出でともに九度山まで幸村さまに同行しておなじ十勇士でなまえがいっしょなんて仲よくなってあたりまえなのではと素人目には見えるんだけどなんかどうしてかいままで読んだ作品群はそうでもなかった。ふしぎ。


 これが二番め。


 そしてまだいる、三番めが三好伊佐入道と由利鎌ノ介。

 いままで読んできた十勇士もののなかの三好伊佐は、兄の清海入道とならんで十勇士ゴリラチームというか筋肉だるまというか戸愚呂兄弟というかなんていうかそんな設定が多かったので、この作品で女に見まごう美貌の青年という描写を見たときはおもわず、マジで? と声をあげました。ちなみに兄はゴリラでした。それはそれでなんかちょっと安心した。

 この三好伊佐、幼き日に兄と揃って寺に預けられたため常に僧形の美青年。智謀に長けた薙刀の名手。あとめっちゃ毒舌。

 徳川に育った寺を滅ぼされ復讐に燃えているところとか、かつて少年少女名作全集の八犬伝を読んで犬坂毛野を贔屓にした小学二年のときのわたしが「おまえ変わんねえな」って肩をぽんとたたいてくる気配を察しました。

 ぶれなさすぎて自分がしんどいわ。

 対する由利鎌ノ介は元大谷家に仕えた武士で、美女と派手な服装を好み、ちゃらちゃらしてるのにやるときはやるぜの鎖鎌使い。

 このふたりがなぜか兄貴の三好清海をさしおいて十五年ずっといっしょにふたり道中していたという設定に、わあ……となったのわたしだけかなどうかななんなのかなこれ……。

 

 ということで十勇士中六人、もしくはラストのラストでもうひとり見ようによっては見えなくもないなにかを育んでいるというグループ内交流豊かなこの作品。

 いろんなバリエーションがあるな……親切だな……みんなきっとこのうちのどこかの沼には落ちるんじゃないかな……とさまざまな嗜好性をもつ友人知人たちの顔を思い浮かべながらプレゼンの準備をしかけたのは秘密です。

 わたしがどこの沼に落ちたかはおそらくこの『女子の名作』を通読されれば明らかなので言わない。


 上にあげていない筧十蔵、穴山小助、根津甚八、それからもちろん三好清海といった面々もそれぞれめっちゃすてきなキャラクターなので、ペアがどうとかきめつけなくてもほんとみんなかわいい。のはずなんだけど業が深いものでどうしてもペアをきめつけてしまったことはほんともう許してほしい。自分でも申し訳ないとはおもっている。


 とかなんとか、なんだかいろいろ書いてまいりましたが、活劇あり、人情味あり、派手な戦闘シーンありと娯楽要素たっぷりの小前版真田十勇士、とってもおすすめです。

 かわいくてにぎやかな小前版十勇士たちの活躍を胸に、それではまた十勇士ものの探索に出ることにいたします。

 殺伐とした戦国時代に疲れたらまた帰ってくるね。

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