第18話『武器無効の拳闘士と最速の冒険者』

「カルトあの3人を殺りなさいっ!」



「教祖様の御意のままに」



教団の教祖、ソーリョはカルトの

背後に隠れ、強化魔法の詠唱を開始する。


治癒術に特化したソーリョの代わりに

前線で戦うのは、教団の幹部である

カルトの仕事である。



「我が守り手たるカルトに女神の加護を!

 リジェネレイト! 超リジェネレイト!

 パワー・ライズ! 超パワー・ライズ!

 アーマー・ゲイン! 超アーマー・ゲイン!」



通常強化魔法と、上位強化魔法と、

継続治癒魔法の重ねがけ。

今のカルトの力は数倍に跳ね上がっている。


『治癒術禁止医療法』を啓蒙を行っている、

教祖様が自らその掟を破る。さっそく、

自身の定めた教義を守るきはさらさら無いようだ。



カルト直下の部屋の床に

緑、赤、黄色の魔法陣が浮かび上がり、

カルトは光に包まれる。



「ふふ。力がみなぎるわぁ!

 まずは……この有り余る力

 お兄ちゃんでためしてみて

 あげようかしらぁ?!」



カルトは、シローに向かって

大振りに右拳を振るう。



「グラビティー・コントロール

 自重10倍っ!」



シローはアダマンタイト製の

短剣の鞘をカルトの拳の

軌道上に配置、攻撃をしのぐ。


シローは、自重を10倍に

しているにも関わらず、

その衝撃で後ろずさる。



「お兄ちゃん、なかなか

 遊びごたえあるわねぇ?

 殺しちゃうにはちょっと

 もったいないくらいだわ……」



ラクイは、シローに気を取られている、

カルトの後ろから杵の大きさまで

巨大化せた"打ち出の木づち"を

カルトの脇腹目掛けて、横薙ぎに振るう。



まるで石壁を打ち付けたような轟音。

インパクト時の衝撃波により、

部屋の大気が揺れる。



いかに、強化魔法を重ね

がけされていたとはいえ、

ノーガードの脇腹をラクイの腕力で

木づちを振るわれて生き残れる者は居ない。



「無駄だわぁ……無駄なのよ……

 無駄にゃ……無駄ですわよ……

 無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」



だが、何故か効果がない。



「こいつ……。硬すぎるっ!

 ソフィア何か策はあるか?」



「解析中なの……。シロー。少なくとも、

 あのカルトという女の持つ条理を

 超えた理不尽な防御力は加護……なの。


 解析に少し時間が必要、シロー暫く

 時間を稼ぎを頼みたいなの!」



「へっ。任せとけ! あの"お姉ちゃん"

 には、さんざん王都でトラウマ

 植えつけられてるんだ、

 

 解析が終わるまえにぶっ倒しちまう

 かもしれねぇが! その時はごめんよ!」



両手にアダマンタイト製の鞘に

納めた状態で剣を振るう。

カルトは、この攻撃を避ける。



(おかしい……ラクイさんの攻撃を

 ノーガードで防いだカルトが、

 なぜ今のおれの攻撃を避けた?)



「お兄ちゃん、剣に鞘をつけたままで

 戦おうなんて私を舐めているのかなぁ?


 それとも、私が女だから手抜きをして

 いるってことなのかしらぁ?」



カルトは何を思ったのか、

自分のドレスの胸元を握りしめ、

怪力でビリビリとドレスの上着

を引き裂き、上半身があらわになる。


白い透き通るような絹のような肌。

胸こそは無いが腰のくびれは、

はっきりとしていた。

腕は女性のように細い。



「くくく。お兄ちゃん、

 残ねぇんでしたぁ……!」 

 私、実は男の娘なのっ!

 騙して、ごめんね☆」




「ふっ。カルトよ、お前に

 一言だけ言っておく。

 お前は、何も分かっていない……」



「……なにを世迷い言を

 それがあなたの辞世の句というなら

 聞いてあげないでもないかしらぁ?」



「もう一度繰り返す。

 お前は……何も分かっていない!!


 女の子のようにツルツルのお肌で

 細身の男が、女装するという

 のはだなぁ……。


 それは、減点要素ではなく、

 むしろ……加点要素だっ!!!


 それはむしろ、

 ご褒美だらあああああああっ!!!」



シローは、叫び終わるや否や、

下方から上方へ向かって

短剣の鞘を切り上げる。


上半身があらわになった

カルトは、自身の細腕で

鋼鉄の鞘の一閃を防ぐ。



「シロー。解析は完了。このカルトの持つ

 加護がわかったわっ! その女の加護は


 『武器無効化』


 あらゆる武器を拒絶する能力。その代償として、

 自身も武器とカテゴライズされる物を

 装備できないという呪いと紙一重の能力なの」



「俺の鞘と、靴は、『武器』

 カテゴライズされていない

 という認識なんだがそれであっているか?」



「正解なの。アクセサリーと防具のカテゴリーなの。

 あのカルトが、最初の一撃を避けた

 理由は、それが武器ではなかったからなの!

 

(でもどうして……ただの一般人である

 カルトが、加護なんて力を持っているなの?)



「んじゃあ反撃だ。あいにく俺は力が弱いんでな。

 数で勝負させてもらうぜぇ!

 グラビティ・コントロール。自重10分の1」



筋力を維持した状態で、自重を10分の1に

することということは一発当たりの

速度は速くなるが、ヒット時のインパクトは

単純計算で10分の1。ジャブのようなものである。



「くっ……こいつ! 速いっ!!」



カルトの放つ、大振りなフックや

ストレートをシローは軽くいなし、

鞘で、カルトの全身を打ち付ける。



「カルト、雑魚相手に手間取っているのかしら?

 少し、遊び過ぎよ。


 グレーター・リジェネレイト!

 グレーター・エンパワーメント!

 グレーター・プロテクション!


 さあ、あのちょこまかと動く

 男を仕留めなさい!」



全身を鞘でブチのめすも、上位継続治癒魔法

『グレーター・リジェネレイト』の効果で

致命打を与えるには至らない……。


カルトの放つアイアンクローが、シローの

頭部へ伸びる。女性のような細腕にも

関わらず常軌を逸した握力。



(……なんて握力だ。はずせねぇ!)



シローも既にレベル200を超える。

スキルポイント素速さ全振りとはいえ、

基礎的なステータスも相当な基準まで

鍛え上げられているのである。


だが、その全力のシローの両手の力よりも、

このカルトという女の片腕の力が

勝っているということである。



シローをアイアンクローで吊るすという

動作でカルトに一瞬のスキが生まれる。


背後かろからラクイが近づく気配を、

カルトも感じていたが、『武器無効化』

の加護を持つ自分には恐るに足らぬと

判断した。



「無駄だわ。アライグマさん。

 私には攻撃が効かないの。

 獣人の知能で分かるかしら?」



「やってみなけりゃ分からないのだ。

 アライグマ殺法・伍の構え発頸はっけいなのだ」


ラクイの発勁が最大効果を

発揮するのは零距離。

当たれば、その手のひらは

鎧越しでも中の人間を破壊する。


踏み込んだラクイの脚が床を、

雷鳴のように打ち鳴らし、

繰りだされた肉球の手のひらが、

カルトの背中に直撃する。


アライグマ殺法・伍の構え

発頸はっけいの一撃。


もはやカルトの体内部で爆弾が

炸裂したも同等の破壊力だった。


発勁の衝撃によって吹き飛ばされた

カルトの身体は宙を舞い、

部屋の壁にしたたかに叩きつけられる。


勢いのまま宙を舞うカルトに、

受け身など望むべくもない。


ラクイは一撃で背面を通しカルトの

臓腑を破壊した。


確実な手応えを感じ取りながら、

ラクイはゆっくりと呼吸し、残心。



死を思うのだメメント・モリ



部屋の壁に叩きつけられたカルトは、

口から血反吐を撒き散ら

しながら、不敵に笑う。



「私……もうダメみたい。

 あとは『姉さん』が頑張って……」



カルトはラクイに一矢報いるためか、

不敵に笑いながら、手刀を構える。


否――。その手刀を自身の胸に突き刺す。

あまりに不可解な行動に、

3人は唖然とする。


カルトからおびただしい

量の鮮血が溢れ出す。



自分の体内に侵入したその手を

グチャグチャとまさぐり、自身の

内部から鈍い銀色に光る、

円形の物体を取り出し、それを



後方に待機している、

自身の実の『姉』である

ソーリョに投げつける。



「はは……私の役目は、ここでオシマイ。

 姉さん、あとは頼ん……っ」



そこでカルトの言葉は途絶えた。



ソーリョは、激昂するとでもなく、

発狂するとでもなく、カルトが

体内から取り出した血塗れの

『タリスマン』と床に横たわる、

自分の血の分けた弟であるカルト

を見下ろしながら、呟く。



「ふふふ。あなた達、僧侶の孫で私、

 ソーリョと、その弟カルトに対して

 随分とやってくれましてね……。

 

 私は預言しましょう。

 あなた達は、これから神罰の恐ろしさ

 というものを身をもって知ることに

 なるでしょう。

 

 もっとも、私の最強の治癒魔法で

 簡単に死なせてなんてあげる

 つもりはありませんので、その

 覚悟はなさっていてくださいね」

 


そういうと、カルトの血にまみれた

500円玉硬貨大の円形のコインを

口に含み、まるでコインチョコを

噛み砕くように奥歯で砕いた。



「さあ、ここから先が本当の地獄です。

 もうあなたたちに、救済はありません」



まるで、巨大な教会を取り囲むように

金色の魔法陣が浮かび上がろうとしていた。

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