第23話『孫(狂人)達を裁く法廷』

ここは王都の法廷。


勇者パーティーに所属していた

その孫たちが被告人として

法廷に呼ばれていた。


かれらの罪状は異世界の知識を独占し、

その異世界の知識現代チート

虐殺や、薬物汚染、過重労働による

過労死させたことである。



あと、普通に殺人罪。



被告人席に座るのは、

大魔法使いマホーツ、

大商人ショニーン、

大僧侶ソーリョ、

大盗賊トゾークの四人だ。


他の孫達をかばうために、

最後まで黙秘のために

自殺した"戦士の孫センシー"は

もちろんここにはいない。


なお、センシーが仲間と思っていた

だけで他の孫たちあらは

一切そう思われていなかったようである。




「それにしてもダンジョンの人、

 ショニーンだっけか?

 死んで無かったんだな。

 あれだけ燃やされたのに」


「ボクも死んだと思ってたなの。

 ラクイさんのハンマーで

 完全にダンジョンが破壊される

 直前に自分の体の一部のみ

 を切り離して生き残ったみたいなの」


「……しぶといヤツなのだ。

 より念入りに滅すべきだったのだ」



3人はソフィアの認識阻害の魔法を

多重にかけた状態で一般の傍聴人に

まぎれ、傍聴席に座る。



今日、三人が傍聴席に座っているのは

ギルドマスターのギルダーから、

勇者パーティーの孫たちの証言に

偽証がないか念のために確認して

欲しいとの依頼を受けての対応であった。



王都の法を司る裁判長が、

前にたち被告人席に座る

被告人たちに言葉をかける。



「被告人、魔法使いの孫のマホーツ、証人台の前へ。

 あなたが、異世界からの技術、および労働方法

 の知識を悪用し多くの人間を殺めた事は言い逃れ

 ができないほど明らかになっています。

 黒色火薬の違法製造及び、鉱夫への過重労働、

 その他殺人罪について、釈明がありますか」



マホーツは被告人席から立ち上がり、

うやうやしく、証言台の前に進む。


無駄に腰にひねりを加えながら

の歩きは、自慢の巨乳を揺らせて、

裁判官の心証を良くしようという

金髪巨乳アピールの試みである。


マホーツはファサッと自慢の金髪と、

巨乳を揺らしながら、裁判長に語る。



「裁判長様、本件の全ては、

 私様のいたらぬ"従業員の責任"です。

 彼らもきっと地獄で反省しているでしょう。

 どうか、無能な彼らをお赦し下さい。

 このマホーツの顔に免じて……」



「えっと……。すみません。

 どういうことでしょうか? 

 この法廷はマホーツさん

 あなたの罪を問うための 

 法廷なのですが?」



「いえ、従業員は家族。つまり、私の体の

一部のような物ですわ。つまり私様の罪は

従業員の罪です。


よって、私様は従業員のおかした罪により、

私様はこの法廷に呼ばれているという

認識でございます。無能な人間というのは、

その存在自体が罪なのです。


そういった意味では

"不出来な従業員を雇ってしまった私様"

にもごくわずかな罪があるかもしれません。

ですが……その罪は99%は従業員の

責任によるものです」


「いや、あなたの言っている意味は分かりませんが、

 あなたが罪を犯した証拠は全て残っています。


 黒色火薬の違法製造はあなたが従業員に

 対して指示をしたと書類で証拠も残っています。 

 あなたの自筆のサインの書かれた物なので

 言い逃れはできませんよ?」



「仮に、私様が法を犯したとしても、

 社長である私様を諌めるのも従業員の仕事。

 つまり、私様の間違いも全ては

 従業員の責任なのです。


 不出来な従業員が私様をとめられなかった

 事については私様も責任を感じております。


 どうか愚かな従業員どもは自身の罪を死をもって

 償ったなのでどうか赦していだけないでしょうか?」



(どんなロジックだよ……

 明らかにおかしいだろっ!)



傍聴席に座るシローもブラック労働に

殺された転生者なので最初は苛立ちを

覚えていたが、あまりにも、マホーツの

証言が想定外過ぎて途中からは

真面目に怒る気力すらなくなっていた。



「いえ、マホーツさん。もともとこの法廷は

 従業員である鉱夫の罪について

 問う法廷ではありません……。

 それに死んだ人間に責任を問う

 ことは"できない"と思うんですよね」



『できない』という言葉が癇に障ったようで、

マホーツが裁判官相手に説教を始める



「裁判官……。"できない"と言うのはですね、

嘘つきの言葉なんです。そもそもうっかり、

私様に殺されたり、過労で死んでしまった

したのであれば、責任をとるために今すぐに

蘇って私様の代わりにこの法廷に立てば

良いんですわ。それが従業員としての務めでしょう。


殺されたり死んだくらいで、"できない"なんていう

のは何の理由にもならなくてですわよ。

そういう言い訳をしているからはいつまで

たっても夢を叶えられなかったんですわ」



(一つも意味が分からねぇ

 この金髪巨乳、完全に頭ワ○ミだな)



「……アーハイ。マホーツさん、もう結構です。

 お下がり下さい」


言葉が通じないことを悟った

裁判長は、投げやりな言葉を

マホーツに告げる。


マホーツは、完全に自分が

無罪を勝ち取ったと勘違い

したのか余裕の表情である。



「次、商人の孫のショニーン、証言台の前へ。

 ダンジョンの違法建造ならびに、

 危険なダンジョンを作って多くの

 冒険者を殺した容疑について。

 なにか釈明はありますか?」


「ダンジョン ダンジョン ダンジョン

 ダンジョン ダンジョン 大家族」


「はい?」


「やんちゃな焼きダンジョン

 やさしい焼きゴーレム

 わんぱく焼きモンスター

 みんなみんなあわせて

 100人家族」


「………他に言い残す事は」


「ダッ……」


「……」


「ダンジョジョダンジョダン

 ダンジョン……ジョダン

 ジョダンジョダンダンジョン」



(ダンジョンおじさん

 完全に壊れちゃったな……。

 それにしてもやたら2000年代

 下半期ネタを感じさせる狂い方だな)



「ハアィ……。ではショニーンさんも

 お下がりください。


 次に、僧侶の孫のソーリョ、証言台の前へ。

 怪しげな宗教団体の設立による王都民の洗脳、

 及び高額詐欺商品の販売。


 ならびに、"ジャ教"の信者の

 大量虐殺について。なにか釈明はありますか」



「訂正しなさい」



「えっ……? 何を。

 どのへんを訂正しろと?」


「彼らは、犠牲者ではなく教団の

 ために命を捧げた殉教者です。

 神である私のために命と財を捧げたのです。


 死こそ救いなのです。私が懺悔することが

 あるとすれば、酸素水に変わる新製品、

 炭素水の発売が間に合わなかったことくらいですわ」


「炭素水……とは?」


「全てを治癒する高濃度の炭素を含む水です。

 新商品のキャンペーン特別価格として、

 初回1ヶ月無料です。


 裁判官様の家にも贈り届けてさしあげますわ。

 裁判長様の住所は特定済みなので、

 口頭契約が済めば、すぐに届けさせますわ。


 さらに、初回無料の炭素水を開封した

 時点で強制的に10年契約が

 締結されますので購入し忘れもありません。


 もし商品が気に入らなければ炭素水20年分の

 契約費用を支払うことで途中解約も可能です」



「い……いらないですし、

 意、意味が分からないですね。

 どうぞ、お下がりください」



僧侶の孫、ソーリョはなぜか

無実を勝ち取れたと確信したようで、

深々とお辞儀をして、被告人席に戻る。



「最後に盗賊の孫のトゾーク、証人台の前に。

 生贄の間で王都の人間を百人以上、

 虐殺したことについて、何か釈明はありますか?」



狂人しかいない孫たちに裁判長も免疫

ができたせいか、若干雑な感じで

トゾークを証人台に立たせる。



「ないでヤンス。わいは、勇者召喚の

 儀式を行うために人を拉致して殺した

 だけでヤンス。わいは請け負った

 仕事をしただけでヤンス」


「王都の民の拉致と殺害の罪は認めると?」


「はぁ。まぁ……これでもわい、

 自慢じゃないけど盗賊のボスやってたんで。

 人とかめっちゃ殺したり盗むのが仕事なんで、まぁ。

 

 そりゃ殺しはしたでヤンス。

 それに今回の依頼は王族関係者からの

 依頼だったんで……。責任を問うなら

 そっちも問われるべきでヤンス。


 古代ルーン文字で書かれた正式な契約書を

 での依頼だから超法規的措置で問題ないと

 思って請け負っただけでヤンスがね。

 まぁ、もとより、捕まったら死罪は覚悟

 していたことでヤンス」



「良いでしょう。盗賊は人を殺したり

 盗んだりするのが仕事ですからね。

 そもそも職業といって良いのか微妙では

 ありますが……。


 一応は、職業クラスの一つとして認められている

 範囲の行為であったと。そして、

 違法行為を行ったも自覚していると」


「はぁ。まぁわいはもとより犯罪者なんで……。

 牢獄に閉じ込められている間に、

 わいの私財は元盗賊仲間たちが全部盗んでいって

 一文無しになっちゃったんで、もう

 死刑にされても別に文句を言うつもりはねーです。

 もうわいは疲れたでヤンス」



「分かりました。それではトゾークさん、

 被告人席にお戻り下さい」



裁判長は、全ての被告人の証言を聞き、

荘厳な表現で、二階木づちを打ち鳴らす。


マホーツとソーリョは無罪を確信、

トゾークは死刑を確信、

ショニーンは目の前にバーっと

動くほうき星が見えていた



「それでは判決を申し上げます。

 被告人、ショニーン、マホーツ、

 トゾーク、ソーリョは、死刑です。

 以上を持って閉廷とさせ……」



「裁判長、異議ありっ!!!

 ちょーっと待ったー!!!」



法廷のドアを勢いよく開き、

真紅のマントで全身を覆った

一人の男があらわれる。



「俺は勇者の孫――ユウタ。

 二十年間の自己研鑽引き籠り生活を経て

 今、ここに参上!」



そのマントの下は……

全裸であった。

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