第22話『ダンジョンを破壊せよ!』
ここはダンジョン直上の
高度333メートル地点。
東京タワーと同じ高さである。
ラクイとソフィアはシローの能力
"ハイ・ジャンプ"により生成された
魔法陣の足場に立っていた。
「うおー。ここすっげー高いな……っ!
ここまでくると空気が薄いし風も凄い。
さすがにこの高さは圧倒されるぜ」
「ここから落ちれば楽に死ねそうなのだ」
ラクイは突発的に生じた希死念慮から
魔法陣の足場から片足を空中へ
とび出そうとするがシローも慌てずに
片腕で制止する。
ラクイのいつもの発作のようなものだ。
「それじゃ、シローのたてた
"虫メガネでアリの巣を焼き尽くす作戦"
通りに宝石魔法を展開するなの」
「ソフィア任せたぞ!」
"虫メガネでアリの巣を焼き尽くす作戦"
つまり太陽光によってダンジョンを
超高度から一方的に燃やし尽くす作戦である。
ソフィアは超上位魔法の詠唱を開始する。
「あまたの宝石の精霊たちよ
我が盟約に応じ力を貸したまへ。
メタファライズ・クリスタル」
高度333メートルのソフィアの
直下に100メートル大の
超巨大な真紅の魔法陣が浮かび上がる。
レベル999の魔王のほぼ
全魔力をつぎ込んで発動
させる超上位魔術。
空中に3000を越える
10メートル大の八角形の
ダイヤモンドが浮かび上がる。
その一個辺りのダイヤモンド
のカット数は数万に及ぶ。
完全に物質化したダイヤではなく、
あくまで宝石の精霊に力を借り
一時的に形而下させた宝石を顕現させる。
召喚に近い魔法である。
「シロー。3000個の3メートルの
大きさの巨大ダイヤを空中に
出現させたけどこれで良かったなの?」
「ああ。それで問題無い。
あとは全てのダイヤの八角形の
先端部分をあのダンジョンに向けてくれ」
「了解なの」
「イメージは、ダイヤの中で
太陽の光子を加速、増幅させて
3000個の虫メガネで、
アリの巣を焼き尽くす感じでやれるか?」
「アリの巣を虫メガネで
焼き尽くした事はないけども
イメージは理解したなの」
遮蔽物のない超高度で太陽の光を
受けた5メートル大のダイヤの中で
太陽光が乱反射しダイヤの先端から
超高温になった熱線がダンジョンに
向かって照射される。
一つ一つのダイヤが放つ熱線の
熱量は膨大。さらに
その数は3000個にも及ぶ。
その3000の熱線が
目標に定めるのはダンジョン
のある地表部の一点。
ダイヤの先端から放たれた熱線が
ダンジョンに直撃するやいなや
大地が灼熱の大地に変わる。
ラクレットチーズをバーナーで
炙った時のように地面がチーズの
ようにドロドロに溶け出し、
一瞬で白光を放つマグマと化す。
あらゆる属性に耐性を持つ魔力で
補強されたダンジョンであるが、
地球の中心温度6千度をはるかに
越える1万5千度の超熱量は
「火耐性」等の属性耐性など
ものともしない単純な暴力だ。
「うわぁ、凄いのだ。これは
燃えているというより
ドロドロに溶けているのだ」
「地面が赤……というか
温度のせいか白くなっているな……」
「凄いなの……。ダンジョンがまるで
鍋の中のホワイトシチューのように
ぐらぐらに煮立っているなの」
ショニーンの不思議なダンジョンの
1階層から30階層までが、
わずかの間で溶け落ちた。
更に灼熱のマグマと化した、
白光を放つ液状化した土砂が更に
下の階層に流れこむ。
更に溶けた高温のマグマは、
ダンジョンの床を溶かし、更に
下層部へと溶解しながら無遠慮に突き進む。
すでに第1階層から第50階層までが
上層階から流れ落ちる1万度を
越えるマグマによって溶けさった。
そしてマグマは、第51階層に到達する。
51階層から第60階層の
水中ダンジョンエリアだ。
白光を放つ1万度のマグマが
水中ダンジョンの膨大な量の
水に触れたその瞬間。
――轟音。激震。大爆発。
シローの立つ直上333メートル
地点にも衝撃波が到達するほどの
超巨大な爆発が生じる。
水蒸気爆発である。
超高温のマグマと水が触れた事に
よって生じた超巨大な爆発である。
水中ダンジョンに貯蔵されていた、
超大量の水が1700倍にも
一気に膨れ上がったのだから
タダで済むはずがない。
水蒸気爆発によって生じた
超規模の衝撃波は直上333メートル
地点のシローの元にも到達する。
「土の精霊よ我が仲間を守りたまへ
ジェイル・オブ・ストーン」
ガラス状の球体が三人を包み込み、
水蒸気爆発の衝撃で飛び散ってきた
1万度のマグマを防ぎきる。
「うわー。すごいのだー」
「凄いけど……。
ボク的には臨場感がありすぎて
ちょっと心臓に悪いなの……」
60階層分の溶けたマグマは
水蒸気爆発によって地表へと
噴き散らばり、まるで火山の
噴火のようなありさまであった。
61階層から70階層の超堅牢な
"属性試練の間"は直上で生じた
超大規模爆発の衝撃によって
あとかたもなく砕け散った。
マグマは爆発によって砕かれた
61階層から70階層を通り抜け
更にダンジョンの奥深くに突き進む。
いまやマグマは第85階層
に到達している。ここは、
最強のモンスターが控える
"蠱毒の間"。
ショニーンが魔王や勇者どころか、
"神をも葬れる究極のモンスター"
と豪語していたその言葉は伊達ではない。
そのモンスターは、1万度を越える
マグマの高温に耐えきった。
そして、まるで白光りする
1万度のマグマの中を四足の
ケモノが泳ぎ地表に上がろうとする。
だが"神をも葬れる究極のモンスター"
とは言っても生物である以上
限界はある。
神殺しのモンスターは1万度の
温度にも、水蒸気爆発の衝撃にも
降り注ぐマグマの超重量にも耐えられた。
だが、口や、鼻から流れ込むマグマが
モンスターの気道をふさぎ、完全に
呼吸器が塞がれることによって、
文字通り息絶えた。
マグマは人間の体感速度を
10000倍に加速させ、
無限の時の牢獄に閉じ込め、
冒険者を廃人化させる
85階から94階の"時の試練の間"
をマグマは容赦なく蹂躙し
95階層に到達した。
95階の"鏡写しの間"に
到達したマグマは、"鏡写し"の
効果によってその体積が2倍に
膨れ上がり、ダンジョンには
おさまりきらない膨大な量の
マグマが地表にあふれ出る。
「凄いなの。これは、なんというか
絵本で見た地獄絵図の世界なの」
ダンジョンから溢れだしたマグマに
よって地表は一面、白光を放つ
マグマに覆われていた。
「わー! 地表のマグマから巨人の
手のようなモノが生えてきたのだ~」
ショニーンが第100階層まで
辿り着いた相手に対してぶつける
予定だったダンジョンのゴーレム形態。
だが、ゴーレムというよりは
その姿はもはやナウ○カの溶けかけの
巨神兵のような姿であった。
ダンジョン・ゴーレム(溶けている)
は、ドロドロの体を無理やり
ゴーレムの形状を保とうとする。
「すげぇ……。マグマの中から
ドラゴン○エストの "ようがんまじん" の
超巨大版みたいな手が生えてきた」
どろどろに溶けた巨人は、直上
333メートルの上空に居る
シローたちに向かって
巨大な手を伸ばす。
まともにゴーレムのマグマパンチ
を喰らえば、三人ともただでは済まない。
「冥府の風よ吹きすさべ
ブレス・オブ・コキュートス!」
ソフィアが前面に魔法陣を展開。
青光する魔法陣が浮かび上がり、
次の瞬間にマグマの沼から
伸びてくるゴーレムの手に対して
最強の氷属性魔法が炸裂する。
熱量が高いという状態は分子の
振動が激しい状態であるが、
ソフィアの放った。
"ブレス・オブ・コキュートス"
この魔法は強制的にその分子の
振動を停止させる最強の氷属性魔法。
その冥府の風を受けたマグマの手は
表面が石のように固まるが、
まるで脱皮を繰り返す蛇のように
次々に地表から伸びたゴーレムの腕は、
凝固した体表部分を自ら剥き出し
更に、その腕を伸ばさんとする。
マグマと化したゴーレムの手が
シローを握り潰すまで
あと10メートル。
「あとはラクイさんに任せるのだ。
"打ち出の木づち"よ大きくなるのだ!」
工作用のハンマーと同程度のハンマーが、
100倍の大きさにまで拡大する。
この"打ち出の木づち"はラクイが持てる
範囲であればどこまでも巨大化できる。
今の打ち出の木づちの重量は
1000トンに達していた。
「まだだっ! 更に!
"グラビティー・コントロール"
重力100倍だあっ!!」
シローは、ラクイの持つ
木づちの柄の部分に触れ、
"グラビティー・コントロール"の
能力により重量を100倍に増加させる。
1000トンの重量のその更に100倍……
つまり今のラクイの木づちは、10万トン。
空母と同じ重さである。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
シローは左手でラクイの木づちの
柄を掴み、右腕でソフィアを
抱きかかえたままで、足場の
魔法陣を解除し、重力に任せて
自由落下する。
333メートルの上空まで伸ばした
せいで細くなったゴーレムの手は
まるでクッキーのように砕け散る。
そして、更に地面から伸びた腕の
部分を空母と同じ重量の
木づちがバリバリと破壊していく。
そのままソフィアの魔法によって、
ゴーレムの腕を凝固させながら、
10万トンの木づちはバリバリと
砕きながら、地面に突き進む。
そして、地面と衝突する
10メートル地点で、
ラクイは木づちの巨大化を解除。
シローはグラビティー・コントロール
の重力軽減の能力によって100分の1
まで自身が触れている者の重量を軽減。
着地の衝撃を最小限にまで軽減させる。
「ふう……。さすがは
最後の勇者パーティーの孫、
強敵だったぜ」
ショニーンが祖父の時代から築き上げて
きた100階層の巨大なダンジョンは、
1階層も攻略されることなく、
10万トンの木づちによって
物理的に破壊されたのであった。
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