第17話『怒りのアライグマとジャ教の教祖』

シローとソフィアとラクイの3人は、

王都で流行りの新興宗教団体『ジャ教』

の集会に参加していた。


新興宗教団体というには施設は非常に

巨大で、中央ギルドよりも儲かっている

ことを感じさせる施設であった。



3人は、集会に参加し教祖からの

説法を聞いている。今まさに、

説法もクライマックスに入ろうとしていた。



ソフィアは、説法の邪魔にならないよう、

小声でシローの耳元で話す。



「ここが、ギルドマスターの

 言っていた、王都を蝕む闇、

 新興宗教団体なの?」



シローはソフィアの耳元で、

ささやき返す。



「確信がないが、その可能性は高い。

 これだけ大きな施設を持つ、宗教団体は、

 王都にはそう無いはずだ」



祭壇に立つのはいかにも

聖職者といった風貌の教祖。


パット見は、教祖というよりも

シスターに近いだろう。


ソーリョは30代後半の

女性だが、その年齢をを

感じさせないくらいに若い。


シミひとつのない透明な肌と

金色の髪、その姿は20代前半。



……処女である。



このシスター風の女性は

教団の教祖であり、教団のシンボルである。


なお……信徒たちの間では、教祖の

年齢に触れることは暗黙の了解

で禁じられている。


うっかり口にした者は、神隠しに

あってしまうという噂もある。




教祖は、壇上での説法を終えると、

直接シローのもとに歩いてきて、

別室で、教団について紹介したい

と声をかけてくる。


教祖の隣には、先日シローを勧誘した

カルトという女も同行していた。




シローとラクイとソフィアの

三人は、教祖の後ろについていき

別室にたどり着く。



教祖に案内されて入った部屋は、

いたるところに、金や銀で作られた

オブジェが飾られている絢爛豪華であった。


ギルド中央本部の応接室と比べても

はるかに儲かっているであろうことが

ひと目で分かる部屋である。



「これはこれは、よくもいらっしゃいました。

 シロー様。あなたのことは、教団幹部の

 カルトから直接きいておりますわ」



教祖と名乗るの女性の隣には、先日

シローをあの手この手でこの教団の

集会に参加させるように仕向けてきた

カルトと呼ばれる少女も同席している。



(あんの……電波女。ここの

 教団の幹部だったのかよ)



「シロー様は平民の身にも関わらず、

 教団が開発した特性の"酸素水"を

 その場で金貨3枚で購入して

 くれたと伺っております。


 シロー様は、随分とお金を

 お持ちなのですね。それだけの

 程度の金額をポンッと出せる人は

 なかなかいませんから」



にこやかに微笑みながら、

教祖の女性は告げる。



「いや、俺はただの冒険者です。

 手持ちが多いのは報酬の多い

 クエストをクリアして、たまたま

 懐が温まっていただけで、

 決して金持ちではありません」



クエストからの報酬で懐が温まっている

のは間違いないが、手持ちの金貨の総額

だけで比較するなら、シローは既に

王都の大貴族と匹敵するほどの

金貨を保有している。




「いえいえ、シロー様ご謙遜を……。

 つまりは高難易度をクリアできるほどの

 能力があるということはこれから、

 たくさん金貨をお布施できるだけの

 能力がおありということですので

 今、手持ちがなくても『奉仕』で

 金貨を稼ぐという方法でも許しましょう」



(なんだ……このババ……お姉さん。

 しれっとお布施前提で話進めてんぞ

 何が許すだ。ハゲ)



シローは声に出さずに

心で毒づいた。

なお、教祖はハゲではない。



「えっと。わざわざ別室まで呼んで

 もらって申し訳ないのですが、

 俺たち3人、教団の入信する

 つもりはないので」



シローは、毅然として態度で断る。

そうすると、教祖は頭を抱えながら、

シローに向かって語りだす。



「実を言うと、シロー様。

 ……あなたはもうダメです。

 突然こんなこと言ってごめんなさい。

 でも本当です。3週間後に

 ものすごく激ししい下血があります。

 それが終わりの合図です……」



「下血? いや、特にそんな

 前兆まったくないのですが?!」



シローの言葉を首を横に振る

ことで否定し、言葉を続ける。



「ほどなくして大きめの

 耳鳴りがきて、それがやんだら、

 少しだけ間をおいて、

 終わりがきます」



(……頭がおかしくなりそうだ)



「このままだと、3週間以内……

 または3週間以降にあなた

 は死にます。これは絶対に

 不変の確定した真実です。」



(とりあえず、話をあわせよう)


「どうやったら、俺が生き残る

 ことができるんですか、

 教祖様教えてください」



「あなたが生き延びる方法が

 一つだけあります。それは、

 あなたが持つ金貨、および

 全ての財産を教会に寄付する

 ことです。


 そうすることによって、

 あなたの前世の業と罪は

 すべて祓われ、生き延びる

 ことができるでしょう」



(前世の業とか微妙に俺に

 刺さること言いやがる)



「俺の前世の業と、私財を

 すべて教団に寄付することと

 何か関係があるんすか?」



「はい」



(ノータイムで断言するのか

 凄いな、さす教祖)



「シロー様、あなたが持っている財産は、

 すべて汚れています。あなたが

 不幸な理由は、すべてその汚れ

 た財産のせいです。


 その財産を捨てない限り、

 新しいステージに次元上昇する

 ことはできません、アセンション

 には必要なことです。今すぐに、

 チャクラを解放してください」




「ステージ……次元上昇……?

 それって、えーっと……

 それはつまり、ファルシの

 ルシがコクーンでパージって

 いうことでしょうかね?」



教祖は『ファルシのルシが

コクーンでパージ』の意味は

知らないだろうが、あたかも

当然知っているかのような

体で話を続ける。さすがは教祖である。



「はい。そういった言い方も

 ありますね。簡単に言うと、

 俗世との縁を切り、

 精神の次元を上昇させる、

 ということです」



「あーっと。なるほど、はは……。

 次元を上昇、確かに重要ですね。

 ちなみに、教徒の皆様は普段は

 どんな活動を行っているんですか?

 その……次元を上昇させるために」



「そうですね、教団の活動は多岐に

 渡るので説明が難しいのですが、

 まず代表的なものから説明しましょう」



「よろしくお願いします」



「信徒達は、世界をよりよくするための

 商品の開発と普及に励んでおります」



「例えば、どんな商品でしょうか?」



「数え切れないほどあるのですが、

 一例をあげるなら、先日シロー様が

 ご購入いただいた"酸素水"です。


 教団特性の超高濃度の酸素水を飲むことで、

 酸素が体のすみずみまでに行き渡り、

 細胞を活性化し、活力を与えることで、

 あらゆる病と呪いから避けることが

 可能になります。


 よそが作った類似品

 もありますが、超高濃度の酸素を含んだ

 高濃度酸素水を販売しているのは

 当教団のみです」




(……なんか芸能人がやたらステマを

 していた商品でも同じのが

 転生前の世界でもあったような……

 うーん。気のせいかな?)




「他には、重力エネルギーを注いだ

 "超重力野菜"や、教団の信徒からの

 『ありがとう』という感謝の言葉を

 24時間365日聞きながら育てた

 "ありがとう茶"などを販売しております」




(効果はともかくとして、24時間365日

 野菜に向かって『ありがとう』と言わされ

 続ける、信者さん、かわいそうだなぁ……

 どんなブラック労働だよ……)




「他には、治癒術という体の免疫力を

 下げさせるような外法を一切使わせず、

 人間が本来持つ免疫力を活性化させる、

 "治癒術禁止療法"という、

 正しい医療法を普及させています」




(ワクチンを打たない民間療法かな?

 この世界で治癒術禁止とか、

 どんな縛りプレーだよ)




「このように、素晴らしい活動を

 世界により一層普及させるために

 私共は活動を行っているのですが、

 世界に"愛"を広めるためにはどうしても、

 金貨が必要なのです。


 シロー様は当然ながら、教祖の

 私が自ら貴重な時間をさいて

 お話したこの感動的な話を聞いて、

 全財産を私共に寄付してくれたく

 なったと思いますので、この

 紙に署名をお願いします」



教祖はそうシローに告げ、

胸元の谷間から契約書を

取り出す。



ご丁寧に、シローの分だけ

でなく、ソフィアと

ラクイの分の契約書

まで持ってきていた。




「黙って聞いていれば……教祖、

 お前は万死に値するクズなのだ」



ずっと黙って聞いていると思った

ラクイが大声を張り上げ、

目の前の教祖に向かって叫ぶ。


魔法使いの孫マホーツに対して

怒った時より明らかなに

強い憤りであることが

語調で分かった。


ソフィアはラクイの声で、

ガタリと目を覚ます。


隣で、ずっと腕を組んで

眉間にシワを寄せながら

難しい顔をしながら聞いていると

思ったが、ソフィアは

ただ寝ているだけだった。



「おい! そこのケモノ。

 教祖様に向かってその

 無礼ただじゃおかないわよ」



教団の幹部兼、教祖のボディーガード

のカルトは、ラクイに向かって

殺意をぶつける。



それに臆せず、ラクイは

言葉を続ける。



「ラクイさんの家庭が崩壊した

 きっかけはママイさんがお前たちの

 売り出した"酸素水"を買うように

 なったのがきっかけだったのだ!」



「良いことじゃない! 

 健康になってお前の母さんも

 きーっと喜んでたと思うわ☆」



カルトが語調を強めて否定する。



「そのあとに、ラクイさんのパパイさんが、

 高額な値段のする重力野菜にはまって

 家計が苦しくなったのだ。『値段は高い

 けどモノは良い』とか『感謝の波動を感じる』

 意味不明なことをほざき始めて、浪費が

 止まらなくなってしまったのだ」



「酸素水に重力野菜、何が悪い!

 値段は高いけど良いモノだわ☆」




「結果として破産した一家は、

 ママイさんが、人間族相手に"もふもふ"

 の仕事で金を稼がなきゃいけなくなって、


 パパイさんは、"重力野菜"を買うために

 職場の金を横領して無職になり、

 ラクイさんの家は完全に冷めきった、

 仮面夫婦になってしまたのだ!

 全部おまえたちのせいのだ!!」



「それは、きっと"感謝の波動"と

 "酸素水"の量が足りなかったん

 だと思うわ。もっと買っていれば

 きっと違う結果になったと思うわ」



「御託は聞き飽きたのだ! 

 ラクイさんは、お前たちの怪しげな

 『治癒術禁止医療』とやらの影響で、

 高熱出しても怪我をしても治癒術を

 一切使わせてもらえなかったのだ、

 すべてお前が悪いのだ。天誅のだっ!!!」



ラクイさんは木づちを、杵と同じ

大きさに巨大化して教祖に

向かって振り下ろす。



その木づちを右手だけで受け止めるカルト。

怪力のラクイの一撃を涼しげに受け止める。


ラクイの力に対抗できる人間は世界でも

数えられるほど。おそらく、カルトは

力ではなく、何らかの能力を使っている。



「よくやったわ、カルト。

 残念……これで、交渉は決裂よ……」



教祖は、椅子から立ち上がり、

立ち上がり名乗りをあげる。



「あなたたちは、この私、

 勇者パーティーの『僧侶の孫』、


 ソーリョ様が直々に相手をして

 差し上げるわ。

 

 あなたたちの肉塊で、重力野菜を

 作って肥料にしてあげて

 ご両親にお届けしてあげるわ。


 さぁ……感謝の時間の始まりよっ!!」

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