第15話『アダマンタイト装備を手にいれた!』

「おう、お疲れ様。シロー!

 超大手柄じゃねぇか!!」


ここは、ヤルダバ王都の

中央ギルド本部の最上階。

ギルドマスター、ギルダーの部屋である。


今日、この部屋に呼ばれたのは

シローだけである。


ソフィアは、ラクイに王都の

街並みを案内するため、

ガイド役としてでかけている。



「久しぶりだ、ギル」



シローは答える。

ギルダーからの要望もあり、

二人の間では、友人同士

のような気軽な話し方で



ギルドマスターのギルダーは、

2メートルを越える巨大な体躯、

ソファーに沈め、言葉を続ける。



「永世中立地帯メメントの森でのクエスト、

 よくやってくれたな! まずは、今回の

 報酬として金貨500枚だ。今回の功績を

 考えれば、本来は金貨1000枚でも

 足りないくらいなんだが、あくまでも

 俺のポケットマネーから支払う闇クエスト。

 すくねぇかもしれないが我慢してくれ……」



「いや十分だ。ありがとう、ギル

 大切に使わせてもらう」



ギルダーは申し訳なさそうにしているが、

金貨500枚は、王都の一等地に豪邸を

10件ほど持つことができるほどの

十分以上の報酬である。



「ありがとよ。シローが欲のない人間で助かるぜ。

 シローは少しお人よしなところがあるが、

 できれば、その素直なところはこんな世の中でも、

 変えずにもっていて欲しいものだ。

 もし、誰かに騙されたりハメられた時は、

 俺がそいつを八つ裂きにしてブッ殺してやる」


そう言って、ギルダーはガハハと豪快に笑う。

殺すという言葉が、ためらいもなく出るあたり

この男も相当な数の修羅場をくぐってきている

ということなのだろう。



「心強いぜ、ギル。でもギルに迷惑を

 かけないように俺の方でも気をつけるさ」


「そうそう。俺のポケットマネーでは

 十分な支払が出来ないことの

 お詫びと言っては何だが、


 王都の伝説の鍛冶師ムラマサに

 お前たちがマホーツから押収した

 アダマンタイト鋼で特別な武器を作らせた

 それを受け取って欲しい」

 

 

「こんなに金貨をもらったのに

 更に、そんな物をもらっていいのか?」



「ああ、もちろんだ。お前には

 その権利が十二分にある。

 まず最初にアダマンタイト製のブーツだ。

 受け取ってくれ」


見た目は、鉄のプレートが随所に

着いた冒険靴だが、ただの鉄の

プレートではなくアダマンタイトである。


アダマンタイトが靴底や、つま先などの

各所に仕込まれており、ちょっとや

そっとじゃ壊れない代物。

特注仕様のシロー専用の武具である。

 


「ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」



「それと、アダマンタイト鋼で作った、

 お前が愛用している短刀用の鞘だ。

 剣を抜かない時でも鞘ごと相手を

 殴れるようになる便利な代物だ」



「アダマンタイト製の鞘、か。

 面白い。剣を抜かずに相手を殴る、

 不殺武器ということか?」



「違うな。れっきとした殺傷用、鈍器だ。

 頭を狙って全力で叩けばヘルム

 越しでも頭蓋を破壊できるという、

 実用的な武器だ」



「剣を鈍器として使う?」



「ああ、そうだ。本来剣は鈍器だ。

 最も多くの人間を殺した剣は切れ味の

 ないブロードソードだ。


 俺たちは、鎧を装備するようになってから

 の剣術戦では、本来は剣は鈍器として

 使うのが一般的な運用法になった。


 刃が欠けることなく、脂や血などで

 切れ味が鈍ることもない。ヘルムの上の

 頭蓋や、鎧の上から剣を鈍器

 のように叩きつけ、撲殺する。

 これは、むしろ剣の用途の王道だ」



「なるほどね」



(そう考えると、逆刃刀は普段の雑魚を殴る

 ときは鈍器として運用して、ここぞという時に、

 切れ味が鈍っていない裏側の刃を使うことが

 できるからおもいのほか実用的な武器

 なのかもしれないなぁ……)



「ありがたく使わせもらうよ。ギル」



シローの愛用の黒色に輝く短剣の刃を、

ギルダーからもらったばかりの

アダマンタイト製の鞘におさめる。



「はぁあ。それにしても、過去に

 魔王を倒した勇者パーティーの

 ご子息様が今回の事件にも関係していたとはね。

 世も末だ。一体、この王都の上層部は

 どこまで腐っているんだかねぇ……」



ギルダーは、シローが紙にまとめた

アダマンタイト鉱山の事件についての

報告書を片方しかない目で

じっと見ながら、ため息をつく。



「それにしても今回は大手柄だ、シロー。

 まさか事件の首謀者を生け捕りにしてくる

 とは思わなかったぜ。アイツの

 尋問の方は俺たちに任せろ」



「分かった。タリスマンの効果が切れた

 重症患者とはいえ、それでも元は

 レベル99の魔法使い、警備は大丈夫か?」



「大丈夫だ。ギルドの地下牢獄で

 超厳重な体制で24時間看守に

 監視させている。万全の状態の

 レベル99相手でも問題のない

 警備体制だ。まぁ、あのバカ女は

 一日中口汚い言葉で奇声を発していて

 気が滅入りそうだ、って報告が

 あがってきているがな」



「ヒステリーが凄いからな。

 看守さんも大変だな……」



「ははっ! 違いねぇなぁ。

 それにしても、勇者召喚の

 ために使う生贄召喚アイテム

 の伝説のアイテム『タリスマン』、

 実在しているとはな」



「それにしても、異世界から勇者を

 召喚をするアイテムを勝手に

 使っても問題なかったのか、ギル?」



「良いわけねぇ。あれは人間族に

 とっては切り札のアイテムだ。

 過去の勇者パーティーの孫とはいえ、

 決して許される罪ではねぇわな」



「タリスマンが、人間族に

 とっての切り札?」



「もともと、人間族と魔族は、

 世界の約50%づつの支配権を持ち、

 双方、相互不可侵不干渉を貫いてきた。

 単純に、戦力が拮抗していたからだな」



「その均衡を、破ったのが

 あの銀色のコイン。

 タリスマンだったのか?」



「ああ、人間族がタリスマンを使って

 異世界から勇者を召喚し、

 魔族に宣戦布告を開始した」



「人間側から魔族側へ

 侵攻したというわけか」



「まぁ……。もともと、相互不可侵不干渉の

 たてまえ大きな戦争が無かっただけで、

 各地で小さな小競り合いはあった。


 これは、人間側の都合の良い言い

 訳かもしれないが、戦争の火種は

 そこら中にあったって事だ。魔族も立場が

 逆なら同じ事をしていただろう」



「なかなか難しい話だな。

 なんとも言えないところだ」



「もちろん、俺たち人間族が勝利

 できた事は、良かったのだが……。

 ただ、それにつけても魔族を殺しすぎた。

 圧倒的な力を背景にした虐殺だった

 ことは事実だ」



「圧倒的な勝利だったのか?」



「そうだ。圧倒的な、勝利だ。

 人間族に破れた魔族の国土の

 3分の2を俺たち人間族に奪われ、

 魔族の人口も10分の1までに減少した」



「10分の1……」



「その大戦争に人間族が勝利し、

 世界の圧倒的な支配者となり、

 人間族が世界の最大勢力と

 なったってわけだ」



「王都の町の中に奴隷に獣人や

 亜人が多いのは、つまりそういうこか」



「そうだ。厳しい事を言うことになるが、

 敗北した種族の末路ということだ。

 勝利した人間族は今ではこの世界の、

 覇権を握っているのだ。ここまでは、

 良い……問題はここからだ」



「問題……?」



「魔族と亜人の領土を獲得し、俺たち人間族は

 領土と、富と奴隷をを手に入れた。

 だが、実際のところその恩恵を

 受けるのは、当時の王侯氏族と貴族様

 だけで、同じ人間族同士の格差はあ大きく

 広がり、むしろ生活は苦しくなっていった」



「上級市民と下級市民の構図、

 格差社会という奴か……」



「ははっ。上級市民? 面白い言葉だな。

 まさにその言葉通りだ。上級市民は

 下級市民を、他の種族と同等、家畜と

 して扱うようになった。

 

 戦争に勝ったのにその分け前は、

 全部貴族様の懐に入った。実際に戦場で

 戦い、血を流した平民たちには

 雀の涙程度くらいの報酬しか与えられなかった」



「それは、酷いな……」



「更に問題だったのが魔王討伐後に、

 勇者が持ち込んだ、異世界文明

 というやつだ」



「マヨネーズや黒色火薬のことか?」



「そうだ。マヨネーズは、心を病んだ

 貧困層がいっときの現実逃避の

 ためにマヨネーズに手を出し、

 そして多くの人間が脳を爆発

 させて死んだいった。

 被害は人間族に留まらず、魔族の

 国にも密輸され被害を与えていた」



「……なるほど。黒色火薬はどう影響したんだ?」



「黒色火薬を使って鉱山開発が

 急速に進んだことによって、ミスリルなどの

 希少鉱物の価格は大暴落。

 

 多くの人間が職を失い、生きるために

 奴隷や盗賊に身をやつした。

 そして、簡単に多くの人間を

 殺傷できることからテロも増えた」



(金本位制度の時代に金の価格が

 大暴落みたいな感じか……

 そりゃきついなぁ)



「お前たちは、良くやってくれている。

 人間族だけでなく全ての種族に、

 甚大な被害をもたらしたマヨネーズ

 密造組織を崩壊に追い込み、

 黒色火薬を世界に流通させていた、

 組織を壊滅に追い込んだんだからな」



「いや、それはたまたまだ。本来負うべき

 責任とリスクをギルドマスターのギル

 が背負ってくれていることに、俺も

 感謝している。ありがとう」



「そんなお前たちに、更なる願いごとを

 するのは心苦しいのだが、相談がある。


 この王都に拡大た新興宗教組織『ジャ教』

 の調査を行って欲しいのだが、頼めるか?」

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