第14話『柔らかな感触とアライグマの恩返し』

むにむに……。シローは柔らかい

感触を手のひらに感じ目を覚ます。


シローは同じベットの中にいる、

ソフィアの胸の感触で目を覚ます。

ソフィアの顔が文字通り目と鼻の先にあった。


すこし動けば鼻が触れてしまい

そうな位置である。

シローは寝ぼけた頭で、

ソフィアの顔をまじまじと見る。


ソフィアは小さい八重歯を

覗かせながら、すやすやと

寝息をたてている。


銀色にかがやく長く艶のある髪と同じ、

プラチナブロンドの長いまつげ。

小さく形の整った鼻。


ふっくらとしたつややかな桜色の唇。

シローは朦朧とした意識から

徐々に覚醒してくる。


精神を落ち着けるために

無意識にさきほどから二房の

こぶりであるが弾力があり

形の良いソフィアの

胸をもみ続けるのであった。




「ペロっ……。これは、犯罪」




シローは混乱のあまり、

意味不明の言葉を発しながら

この状況を整理するために、

高速で頭を回転させる。




(落ち着け……。シロー。そもそも相手は成人済みのはず。あくまでも幼い容姿なだけであり、年は俺と同じ18歳。つまりは仮に何か間違いがあったとしてもこの世界でも地球でも合法のはずだ……。


何も問題ねぇ……落ち着け。そもそも転生時に20歳若返らせてもらっているが以前の年は38歳。こっ、このくらいのことには動じないはずだ……。まぁ、そもそもの問題として俺には転生前ですらその年まで彼女がいた試しはないのだがな。


HAHAHAHAHA。そんなことは関係ねぇ。そもそもこの状況がアウトというならそれこそ成人した女性を幼女のように扱うのは不当な種族差別だ。おまえはこの世界の住人だ。地球の基準で考えるな。


素数を数えろ……素数は1とその数字でしか割れない孤独な数字。 それは私に勇気を与えてくれるっ!幼いのはあくまでも容姿だけなんだ。合法だ。落ち着け。落ち着けッッ!)



「むにゃむにゃ。シロー……。

 ボクはもう食べられないなのぉ……。

 えへへへへへへ……っ」





時は、ちょうど8時間前にさかのぼる。

場所はラクイ家のリビング。


ラクイがマホーツを倒して

くれたことの御礼として、

料理をふるまいたいと

言っていたのであった。



シローと、ソフィアはラクイ家の

テーブルで振る舞われる料理を待つ。



「ラクイさんの手作り料理楽しみなの」


「だな。可愛らしい料理がきそうだ」



キッチンの方から、

コンソメスープのような

美味しそうな良いにおいが

ただよってくる。



「おまたせしたのだ!

 まずは前菜にショゴスープなのだ

 どうぞ召し上がるのだ」


ショゴスとはスライムの事である。

メメントの森に生息する

体内に目玉のたくさんあるスライムを

食材にしたスープがふるまわれる。



ショゴスのゼリー状の体の95%が

水分であり、鍋で加熱するとコンソメ

スープのような旨みのあるスープになる。

毒や苦味は一切なく、食材のために

生まれてきたのではと思うほどに、

食材として優秀な魔獣であった。



ショゴスープはこの村の名物料理

なのである。見た目のインパクトが強い。

目玉の浮かんだコンソメスープという

感じの料理だ。



(目玉料理かぁ……。そういや、転生前の

 俺の派遣先の会社の送別会で行った、

 海鮮居酒屋のアラ汁にマグロの目玉が

 入ってたっけな? 目玉は食べれない

 部位ではないんだったな)



ちなみに、シローの参加したその送別会は

話したことすらない人の送別会だったのだが、

お人よしのシローは断るのも悪いと思い

参加したのであった。



実際は、ただの欠員が出たが

予約人数が変更ができないという

理由で急遽追加されただけだと

いうことが、机の周りの女性正社員の

噂話で分かることになるのだが……。



(まぁ……。目玉はDHAとか栄養が豊富に

 含まれている部分とも言うし。食通

 っぽい人とか、マグロのかぶと煮で

 一番美味いのは目玉だとか言ってたもんな)



これは、グルメ漫画で得たうろ覚えの知識である。

お金のないシローは、白子ポン酢や、あん肝や、

マグロのかぶと煮などの通好みの

料理を進んで食べることはまずない。

主食は牛丼か、タイムセールの弁当だ。



(そういやあの送別会の時の飲み代と

 送別の品代とやらで8000円も

 取られたんだよなあ……。


 二次会のカラオケで5000円

 もとられたし……。 あの月は生活費の

 やりくりが苦しかったっなぁ。トホホ)



派遣社員のシローは、正社員の給料の

半分以下であたが、きっちり割り勘は

正社員と同額請求されたのであった。



(……思い出すと泣けてくるぜ)




そんなあれやこれやを考えながら

シローはショゴスを溶かした、

少しとろみのあるスープを口に含む。




「ラクイさん、このスープうまい……!

 これは、なんというか……あれだ。

 少しとろっとしていてうまいな。

 うん、うまい。コンソメ野菜スープの

 旨みを凝縮したような。そんな味だ。

 健康になりそうな味だ」



家が貧乏でそんなに高価なものを

食べたことのないシローには、

表現の難しい旨さであったが、

シローなりに一生懸命に考えた、

賛辞の言葉を口にする。



(あたたかいスープはやっぱり

 ほっとするんだよな。

 おふくろの味って言うか。

 一人暮らししていると面倒で

 まず作らないもんなスープって)



シローはスープの中に浮かぶ、

ショゴスの目玉をレンゲにすくい口に含む。



目玉を食べるのは、ちょっと怖くて

目玉を口に含む瞬間に目をつぶって

しまったことは、ナイショである。



(なんだ、これは……。舌先で目玉を転がすと、

 目玉のなかからコラーゲン的な旨味が

 つまったスープが溢れ出てくる。

 

 眼球の表面も、柔らかいイカの軟骨のようで

 コリコリしていておいしい。これは、うまいぞ!)



シローが、転生前に目玉料理をうまいと

感じられなかったのは、胃をキリキリ

させながら付き合いで食べたという

理由が大きい。彼にとっては辛い記憶

の一つである。



「シロー。ほめてくれて嬉しいのだ! 

 目玉の中にある、水晶体は少し

 エグみがあるけど癖のある味なのだ」



シローは、ショゴスの水晶体を

奥歯でゴリッと噛む。



「ふむ。確かに、うまい。だけど、凄い

 うまいという感じではないかなぁ?

 なんというか、サンマ焼きの内臓とか

 カニ味噌とか、ウニとかそういう、

 少しクセのある旨味というか、酒が

 好きな人向きな味だな。大人の味って感じだ」


「ふふふ……。

 シローの舌は子供舌なの」



「確かに、大人向けの味なのだ!

 ラクイさんも子供のころは、

 この良さが分からなかったのだ」



「そういうのってあるよな。

 俺もウニとか食えなかったもんな」



「ちなみに、ラクイさんは、ショゴスの

 目玉は甘辛の煮付けにして

 食べるのが好きなのだ~」



隣の席に座っている、ソフィアが

シローの袖をひっぱり、小声でつぶやく。



「実は、ボク、目玉食べるの。

 ちょっと怖いなの」



「俺も怖かったけど。食べて見たら

 うまかった。コラーゲンたっぷり

 って感じだ。肌にも良いかもよ。

 嫌なら俺が食べようか?」



「ありがとう。シロー。

 でもボクも勇気を出すなの」



ソフィアはレンゲの上に目玉をのせ

おそるおそる口に含む。

ソフィアも口に含むときに

目をつぶっていた。



「おいしい……なの。ちょっと

 食べるとき勇気がいるけど、

 とろっとしていてうまいなの。

 スープは、なんというか

 ほっとする味なの」


「わかる」



前菜のスープを飲み終わる頃に、

ラクイはメインディッシュの

ステーキを運んできていた。



「次は、メインディッシュのディープワンの

 ステーキのなのだ! おかわりはたくさん

 あるから好きなだけ食べるのだ」



ディープワン。半魚人系の魔獣である。

二足歩行ではるが亜人や獣人ではなく、

あくまでも魔獣であり、


見た目が似ているだけで、

遺伝子的には牛と人くらいの

隔たりがあるのであった。



「うまい! クセもなく程よく噛みごたえが

 あって、噛むほどに肉汁が

 あふれ出してくる。焼き加減も、

 ミディアム・レアでちょうど良い」



「クセがないからいくらでも食べられそうなの。

 魚人の魔獣肉。なかなか侮れないなの

 肉の中にかすかな魚の旨みがあわさって

 絶妙な、旨みになっているなの」



食べやすいように、一口大にカット

されたディープワンの肉をフォーク

に刺し、ドンドン口に運んでいく。




「「おかわり」」



「やつぱステーキにはこれだね。

 にんにくと香草の味付けが絶妙!」



「はぐはぐ……おいちーなの。

 魔王城の見た目だけ綺麗な

 きどった料理よりも、

 ボクはこっちの方が好きなの」



「おろし玉ねぎのソースもうまい。 

 塩レモンもうまい! 肉最高だ!」



「褒めてくれてうれしいのだ!

 そんなシローとソフィアに

 ラクイさんはとっておきの

 お酒をプレゼントするのだ」



古びた木の箱に納められた

非常に高価そうなお酒、

その名も黄金の蜂蜜酒。



「へーなんの酒なの?」


「この村特産品の

 はちみつのお酒なのだ」


「ソフィア酒飲んで大丈夫なのか?」


「ご……合法なのよ」


「なるほど。合法なら大丈夫だね

 それじゃ、かんぱーい!」



黄金の蜂蜜酒は、その名の通り

琥珀色の甘いお酒である。


シローは酒の味はあまり分からないが、

カシスオレンジや、カルーアミルク

などの甘いお酒は好きなので、

好きなタイプの味のお酒あった。



二人は乾杯のあとに、甘くて

飲み口が優しいお酒だったので、

ごくごくと飲んでしまう。



だが、この黄金の蜂蜜酒は

口当たりの良さに反して

非常に度の高いお酒であった。



「これあみゃくてうみゃいにゃの」



「あはは。しょふぃあ。くちゅがまわて

 にゃいじょぉ~。ひょっぱらったかぁ?」



「ははっは。しょんにゃこと

 にゃいにゃのよ~。それに

 してもシローはにゃんで

 3人に増えているにゃの?」



「あれ、俺またなんきゃ

 やっちゃいましたかぁ?」



「シローがひゅとり

 シローがひゅたり

 シローがしゃんにん」



「ひひゃひゃひゃひゃ」



シローとソフィアは、

ネットでよく見るあの

あの宇宙を背景にした猫の

表情になったまま意識を失う。




これが8時間前の出来事である。

そして、時間は8時間が経過。



シローとソフィアの眠るベットである。



ガチャリとドアを開けてラクイが、

部屋に入ってくる。



「俺……。昨日、ソフィアになんか

 しちゃってたりしますか?

 お酒のんだ後の記憶がなくて」



「シローとソフィアは黄金の蜂蜜酒

 を飲んだあとは意識を失ったから、

 同じベットに寝かせておいたのだ」



「なぜ、同じベッドに?」



「ツガイなら一緒のベッドにした

 方が良いと思ったのだ。

 何か問題があったのだ?」



「いや俺たちそういう

 アレじゃないんで……」



数秒ラクイは沈黙した後で、

何かを察したようで、

一人でうんうんとうなずく。



「二人は、家庭内別居状態の仮面夫婦のだ?

 ラクイさんのパパイさんとママイさんも

 そういう感じだったのだ。だから、

 ラクイさんはあまり関心しないのだ。

 できれば二人には仲良くして欲しいのだ」



(さらっとヘビーな告白がきたな

 ラクイさんも苦労していたのだ)



シローの隣で、寝ていたソフィアは

寝ぼけまなこをこすりながら

シローの顔を見つめる。



「わっ! 顔が近い。おはようなの」



混乱と、寝ぼけ頭のせいか、

シローに朝の挨拶をしてしまうソフィア。

朝の挨拶を忘れないあたり、育ちの良さを

感じさせる魔王なのであった。



「お……。おはよう。ソフィア。

 この状況は、あとで説明する。

 まずは落ち着いて欲しい」



「うん! よく分からないけど、

 分かったなの。気にしないなの。

 シローは何も悪くないなの。

 あの強いお酒を飲んだら、間違いが

 あってもおかしくはないなの。

 責任があるとしたらシローだけでなく

 ボクにも責任があるなの。

 もしも……。もしもがあったらっ

 二人で責任をもって育てるなのっ!」



ソフィアは桜色に頬を赤く染めて

シローを慰める。どことなく

照れと喜びを感じさせる顔だった。


慌てるのではなく、まず最初に

相手の気持ちを気遣うあたりは、

さすがは、魔族を束ねる王たる

風格を感じさせるのであった。


ソフィアは今の状況を勘違いしながらも

まじめに、熱く語るのであった。




(ああ……。まじめかわいいソフィア。好きだ)




その一瞬のピンク色空間を、

ラクイの咳払いが打ち払う。



「シローと、ソフィアに折り入っての

 お願いがあるのだ。聞いてくれるのだ?」



「おっ……おう。何でも言ってくれ!」



「ボ……っボクも、ラクイさんの

 言うことなら何でもきいてあげるなの!」




「ラクイさんも一緒に二人の冒険の

 おともをさせてほしいのだ!」

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