第16話『ジャ教の洗礼!』

シローは、ギルドマスター

ギルダーとの面会の帰り道に、

考えごとをしながら王都の

大通りの道を歩いていた。



「あー! ひさしぶりー! 

 私のこと覚えてる?!」



シローは、まったく見知らぬ

女性に声をかけられた。


年は20歳くらい。

身長165cmの

黒髪ショートの女性である。



「人違いですよ」



「ほら?! 子供のころ一緒に

 遊んでもらったカルトよ。

 もしかしてもう私のこと忘れちゃった?」



うるうると潤んだ瞳で

見つめてくるカルトと

名乗る少女。



(いや、誰だよ……。つーか俺、

 つい最近異世界に転生

 してきたばっかなのだが?)



「人違いですよ。他人の空似です。

 俺、王都にきたのつい最近なので」



数秒のあいだ、カルトを名乗る

女性は能面のような表情に

なったと思ったら、言葉を続ける。



「嘘をついてごめんなさいっ!

 実は、あなたが……私の生き別れの

 お兄ちゃんにあまりに似ていたので……。


 これは運命だと思います。いいえ、

 絶対に運命です! 私、あなたのこと、

 お兄ちゃんって呼んでいいですか?

 いいですよね? お兄ちゃん☆」



「え……っ。まぁ、減るものじゃ

 ないので、いいですけど

 好きに呼んでください」



「お兄ちゃん。だ~いすきっ☆」



(お兄ちゃん……強化人間かな?)



カルトと名乗る少女は、

突然、シローの右腕に抱きつく。



(おお……右腕の上腕部に胸の感触が。

 つーか。それはともかくとして、

 意外に力強いな……。容易に抜け出せないぞ。

 これ……関節技かな……キメられちゃってる?)



「お兄ちゃん。私、行ってみたいカフェが

 あるんだけど、一緒にきてくれるかな?」



「えっと。今日は用事があるので

 またの機会に。ではっ!」



「お兄ちゃん。私、行ってみたいカフェが

 あるんだけど、一緒にきてくれるかな?」



「はい……」



シローは、右腕の関節を完全に

キメられた状態で、カルトと名乗る

少女に連れられてカフェに連行され、

カフェの敷居をくぐる。



「いらっしゃいませー。お二人様ですね。

 どうそこちらの席でおくつろぎください」



カフェの店員がテーブル席に

シローとカルトを案内する。


断るタイミングを逃し、カフェの

椅子に座るシロー。



(完全に相手のペースだ……。そろそろ

 ここらで、ガツン! と思い切って

 言ってやらないとな!)



「あのっ――」



「店員さん! ホットコーヒーを

 2つお願いします」



シローは言葉を遮られてしまった。

しかも、注文も勝手に頼まれてしまった。


本当は、オレンジジュースが飲みたい

気分のシローなのであった。



「そういえば、カルトさん……だったかな

 君は、お兄さんがご存命中には、

 このカフェによくきてたのかな?

 俺が、お兄せんに似ていると言ってた

 けど、その辺りの話を聞かせてくれるかい?」



「えっ? ああっ! そういう

 話はどうでもいいの。

 はい、その話はおしまい。おしまい」



「ああっ……そっすか……」



「ところで、そんなどうでも良い話より?

 お兄ちゃんは、毎朝お祈りしてる?」



「お祈りって?」



「神様へのお祈りにきまってるでしょ?

 お祈りしている?」



(……嘘でも、お祈りしているって

 言った方が面倒にならない感じだな。

 ここはあえて相手のペースに合わせよう)



「お祈りしているよ……毎朝」



カルトと名乗る少女は

うんうんとうなずく。



「だからだよ。お兄ちゃんは誤った

 蛮族の悪魔に祈りを捧げているから、

 呪われているんだよ。ほら、肩のあたり

 に黒い影が見えるもん。なんかドロドロの

 液をたらした、悪魔が見えるもん。

 お兄ちゃん、試しに手相を見せてみて」



シローは、黙って右手を差し出す。

カルトと名乗る女性はその右手首を

グイっと掴んで手相を見つめる。



「あー……。やっぱり私の思った通りだ。

 お兄ちゃん、このままだとあと、

 3ヶ月後に死ぬよ。神様は悪魔を

 信じるお兄ちゃんのことを許さないって。

 このままだとお兄ちゃん死んじゃうよ?

 八つ裂きにされて殺されちゃうよ?!」



「ははは。物騒だなぁ。ところで、

 もうちょっと明るい話しないか?

 カルトさんのお兄さんと

 俺のどこが似ていたのか、聞きたい

 かなぁ……っなんてね。ははは」



カルトは、無言でテーブルをドンッと

両手をグーにして叩きつける。

表情が能面のように冷たくなる。



(ひっ……。怖い)



数秒ののちに、

カルトは我にかえったのか、

にこにこ笑顔をしながら言葉を続ける。



「ごめんね。今、テーブルに

 蚊が二匹いたから、お兄ちゃんが

 刺される前に私が殺してあげたよ!」



「ああ。そうか、ありがとうね

 カルトさん……。ははっ」



「どういたしまして! ところで、

 3ヶ月後にお兄ちゃんが死ぬ件

 なんだけど、その話の続きをしよっ!」



「えっと、ところで3ヶ月後に

 俺はなんで死ぬのかな?

 とくに心当たりはないんだけどな……」



「それはお兄ちゃんが、悪魔を崇拝する

 蛮族の邪教徒だからだよ! お兄ちゃんは

 神の裁きによって、地面に血反吐を

 撒き散らしながら苦しんで死ぬよっ!」



「俺は邪教徒じゃないよ。仏教徒だよ。

 世界的に有名なメジャーな宗教だよ?」



「『ブッ教』? なにそれ……? 

 『ブッ』教とか。さすがにお下品よ。

 あー。これだから蛮族はっプークスクス……。

 これだから王都外の未開人は。クスクス

 あっ、いまのは冗談ね! お兄ちゃん!


 やっぱりお兄ちゃんは王都外の

 未開な部族の出身だから、怪しげな宗教に

 はまっちゃうんだね? やっぱり、

 お兄ちゃんは生贄のヤギの前で

 おちんちんに変なケースをつけて

 槍を持って裸で踊ったりしているのかな?」



「いや、そんな変なことはしないよ。

 するのは、墓参りとかしているくらいだよ。

 あと、いなかの実家には仏壇があったかな」



「なるほど、なるほど。お墓の前で

 ヤギの生き血を飲みながら

 リンボーダンスを踊るんだ!

 さす未開蛮族っ!!」



「はは……っそう、ですね」



「ほら、やっぱり! そんな未開で

 蛮族で汚れたお兄ちゃんにも、

 正しい神を祈る機会が訪れました!」



「いや……っ」



「訪れました!」



「……はい」



「その方法を知りたいですか?」



「……はい」



「特別に教えてあげましょう!

 まず、お兄ちゃんの"字相"

 を見たいので、この紙に

  お兄ちゃんの名前を書いてね☆」



「すみません……"字相"ってなんですか?」



「書いてね☆」



「はい」


シローは、朦朧とした意識の中、

カルトの差し出した紙に名前を書く。



「はい。よくできました!

 それじゃあ次にこの

 ガラスの小瓶に入った、

 聖なる水を飲んで下さい」



「コーヒー飲んだばかりなので、

 お腹いっぱいなので。ちょっと」



「お兄ちゃんの!

 ちょっと良いとこみてみたい!

 それイッキイッキ!」



ガラス瓶のフタを開けて、

ゴクリゴクリと中身を飲み干す。



(……なんだよこれ。タダの水じゃん

 まあこれで、解放してくれるなら

 よしとするか……トホホ……)



「はい飲んだ! お兄ちゃん金貨3枚!」



「えっ?! いま何つった?!」



「金・貨・3・枚」



「なっ……なんで俺が金貨3枚も

 払わなきゃいけないんだ?!

 さすがにそれはおかしいだろっ!!」



「お兄ちゃん泥棒なの? さっき契約書に

 このガラス瓶のお水を飲んだら、

 金貨3枚支払いますって署名したじゃない?

 お兄ちゃんは未開で野蛮なヌスット?!」



シローは、カルトという女が

手にもっている紙を凝視する。



「あっ。ほんまや……

 書いとるなぁ……あはは」



よく目を凝らして見ないと、

見えない薄くて小さい文字でびっちりと、

販売契約書の約款が書かれていた。



シローは契約書に署名したのは事実

なので、粛々と金貨3枚を支払う。



「はい。よくできましたっ!」



「それじゃ……。俺、もう帰ります……ね?

 もう聖なる水飲んだので大丈夫なので。

 ほんと俺、もう大丈夫なので、はい……」



「お兄ちゃん! こんど若者に人気、

 王都のイケてる人気者たちはみんな

 入信している『ジャ教』の集会に

 招待してあげるね! 参加しないと

 体が爆発して死んじゃうんだからっ!」



そういって、カルトを名乗る

少女は一枚のビラをわたす。


そのビラには『ジャ教』の

集会が催される、日時と

場所が書かれていた。

参加費は……無料。



「必ず、あなたのお友達を2人以上

 連れて遊びにきてね! そうしないと

 あなただけじゃなく親族や、友達が

 全身から血を噴きながら死んじゃう

 から!! 絶対だよっ!!」



そう言い残して、カルトは席をたち、

カフェをそのまま出ていった。



二人分のコーヒー代を会計で

シローが支払う時に死に

たくなったのは言うまでもない。

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