第20話『最後の勇者パーティーの孫』

ここは王都中央ギルド。

ギルドマスター、ギルダーの執務室。


シローは、僧侶の孫、ソーリョを

打倒した報酬として、ギルダーからの

個人的な依頼達成の報酬として、

多額の金貨を与えられていた。




『ジャ教』

人間族や獣人族を不幸に追い込んだ、

新興宗教は、シロー、ラクイ、

ソフィアの手によって壊滅した。


いまだに少数の信徒はいるとはいえ、

ジャ教の教団の教祖である、

僧侶の孫ソーリョという精神的支柱を失い、


教団本部にいた

幹部が全員死滅したことから、

完全消滅も時間の問題である。



ラクイ家を家庭崩壊に追い込み、不幸の

どん底に叩き落した元凶を倒したことで、

ラクイの表情は以前よりも少し明るく

なったように見えた。



戦闘中にソフィアが負った、

喉と頭頂部の怪我は治癒魔術によって、

遺症などを残すことなく治った。



魔法使いにとって要となる、

声帯を握りつぶされずにすんだのは、

シローの『隷属の首輪』の鉄輪が

声帯部を守っていたからである。



ただ、床に叩きつけられたのが

頭頂部ということもあり、念のためにと、

宿屋で休んでもらっている。



シローも心配で付き添っていたが、

ソフィアに手足の痺れや、記憶の混濁や、

言語障碍などは残っておらず、あとは、

静養すれば良いという状態になっている。


ソフィアのつきそいは、

ラクイが行っている。





ギルドマスターのギルが頭を

かきながら、シローに告げる。



「いやー……。驚いたよ。

 新興宗教団体の調査依頼のつもりが、

 まさかそのまま教団組織を

 壊滅させちまうんだもんなぁ。

 ははは。すげーなお前」



「今回の件は、本当にたまたまだ。

 それに、教祖を倒したのは俺達だが、

 教団組織が壊滅したのは、ソーリョの

 『タリスマン』による全信徒を生贄

 儀式によるものだから、喜ぶべき

 なのかは微妙なところではあるな」



「自分の教団の信者の命さえも、

 平気で生贄にささげるなんて、

 ソーリョとかいう奴は、想像以上に

 とんでもねー奴だったな」



「そうだな」



「それにしてもソフィアちゃんの

 喉は大丈夫か? 戦闘時に

 負傷したって聞いてっけど」



「ソフィアが常に身につけている

 鉄の首輪のおかげで、幸いなことに

 声帯を潰されまでには至らなかった。

 今は念のために、宿屋で静養させている」



「そうか、魔術師にとって、

 声帯は大切だからな。

 大怪我にならなくてよかったな」



「思い切り頭部を地面に叩きつけ

 られたから、どっちというと

 そっちの方が心配だったのだが、

 そっちも大丈夫そうだ」



「脳のダメージは外から見えないからな

 いずれにせよ、ソフィアちゃんが

 大事にならなくてよかったよ」



シローもソフィアに可能な限り

付き添っていたいと思って

いるため、ギルダーには

短時間で面会が終わるように

お願いしていた。



「それにしても……。

 また勇者パーティーの孫か。

 これで、だ」



……? 

 3人じゃなくてか」


「ああ、4人だ。4人のうちの1人は、

 追い剥ぎか何かにやられた。

 だからシローが知らなくても無理はねぇ」



ギルダーは答える。



「すまないが、認識違いがないように、

 その4人の名前を挙げてくれないか?」



「まず、戦士の孫、センシー。

 マヨネーズ密造組織のドン、

 お前が倒した相手だ」


「センシー……最後だけは、

 悪としての矜持を見せた男だな」



「二人目は、魔法使いの孫、マホーツ

 黒色火薬の流通と、希少鉱石の

 盗掘を繰り返してきた組織の独裁者。

 今も元気にこの中央本部の

 地下牢で毎日奇声を発している」


「マホーツ……。

 とにかく声がうるさい女だった」



「三人目は、僧侶の孫、ソーリョ

 怪しい宗教を王都に広め、

 不法就労、詐欺商法その他

 多くの犯罪行為を行っていた教祖。

 今は、白髪の老婆になってベット

 でうわ言しか話せなくなっている」


「おい、ギル。俺が知っているのは、

 ここまでだぞ? 他にも

 勇者パーティーの孫なんていたか?」



「ああ。だが、最後の一人は、

 お前が知らなくても不思議ではない

 お前の手を借りるまでもなく、

 そこらの追い剥ぎに身ぐるみ

 剥がされた間抜けなヤローだからな」



「なるほど。続けてくれ」




「四人目は、盗賊の孫、トゾーク。

 こいつは、新たな勇者を召喚する

 ために生贄召喚の洞窟に向かった

 らしいんだが、勇者召喚に使う

 タリスマンはおろか、全財産と

 身ぐるみを剥がされた間抜けだ」



(……ああ、それって俺達のことだな。

 勇者召喚自体は成功していること

 は知られていないのか)


「どんな奴に襲われたんだ?」



「言ってることが支離滅裂なんだが、

 『ほぼ全裸の痴女風奴隷幼女と、

 勇者が襲ってきた』とかなんとか

 自白している……意味不明だ」



「かわいそうにな……。心の病気か」



「プライドの高い、盗賊の孫がそこらの

 野盗風情に、追い剥ぎをされたことで、

 心が壊れてしまったのかもしれないな。


 当初は、ヤツの虚言癖の可能性も疑ったが、

 軽めの拷……『尋問』をしても

 首尾一貫して主張しているあたり、

 今は深刻な精神の病の可能性を疑っている」



「トゾークは、追い剥ぎに取られた分以外に、

 王都に隠し持っていた財産とかは

 どうなったんだ?」



「……これはさすがに少し同情

 するんだが、王都に隠していた

 隠し財産はトゾークが療養中で動けない

 間にすべて盗まれちまった」



「盗賊が、自分の財宝を盗まれる

 とはコレ以上に間抜けなことはないな」


「しかも盗んでいったのは、元盗賊団の

 仲間達だって話だ。そいつらは、

 財産を盗んで王都をバックレちまった

 らしい。所詮は盗賊同士の寄せ集め

 でしかなかったつーわけだな」



「盗賊同士の仲なんて、はかないもんだな」



少し寂しそうにギルダーは語る。

盗賊団ほど、仲間同士の信頼が

希薄な集団もないだろう。



「トゾークは唯一、まともに話せる相手と期待

 していたんだがなぁ……残念ながら

 現実と虚構の違いがつかなくなったようで、

 脳内で、裸の幼女や勇者様たちと戯れているようだ。

 悲惨な末路だなああはなりたくないよ、俺は」



(ソフィアと俺の事だからトゾークは

 嘘はついてないんだけど……。

 まぁ、殺しにきてたし自業自得だな)



「裸の幼女の魔王と、勇者か……

 ショックで脳が幼児化してしま

 っているのかもしれないな」



ギルダーはため息をついた後に、

首をふりながら語る。



「随分と幼稚な妄想だよ。

 おまけに、妄想の中ですら、

 裸の幼女を想像するというのだから

 致命的なロリコンだ……」



「勇者パーティーの孫とあろうものが、

 脳内ロリに逃避するとは、哀れな奴だな」



「全くだ盗賊団のボスともあろう者が

 野盗風情に追い剥ぎされちまうわ、

 全財産仲間に盗まれるわで、アイツは

 終わりだな。致命的ロリコンだしな」



「そうだな。ギルの言う通り、

 ロリコン死すべしだ!」



シローは最後の言葉だけは、

断腸の思いで話をあわせるのであった。



「ところで、勇者の孫っていうのは、

 何人いるんだ?」



「5人だ。シロー達のおかげで、

 あと1人だ。禁忌の存在として、

 ほぼ治外法権で、いままでは

 何をしても許される存在だったんだが、

 さすがに、5人中4人もこのありさま、

 

 貴族の勇者の孫派のも、トカゲの

 尻尾切りのように責任逃れを

 しようとするやつらがでて

 きているありさまだ。ギルドも

 最後の一人を追い詰めようと」



「最後の一人は、何の孫なんだ?」



「王都の闇の全て司るもの。

 商人の孫だ……」



「そいつは今、どこにいる?」



「商人の孫、ショニーンは

 非常に用心深い奴だ。


 自身で築いた100層にも及ぶ

 超難易度のダンジョンの最下層に

 逃げ込んでいるらしい。


 現在、ギルドではなく

 王都の精鋭部隊たちが、

 商人の孫ショニーンを討伐すべく、

 向かっていると聞くぜ」



シローはギルダーの

言葉を聞き指示をする



「今すぐ、洞窟に向かわせている

 兵の進軍を止めさせてくれ

 俺には100階層のダンジョンを

 攻略するための策がある!」

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